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ヒーローってなんだ?

本当のヒーローとは何かを、考えたことがある。

戦隊ヒーロー。

悪を裁くヒーロー。

人を助けるヒーロー。

人のために立ち上がるヒーロー。

自身を守るために戦うヒーロー。

己が人生を燃やすために前に進むヒーロー。

ヒーロー。

ヒーロー。

ヒーロー。

それがより具体的な形となり、世界中に『ヒーロー』と名のつく者たちが台頭してきた。

この世界を脅かすヴィランが現れて早十年。

この世界はすっかりヒーロー業という職が板についていた。

「…………」

他の国では呼び方が違う。

怪物だったり怪人、魔人――それは様々だが、一応にして敵の在り方は変わらない。

人類を脅かす敵であること。

これに関しては一ミリも認識はズれていない。

宇宙の影響だか何だか知らないが、人間に力を与えた不思議な力――『フォース』。

それが人類をまたとないステージへと駆り立てたのは言うまでもないが、そのフォースを使って悪事を働く人間がいることも変わりなく。

そんな化け物みたいな人間を捕まえ、罰するのがヒーローだった。

「…………」

けれど俺にとっては、ヴィランなんて目ではなかった。

拳を振るえば敵は倒れ、蹴り上げれば宙を舞った。

ヴィランがヴィランたる実力を、俺に勝る実力を持ち合わせていなかった。だから苦戦することも追い込まれることもなかった。

「ぶっ殺してやんよ、クソヒーローがっ」

身体を火だるまにして突っ込んでくる炎系のフォースを持った男。

俺を掴んで一緒くたに燃え尽きようとしているのかもしれないが、身体強化が極まった俺にはさして重要ではない。

蝋燭の火をかき消すように手で仰ぐと、彼の身体から火が消し飛んだ。

ブランと下げて素っ裸の男が俺の前に居るだけ。

そして抱き着いてくる。

「ハハハハハハッ! ――あ?」

そして気づく男。

俺を見上げて、そして苦悶の顔。

腹にめり込む俺の拳。膝から崩れ落ちて、ピクピクと痙攣していた。

一瞬だった。

幼い子供を狙った男を捕まえようと追いかけ、路地裏に誘われてこの状況。

相手にとっては相手が悪かった。

「けどこれ……どうやって連れ出すの?」

俺とこいつの闘う状況証拠が取れていない。しかもこいつが狙ったというのも俺が未然に防いだため、そもそも事件にすらなっていないから証拠がない。その犯行にためらいが無かったから、家宅捜索とかすれば証拠が出てくるかもしれないけれど、やはりその口実がない。ただの疑いだけで家に入ろうとする方がむしろ犯罪だ。今のこの状況だけを見ればむしろ俺が男を襲ったと思われても仕方がない。

「とんずら……するにも放っては置けないよなあ」

地面に伏して気絶する全裸の男。

バカみたく、燃える前に投げ捨てた財布を拾い上げて、免許証を見る。

「何だ近いな。じゃあ……」

こっそりはいって晒し上げるか。

鍵も手に取って、俺は路地裏を後にする。

ここから数分のアパート。

だが探せば探すほどいくらでも出てきた。

「ああ、これは恐ろしいなあ」

目に余るほどの凄惨さ。

これもこれも、行方不明者として出ている。

全部子供だ。

「こいつかあ……」

俺はポケットからスマホを取り出し、電話する。

「もしもし、ヒーロー警察か? 嗚呼、ヒーローナンバー596番だ。ちとやばい案件が出てきてな。俺だけじゃ解決できないことなんだ。来て見た方が早い、住所は――」

そして来た道を急いで戻った。

全裸の男が見知らぬ男性に介抱されている。

しかしその男が俺を見ると途端に逃げ出した。

全裸で。

介抱していた男が俺を見るが、無視して横を突っ切る。

男の脚を蹴り飛ばしてへし折る。両の脚を。

悲鳴を上げる男。けれど俺はポケットから小さな機械を一つ取り出した。それを男の手に当てると、手錠として機能して彼を拘束する。

バタバタと痛みで暴れる男。

丁度その時、連絡が入った。

「容疑者を確保している。GPS情報を送る」

そしてスマホを操作した。

ほどなくしてヒーロー警察が現れる。

「少し過剰じゃないか?」

ヒーロー警察にそう言われた。

今も昔も、日本は犯罪者に甘い。

「逃げようとしたからな。仕方ない」

本当はただの腹いせだ。この男のしたことに比べたら、両足が折れるくらい大したことない。

「お、俺は何もやってねえッ! こいつがいきなり襲い掛かってきたんだっ」

「か、彼の言っていることは本当です」

一連の流れを目撃していた男がそう言った。

その一連の流れだけを切り取れば。

「話は署に行ってからするからさあ」

俺はそう言って路地裏から出た。

パトカーが二台ほど止まっている。

「先に行ってるぞ」

フォースを使い、身体強化してその場を後にした。行先はここからほど近い警察署だ。

ほどなくして、全裸男を乗せたパトカーがやって来る。

そのパトカーには治療系の能力がいて、病院入らずでこのままここまで男を連れて来たらしい。

尋問が開始され、ほどなくして男は逮捕された。

「職務としては少し行き過ぎた調査だった」

として、俺は減点を受けた。

ま、正規の手続きを踏まずにやったことだから仕方がないとはいえ、これがヒーロー警察のすることかと感じた。

俺があそこで放置していたら、子供の行方不明事件が未解決のままだったのに。

「ヒーローってなんだ?」

困っている誰かを助けるために、守るために成ったヒーロー業。けれどその本質はこれまでの在り方と何も変わっていない。

「ほんと、馬鹿馬鹿しい」

警察署横の休憩所でタバコを吸っていると、大人が二人、四人と駆けこんできた。おそらく行方知らずだった子供の両親だろう。涙を浮かべ、そして絶望に付したような顔で中に入っていった。

「遺体をもう見つけたのか?」

フォースを使えば一瞬だ。

だがより強い痕跡がない限り追うことは難しい。痕跡を消すフォースのパッチが世に出回ってもいるのだ。探索もしくは追跡系のフォースであっても、よほどの強い力でない限りは困難だ。

そして子どもの行方を知れず悲しんでいた家族が、ようやくつかめた末路。酷い末路だ。

それでも迎えることはできた。所在を知らずにそのまま終わりを迎えるなんてそれこそ悲しすぎる。

けれどこの仕打ち。減点。

今も昔も何も変わらない。

これがヒーロー像ってものなのか?

「むしろ複雑になっちまったよなあ」

フォースが世に浸透したとはいえ、やはり人間。

イタチごっこだ。

「はあ……」

テレビで紹介されるようなヒーローには名前がある。活躍するヒーロー。カッコいい仮面ライダーや戦隊ヒーローが具現化したような存在がいる。けれどやはり、ヒーローの大半はこのように泥臭い日々を送っている。ヒーローは常にこうした悪と対峙することなる。見たくもないものを容赦なく突きつけてくる。

小さい頃日曜日に見ていた特撮は、やはり特撮だった。

現実はそうもいかないのが真実。

けれどやらなくてはならない。

それがヒーローとしての役目。

泥臭いヒーローとして。

「……パトロールでもするか」

今日は非番だった。

けれどやはり、それでも事件に巻き込まれる。

ポケットからヒーローバッジを取り出して胸元に取り付け。

俺は警察署を後にした。


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