最近、俺の幼なじみがやたらと素っ気ないんだが……。ひょっとして俺、こいつに嫌われてる?
「おう、綾、おはよう。もう来てたのか……今朝はいつにも増して早いな?」
俺がそう言うと綾は、やや遅れて言葉を返す。
「……ああ、空くん。おはよ」
俺と、俺の幼なじみである月島綾は、家が近所で付き合いが長い上に、同じ高校ということもあって、毎日一緒に登下校をしている仲だ。
……だが、こいつが最近、俺にだけやたらとそっけない。
もともと綾は人付き合いや感情表現が苦手なタイプなので、最初はあまり気に止めてはいなかったのだが、こんな状態が1ヶ月、2ヶ月と続くと、嫌でもある可能性が脳裏をよぎってしまう。
(……ひょっとして俺、綾に嫌われてるんじゃね?)
嫌われるような事なんてした覚えなんて全くないけど、ここ最近の綾の態度を振り返ってみると、どうしてもそうとしか思えない。
最初は「時間がたてばどうにかなるか」と高をくくっていたのだが、もはやそんなこと言ってられるような状況ではないだろう。
(……とりあえず今日、なにか探りを入れてみるか)
俺はそう思い立つと、綾をつれて学校へと歩き出した。
学校につくと、さっそく1時限目が始まった。
ちなみに、綾の席は俺の席からひとつ前の位置にある。
……まず調べるはボディタッチへの反応だ。
年頃の男女とはいえ、10年近いつきあいなのだから、普通ちょっとやそっと触れたくらいで反応したりはしないだろう。
俺は、綾に触れる機会をじっとうかがう。
先生や他の生徒たちの目にとまれば、あらぬ誤解を招きかねない。
……タイミングは慎重に見定めねば。
先生が、こむずかしい公式の説明をし終え、それを黒板に書きうつそうと後ろを向くと、それに続いて、クラスメイトたちも板書をし始めた。
(今だ!!)
俺は綾のほうへ腕を伸ばすと、指先で綾の背中を軽くなでる。
サワッ
「ひゃんっ!?」
綾は、やたらと可愛らしい悲鳴を上げたかと思うと、直後、こちらを非難がましい目で睨みつけてきた。
「…………急に何?」
「あ、いや……別になんでも無い、です……」
綾は俺の弁明をきいてもなお、怒りのためか小刻みにプルプルと震えている。
……少し背中をなでたくらいでここまで反応するなんて、……そんなに俺にさわられたのが嫌だったのか?
俺はなかば確信に変わりつつある疑念のせいで、その後の授業もまるで頭に入ってこないのだった。
昼食時間。
いつものように友達数人とご飯を食べていると、そのうちの1人が唐突に口を開いた。
「……なあ寺田」
「うん?」
「なんかさ、月島さん、めっちゃお前のこと見てね?」
「……え?」
綾は今、俺からは見えない教室の後ろの方で友達と昼食をとっているところだ。
俺は、綾に悟られないよう、携帯のインカメを利用してこっそり後ろの様子をうかがう。
「……ッ!?」
見てた。めっっっちゃ見てた。
(……ひょっとして1時限目のボディタッチがそんなに嫌だったのか!?)
もはや俺の疑念は確信へと変わっていた。
間違いない。俺、こいつにめちゃくちゃ嫌われてるわ。
俺は、幼なじみに嫌われたショックと困惑で、その後はほとんど食事が喉をとおらなかった。
放課後。
綾と2人で帰っている時、俺はいよいよ決心した。
(綾も、このまま嫌いな奴と登下校なんてしたくないよな……)
引っ込み思案な綾のことだ。
おそらく俺のことが嫌いでも、「あなたのことが嫌いなので、これからは別々で登下校したいです」なんて言い出せなかったんだろう。
ーー俺から切り出さなくては。
このままこんなこと続けてても、綾が嫌な思いをするだけだ。
俺は重々しく口を開いた。
「なあ、綾。今日はちょっと話したいことがあるからさ、どこかちょっと寄り道して行かない?」
「う、うん……。別にいいけど……」
綾の顔に、戸惑いの色が見て取れる。
……無理もない。誰だって嫌いな奴と長くいたくなんかないからな。
俺たちは、近所の小さな神社を訪れると、2人で並ぶようにして濡れ縁(神社にある縁側みたいな場所)に腰かける。
「……それで、話ってなに?」
綾の言葉を受けた俺は、ポツリと言葉をこぼした。
「……綾さ、なにか俺に、言いたいことあるんじゃないのか?」
俺がそう言うと、綾のからだがビクッと軽くはねた。
「ふぇ!? ……いや、全然、特にない、よ……?」
さすがに反応が露骨すぎる……。
俺は、綾の否定を受けてもなおさらに言葉を続ける。
「別に隠す必要ないだろ。俺のことが嫌なら、そう言ってくれた方がこっちとしても助かるし」
「…………へ?」
綾がキョトンとした表情になる。
どうやら意地でもとぼけ通すつもりらしい。
「いやだって、今日俺が背中触ったとき、過剰に反応してただろ」
「いや、あれは、急に空くんに触られたからびっくりしただけで……」
……普通、いくら突然のことだからといってあんな風にはならないだろう。
それに……
「それに、昼食時間も俺のことずっと睨んでたじゃん」
「え? ……いや、それは、普通に見てただけで、別に睨んでた訳じゃ……」
いやいや、さすがに白々し過ぎるだろ……。
昼食時間中ずっと俺のこと睨んでたくせに。
……もうこれ以上追求しても、綾が腹を割って話してくれる事はないだろう。
「……とにかく、綾が俺のことが嫌いなのは分かったから、明日からは別々で登下校しようぜ。……んじゃ、俺もう帰るから」
「え、ちょっ、待って……ッ!」
綾は、そう言って立ち上がろうとする俺を、覆いかぶさるようにして引き止めた。
瞬間、2者の距離は一気に近づき、互いの鼓動、体温、息遣いまでもが交差する。
綾が、顔を赤らめさせながら俺に語りかける。
「その……信じてもらえないかもしれないけど、私、ほんとに空くんのこと、嫌いなんかじゃないよ?」
綾は、そう言って大きく息を吸い込むと、呼吸を整え、改めて口を開いた。
私は……空くんのことが
……俺は、この時、この場所で為されたやり取りの一言一句、2人の呼吸の間、……そして、ふいに綾の口をついて出た本心の吐露を、未来永劫に忘れることはないだろう。
◆◇◆◇
「ちょっと空くん、もう8時だよ。早くしないと、会社遅れちゃうよ!?」
「おう、綾、おはよう。今朝も早いな」
「空くんが遅すぎるんだよ……。まったくもう……」
俺は、いつものように綾のモーニングコールで叩き起こされると、急いで支度を済ませ、綾と一緒に家を出る。
彼女の名前は寺田綾。俺の幼なじみであり、同じ会社の同僚であり……俺の大切な家族だ。
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