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お嬢さまと竜の棲家での交流

 ルティーシュ家はアルデコチェア家を領地に招待した。

 友誼を深めようとの願い出だった。竜の棲家に案内し、彼らの土地と生活を見せ、より理解を深めてもらえれば嬉しい、と。


 スターサル領地は険しい山岳がほとんどで、幼い竜の事故死も少なくなかった。自然の淘汰と言われればそれまでだが、絶対数を増やせればそれに越したことはない。保育にはリングロウの警衛のしやすい安全で広域の平地が望ましかった。


 そういったことを話しながらスターサルの地図を公開することもした。国の大まかな領地と地名がわかるほどの白地図はどの領主も手にしているが、それよりも微細な地形、街の大きさがわかるような地図を見せるのは戦う前に白旗を上げるも同義。地の利も負もさらけ出すということは、どうぞ侵略して土地を奪ってください、と差し出していると取られかねない。

 ルティーシュ家当主のアルザエルは笑いながら「攻められようともうちには竜がいる」と紙を広げて絶対の自信を見せた。逆にアルデコチェア家の当主イェルベストルが恐縮して目を白黒させてしまう。


 主人たちが地図のどこそこを指してここを見ようあちらはどうだ、と計画を立てている間、婦人たちはお茶とお菓子を楽しみながらおしゃべりに勤しんでいた。それはただの社交に留まらず、気の合う友人同士の語らいであった。


 さらに子供たちは、親を差し置いて近くへ街歩きへ出かけている。目立たぬ服で変装し人々に溶け込み、店から店を眺めては楽しげに笑い声を上げた。

 子息令嬢とお付きの二人は親戚らしさは皆無だが、傍目から見てとても仲の良い友人たちに見えた。


「スターサル領の街をこんなにゆっくり見て回ったのは初めてだわ。とっても栄えているのね」


 王都に行くにも反対方向だから通過することもなく、ましてや歩いて見聞することはなかった。

 移動手段は徒歩、馬、馬車くらいのもので、竜に乗れる者は世界でごくひとつまみの人数だ。


「竜を目玉にしているから観光客も来るんだ」


 ローレンディが時計を見て、ほら、と空を指差す。

 この遠距離では実際の大きさがつかめないが、中型の竜と小型の竜がいた。


「ちょうど見廻りにきた。あの竜はガルドリ、小さいのがフレーフォイルス。乗り手はピエールとエルワナ」


 少年が手を振ると、竜騎士たちは竜の操縦技術を見せつけるかのように、飛行大演習(マヌーバ)をやってのけた。

 地上で拍手をしているのは、少なからずいる旅行者や観光客だろう。


「すごい……」


「見せびらかしたいんだ、彼らも」


 そう言いつつも周囲の反応に少し嬉しそうにしている。


「フレーフォイルスは、お手紙を運んでくれた竜かしら?」


「そう。一番若くて飛ぶのが早いから伝令役なんだ」


 街に異常がないと確認できると、二頭は空の旅へ戻った。定期的に巡回することで、犯罪の抑止力にもなるという。

 男性陣は竜の飛行演技に喜ぶ女性陣を楽しげに見つめていた。


「興味があるのならイアルイドであれをやってみようか?」


 ラウはレアに話していたつもりで気軽い口調だったが、返事をしたのはアフロディータだった。


「わたくしぜひ体験してみたいですわ」


 彼女の侍女ばかり二度も竜に乗って飛んでいる。それはつまり竜による誘拐も二回あったわけだが、多少なり羨む気持ちがあった。

 乗れるのなら乗ってみたい。


「かしこまりました」


 竜騎士はくすりと笑う。そしてすぐ横を見た。


「レアは?」


「私はご遠慮します。あんなにぐるぐるするのでは酔ってしまいそうです」


 中心街から移動して、ラウは巨竜を呼び出した。レアは飛び立つ二人をハラハラしながら見送る。


「お嬢さまは大丈夫でしょうか」


「ラウも心得ているから。経験のない相手に激しい飛行はさせないよ」


 ローレンディがそう保証しても、レアはどこか不安そうにしていた。


 竜は飛ぶ。人間二人の重さなど無視して。

 遠くにいると尾の長い鳥のように見える。自由自在に空を我が物とする巨竜が魅せる力強い麗姿だった。


 イアルイドが着地する。

 ずるり、と滑るようにアフロディータは竜の背中から落ちてきた。命綱が伸びて、レアよりも先にローレンディがしっかり受け止める。ありがとうと言いつつ少年の腕の中でけらけら笑った。


「ふふ、まだ目が回ってるわ。でも楽しかったわよ、レア」


「お嬢さま!」


 綱を解きながら、元気そうなアフロディータに気を緩めた。

 


「初めてだし吐くかと思ったんだが、なかなか見どころがあるな、お嬢さまは」


 そんなことにお嬢さまを付き合わせるなんて、と自然とレアの目つきが鋭くなる。


「もちろん手加減した。それに新人竜騎士は訓練中に一度は吐くぞ。恥ずかしいことはない」


「まぁ。それってラウも?」

 

「平常時にはどんな飛行にも吐いたことはありません。だが訓練のひとつに催涙スプレーを浴びた直後に飛行するっていうのがあって、見事に胃をひっくり返しました」


 集団暴動の鎮静剤として散布使用される催涙スプレーは身体に後々の悪影響はないが、涙と鼻水と吐き気を誘発する。

 相手に与えるであろう苦しみを知っておくべきだ、との意図から行われる訓練。

 涙と鼻水と(よだれ)と汗まみれで乗ったものだからイアルイドに嫌がられた、と語る竜騎士。さっきまでなんでもないことのように自在に空を飛んでいた姿からはちょっと想像が難しい。




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