異世界転生で復讐を果たす宮廷料理人
ショートショートなので、基本的にギャグです。
異世界転生で復讐を果たす宮廷料理人
オレは、転生者だ。
この異世界に転生し魔法も使えない身で、転生前の世界の知識を活かして
今は宮廷料理人として活躍している。
今度、エンドリオン帝国で宮廷料理コンテストが開催されることになった。
エンドリオン帝国は、この異世界で最も繫栄している国だ。
オレはようやく長年求めていた復讐のチャンスをつかんだ。
この日のために料理人として腕を磨き、準備をしてきたのだ。
王族、貴族は普段美味しいものを食べているので舌が肥えている。
ありきたりな料理では、いくら美味しくても予選通過も覚束ない。
つまり、料理に独創性も求められるのだ。
そこで、転生前の料理知識をフル活用する作戦だ。
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予選で、オレはクロケットを作った。
クロケットとは、要はコロッケの先祖のようなものだ。
ただ、この世界にはジャガイモがないので、タネはカボチャにした。
当然、同じような料理が、この世界にはないので、楽々予選を突破した。
本選は、予選の料理を更に発展させたものを求められる。
オレは、ソースに工夫を凝らした。
ライバルと差別化するためにオレは和風出汁を使うことにした。
この国の水は硬水で出汁との相性が悪い。
なので、水魔法でつくった軟水を用意しておいた。
大豆のもろみから密かに作った醬油を、出汁と合わせる。
そのまま、コロッケにかけるとベシャベシャになる。
そこで、和風出汁からあんかけソースを作る。
片栗粉は、この世界にはないので、あんかけソースのようなものも存在しない。
前々からこの日のために苦労して準備した片栗粉を取り出し、和風出汁に加えて手早くかき混ぜる。
両面をこんがり焼いたコロッケにあんかけソースをかけると、和風の旨味が効いた料理になった。
これは、あんかけソースの独特のドロッとした食感と出汁が好評で決勝に進取した。
ついに決勝だ。
オレはコロッケを茹でたパスタの上に乗せた。
斬新な料理にするため、パスタの材料は小麦粉ではなくそば粉にした。
ガレットで使うので、そば粉は、この世界でも手に入る食材だ。
その上から、あんかけソースをかけると、審査員の貴族たちが絶賛して優勝した。
優勝した料理は、帝王自らが賞味する栄誉を得る。
鑑定魔道具で毒が仕込まれてないことが確認されると、料理が帝王の前に運ばれた。
ここで、オレの復讐は完成する。
「お待ちください。この料理はまだ完成してません。」
オレはうま味の利いた熱い出汁を料理にかけた。
コロッケの上に直接かかるのを慎重に避けて、パスタがタプタプになるよう出汁を深皿に満たしていく。
熱せられた出汁がホカホカと湯気を立てて料理を満たし、パスタに染み入り、料理の美味しさを嫌が上でも増していく。
フワッと立ち上る香りに帝王がゴクリと息を飲む。
ついにここまで来た。オレは今こそ復讐を果たすのだ。
このコンテストの優勝者は料理界の最高権威と称えられ、帝王に直接料理の味わい方を指導する権限を与えられる。
「出来れば、パスタは食べるのではなく、音を立てて飲み込むようにしてください。」
「その方が、パスタの触感をのどごしに味わえますし、鼻に抜ける香りも楽しめます。」
「陛下は帝王です。臣下を気にすることなく思う存分、音をたてて食べるべきかと愚考いたします。」
「うむ!其方の申す通り、こうして食べるとうまさが倍増するな。」
帝王が、ハフッハフッ、ズルズルと料理をすする。
それを見ながら、周囲の王族や貴族はうらやましそうに眺めている。
后がはしたなくもゴクンとのどを鳴らしている。
転生前、オレは安サラリーマンで、給料日前は金がなく、よくコロッケそばを食べていた。
その姿を女子大生や女性社員が軽蔑したような目でみてたっけ。
そのコロッケそばを、世界一の帝王が今うまそうに食べている。
それを眺めて、オレはほくそ笑んだ。
「スプーンは使わず、スープを皿から直接飲み込んでください。」
「その方が、コロッケの残りが美味しく呑み込めます。」
ごくごく、プハー。帝王は旨そうにスープを飲みほした。
当然だ、オレが腕によりをかけて出汁を取ったからな。
オレは絹のハンカチーフを差し出した。
帝王は、勢いよく鼻をかんだ。
この作品は、きじまりゅうたさんの料理にインスパイアされました。