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お嬢さまと引き離されたレア

 レアは悪党たちの話を聞かされていた。


「ラウ・ケルドセンにはどのグループも戦力をもがれてきたんでね。騎士団の(カシラ)一人でも懲らしめれば力を示せるだろ」


 竜狩りをしているこの賊たちを成敗し続けてきたのは正統なる竜騎士たち。それを逆恨みしての犯行だと言う。


「昼間は団長さんには手こずった。ぜってぇ近寄らせないんだもんな」


 あの人混みの中での誘拐を見計らっていたらしい。冷や汗が増えた。ラウがぴったりと寄り添って守ってくれていたのに、離れた途端にこれだ。祭りで夢心地の気分でいたのが馬鹿みたい。


「そろそろ指定の時間だ。あっちで請求した全額が来ているといいがな。オレたちはトンズラだ」


 縛られていたレアの足だけ解かれた。腕を持って立たされて、強制的に外に連れ出される。今度は激しく暴れたりしなかった。お嬢さまがこの場にいないのに、無駄な抵抗は身を危険に晒すばかりだ。


 それよりも隙を見落とさないように気を張る。

 一瞬でも男の力が緩めば迷わず走って、とにかく逃げなければ。

 この人数を、武器を持つ男たちを相手に? 腕を縛られたままで。靴どころか靴下もない裸足でどのくらいの距離を稼げるというのか。


 ギィオオ、と慟哭が聞こえる。


 竜が、来ているのだ。その場の誰もが上を見上げた。

 男たちが音源に気を取られている間に、メリアデグがレアを引きずり木々の間に駆け込む。


 翼を閉じて、巨体は地面に垂直に落下した。根城の入り口ぴったり真上。岩肌は削られ洞窟は塞がれる。中に何人もいたはずだが、瓦礫に埋もれて身動きはできないだろう。

 怒りを込めた(いかづち)のような下降だった。速さのせいで、登り始めた朝日と鱗の色が混じりまるで紫の線が天から伸びたよう。

 そのあまりの荘厳な巨体は追突のダメージもなく立ち上がった。砂埃が、落葉が周囲に舞っている。


 隠れ家を失った首領の足下にコロコロと小石が転がり靴に当たる。呆然としていた自我を取り戻した。


「おい騎士さんよぉ、どこに行った! 姿を見せな、こっちにゃ人質がいるぞ!」


 巨竜は底冷えする目線を送った。生き残った首領がきょろきょろとこの場にいるはずの竜騎士を探す。剣を抜いた。


 ギィィィオオオオオオ!!


 竜の叫びが空気だけでなく人間を震わせた。

 あまりの音量に聴覚と平衡感覚を失い、男は剣を落とし地面に倒れた。おぞましい雄叫びに怯えたのではない、知らぬうちに手足を斬られていた。いったいいつの間に、と目玉だけを動かすとなにか光を反射するものが森へと溶け込んでいった。


 地震かと思えるほどの揺れが起こり、レアは足踏みをして、なんとか均衡をとり戻した。


「早く! こっちっす!」


 肩を掴むメリアデグと暗い緑に紛れながら逃走する。


「ま、待って! 縄を切って! そのほうが早く走れるわ」


「オレの竜をそこに待たせてあるっす。その後に」

 

 空の上に安全に逃げ切ってから縄を切るのか。

 そうは言うが、両腕を後ろに縛られていては思うように体を動かせない。足場も悪い。地べたに寝かされたために汚れた髪が目に入って生理的な涙まで出てきた。


「動くな!」


 あの竜(きた)ればこの男あり。しかしラウのここまで厳しい声は、初めて聞く。

 メリアデグとラウの視線が交わった。


「団長。オレ、レアさんをアルデコチェア家まで送るんで、先に行くっす」


「いいや。その場で膝をついて両手を上げろ、メリアデグ」


 この場を支配する異様な緊張感はなんだろう。仲間同士の合流にしては殺気立っている。

 きっとメリアデグの覆面のせいだ。それで状況を勘違いさせている。服装こそ野盗の真似をしているが、彼は味方であると説明しなければ。


「ラウさん」


 彼を目指して来た道を戻ろうとすると抵抗があった。枝かなにかだろうと振り返る。レアを掴んで引き留めたのは、彼女を逃がそうとしてくれていたはずのメリアデグだった。


 レアが彼の上司である団長のところへ行くのに、なぜ彼が嫌がるのか。そもそも団長の命令を新人のメリアデグが無視するのはまずいだろう。もしかして、潜入は騎士団で計画されたものではなかった?


 なにをするの、と訊こうとして、一気に片腕で首を締め上げられる。


「団長さんにずいぶん大事にされてるから、リングロウのお嬢さまとまた別にあんたを狙ったほうが食いついてくるだろうって。正解だったみたいすね」


 口振りから、寝返ったなどでもなく、最初から盗賊団の一味だった。宿で護衛と見張りをしていた彼こそが手引きをしたのか。


「あな、た、竜騎士なのでは……」


「そうすよ。竜に乗れる騎士さまっす。薬漬けの竜に、ね」


 偽物の騎士。竜を誇りではなく毒を盛り操って調教する輩の一端だった。


「団長、下がってください」


 最低最悪の外道を前に、レアは手も足も出なかった。じりじりと少なくなっていく酸素に、目を閉じて苦しみに耐える。


Feb 27th, 2023

もしかしたらご指摘があるかも、と思ってた部分にやはり誤字報告いただいたので、加筆しました。

イアルイドが降りてきたときの鱗(紺色)が朝日を弾いて紫に見える、という描写です。ここは…紫にしたかったんです…!朝日は白でしょうが、彼らの怒りもあり仮に赤とさせてください。これは…ファンタジーなので!

なんにせよ混乱させてしまいすみません。

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