お嬢さまとレアの再会
滞在して二日、ようやく自領地に帰される。
竜の一軍によりルティーシュ家親子と空の旅へ出発した。竜はパートナー以外は拒絶するかと思いきや、パートナーさえ付いていれば、第三者も許容してくれるのだそうだ。ただし竜個体の性格にもよる。
なのでレアは行きは竜の牙に引っ掛けられていたが、帰りは安全に鞍に乗せてもらえた。
「これを着ているといい」
ラウの手で毛皮付きの上着に包まれた。でも、と脱ごうとすると強引に留め具を留められた。
「上は冷える。風邪を引かせたくはない」
裾はくるぶし丈どころか地面に着いてしまっていたし、袖は指も出ないほど大きい。説明はなかったが多分ラウの私物か。反対にラウは軽装だ。
「ラウさんは厚着しないのですか?」
「空を飛んでもイアルイドの上なら寒さを感じにくいんだ」
にわかには信じがたい、とレアはラウに目を細める。
「俺たちはたいがいそうだ。竜騎士になったから上空で寒冷に鈍くなったのか、元から鈍い者が竜騎士に選ばれやすいのかは謎だが」
「痩せ我慢はなさらないでくださいね?」
「何のために?」
はは、とラウは柔らかく笑う。レアも確かに見栄を張ってもよいことはない、と納得してともかく裾が汚れてしまわないように持ち上げた。
イアルイドの背中は広くて、二人乗りの鞍でもそこまで密着はしない。緊張のせいか借りた上等な上着のせいか、寒さもそこまで感じなかった。
竜に乗ったなどとお嬢さまが知ったら羨ましがられるだろうか。狡いと裏で嫉妬を剥き出しにするような方ではないけれど。彼女にこそ体験してほしかった貴重な機会を自分が先に経験してしまっている引け目のようなものを感じていた。
馬で何日もかかる旅程を、竜なら一時間もかからないことに感動する。地理も道の悪さも無視しての旅は格段に楽だった。川を悠々と横断できる。夏でも上空は寒いので、冬にはもっと難儀するだろうけれど。
アルデコチェア家の庭でレアがもたもた竜から降りている間に、スターサル領主夫妻は一足先に地面に着いていた。さすが慣れている。アルデコチェア夫妻と握手をして挨拶を交わしていた。
「レアーー!!」
毛皮付きの上着をラウに返していると、二日ぶりの、透き通るような声が近づいてきた。駆けてきたお嬢さまを抱きとめる。
「アフロディータさま、お側を離れてしまい申し訳ございませんでした」
「そんなの! レアが怪我しなくってよかったわ」
ぐすん、と涙を抑えながら、ふんわり微笑む。レアを乗せてきた、事件の元凶イアルイドがぴすぴすと鼻を動かしてアフロディータの匂いを嗅いでいる。
「もう、レアに怖い思いをさせないでよね、イアルイド」
「パートナーの俺が不甲斐ないせいです。深く謝罪いたします」
アフロディータが横を見ると、遅れて降り立ったラウが敬礼をしていた。お嬢さまも礼をとる。
「わたくしの大事な侍女を、もてなしてくださったと手紙で読んだわ。ありがとうございました、ラウ」
どうぞ屋敷の中へ、と立派に案内を務めている。
レアはお嬢さまと一緒に座らされ、話を聞いていた。侍従なのだから立っているべきなのだが、アフロディータが渋れば座るしかない。ルティーシュ家当主アルザエルが経緯を説明するのをアルデコチェア家側では穏やかに耳を傾けている。