皇帝器伝
ガリア遠征には、カエサルはガリアの征服のほかにも、成し遂げたいことがあった。それは書物にある「刻の器」もしくは「皇帝器」と呼ばれる、巨神の発見である。
カエサルも、最近になってそれを知った。東方遠征をし、若くして死んだアレキサンダー大王。彼が探し求めた秘宝。それが書物の伝承にある巨神である。彼はその正確な位置を知らなかったし、まず彼はペルシアとの戦いがあった。その後も東方へと足を延ばしたのだから、ガリアの地に足を踏み入れることはなかった。カエサル自身、偶然見つけたその書物。それには、ガリアの地に眠る、と記されていた。
「皇帝器、ユグガサ。それを得たものは、全てを手に入れるであろう。時も、世界も、次元すらも・・・か」
美丈夫カエサルが馬に跨り、呟く。何万の軍勢を率い、ガリアの蛮族を制圧したが、皇帝器を探す時間はなかった。カエサルはローマに帰っていく。
カエサルが再び、ガリアの地に来たのは、第一次三頭政治初期の頃である。約一カ月にもわたる期間を彼は兵士と共に皇帝器を探していた。ローマを守る盾。それをカエサルは求めていた。いずれ、ローマもまた滅びの道をたどる。それが人の世の摂理である。それを知らないカエサルではない。故に、世界すら手に入る、という皇帝器に賭けてみたい、と思ったのだ。
そして、天はそのカエサルに皇帝器を与えたのだった。
失意のまま、帰ろうとするカエサルのもとに、一人の兵士がやってくる。
「見つけました!皇帝器を」
「何、どこにあるのか?」
「こちらです」
向かう先は森の奥深く、霧の深い魔の地。原住民でさえ、立ち寄らぬ底にカエサルは踏み込んだ。まるでそこは神話の世界であった。カエサルはこんな森のどこに皇帝器があるのかと、兵士を問いただした。だが、兵士の姿はなかった。今さっきまでそこにいたはずなのに。
「ええい、ままよ」
そう言い、歩を進めるカエサル。
そのうちに遺跡へと周囲の景色は変わっていた。それでも、歩みを止めることなく、ただ奥に進むカエサル。地下へと続く階段を降りながら、カエサルは思う。
(優れた文明の跡。一体かつてこの地はどんな種族が栄えていたというのだ?)
未知への興奮で彼の体は震えていた。彼は恐れを抱くと同時に喜びに震えあがっていた。地下へと続く道を松明で照らす。辺りには見たことのない絵や文様が書かれている。
「・・・・・素晴らしい」
遂に奥へとたどり着く。上を見ると、逆ピラミッドがある。地上から、何時間歩いたことだろう。だが、そんなことは関係ない。疲労さえ感じない。ただ目の前の灰色の巨神のみをカエサルは見ている。
石造のような、だが、何かが違う。その姿はまるで神のようであった。
「なるほど、皇帝器、か・・・!」
笑みを浮かべるカエサル。これほどのものとは、思わなかった。
(これさえあれば、ローマ、いや、世界さえも手に入れられるであろう)
「皇帝器、ユグガサよ!我が名はユリウス・カエサル!!世界の王となるべき男だ!我にその力を貸し、共に世界を手に入れようぞ!!」
そのカエサルの叫びを聞きいれたかのようにそれは動き出す。そして、その腹部が開き、カエサルを招き入れる。
「ふふふふふ、はっはっはっはっは、はーはっははっはっはっははあぁ!!!」
狂ったように笑うカエサルの声が響いた。
カエサルはこの後、ユグガサによって政敵を倒し、ローマの独裁者となった。圧倒的なその力で周辺部族を取り込んでいった。
しかし、彼は暗殺されてしまう。独裁者の力を危惧する者たちによって。彼らはカエサルの持つ、ユグガサも手に入れようとするが、既にそれはなかった。カエサルの甥、オクタヴィアヌスは、カエサルの死んだ後にはユグガサを託す、という旨の手紙を受け取っていた。彼はそれに従い、皇帝器を駆ってローマを飛び出した。
それが彼の運命を大きく変えることとなる。