最強
高速で機偽神らしき敵に向かっていく五人の美少女たち。
「真昼間の戦いはだるいのである」
空中を滑空しながらピンクゴールドの髪をした吸血姫《吸血種》であるリーディアがいつものようにブツブツと不満を漏らす。
「嫌なら別な者に交代するよう御屋形様にお願いすればよかろうて。そう言われて無碍にされる御屋形様ではないでござる。まあ期待を裏切られて、多少落胆するかも知れぬがのぉ」
そう挑発的に返すのは長い漆黒の髪をリボンでポニーテール風にした、和装風の(その割に胸が大きくなにげに露出度が高い)装備に大小――大太刀・羅睺と小太刀・計斗――を腰に佩いたサムライ風のガール、《付喪神》である妖刀・セツナである。
「ふん、お前たちが不甲斐ないので主殿が伏して頼む故、仕方なく妾がおぬしらの尻拭いをしておるのじゃ。せいぜい足を引っ張る出ないぞ、ウシ乳娘」
「誰がウシ乳か! この洗濯板女がっ!!」
「なんじゃと!」
「口ではなくて実力でわからせてあげようか?」
と、お互いに走りながら翔びながらガンを飛ばし合うふたり。
「いい加減にしなさい! これから戦いに赴こうという時にくだらない言い争いをしている場合ですか! それともそこに正義があるとでも? そうであるなら私が公正に裁定して差し上げますわ」
敵と戦う前に味方同士で一触即発の雰囲気であるが、そのふたりの後方をわずかに足を宙に浮かせて、足元から星明りのような瞬く光を放ちつつ直立して追走していた白銀の髪をした女神のごとき美貌の少女――《神族》の一柱にして星乙女の別名を持つ――ユースティティアが、右手に持った神剣と左手に持った天秤とをこれ見よがしに差し出して諫める。
「「う……っ」」
この第一部隊は当然のように全員が『★★★★★★』である最上級の妖精女騎士であるが、当然のように属性や得意技、ステータスなどにばらつきがある。とはいえそういった能力を合算して総合能力で順位を競った場合、間違いなくトップレベルなのがこのユースティティアであり、それゆえに『第一部隊隊長』の肩書を持っているのだった。
実力でも立場でも上の相手に窘められ(そもそもユースティティア=ジャスティス=正義の語源である。カチコチの石頭なだけに誰も頭が上がらない)、リーディアもセツナもさすがに羽目を外し過ぎたかと、ばつが悪そうに口を噤んで視線を逸らせるのだった。
「そうですそうです。お二人ともキンチョー感が足りないです。いい格好したいのはわかりますけど、そんなことでは司令様のハートは射止められないですよ」
弓矢を持ち尖った耳をした見るからにライト・エルフ……という外見をした金髪碧眼の少女。《妖精種》ハイエルフであるセシリアが気楽な口調で茶々を飛ばす。
「「誰もそんなことを言っておらん(おらぬ)!!」」
案外気が合うのか、その軽口にリーディアとセツナが同時に言い返した。
「なんでもいいですけど~、そろそろ攻撃圏内ですわね~」
最後尾をたるそうに走っていた水色の髪の間から二本一対の角を生やした乙女。《竜種》メリジューヌが前方を指さして注意を喚起する。
同時に五トントラックほどもある巨大なメタ・スライム四匹が、一斉に五人に向かって飛びかかってきた。
通常のメタ・スライムは水銀のような流体金属の塊であり、体内にある核を破壊しない限り活動を停止することはない。
核の位置は常に変動しているため、通常の一抱え程度のメタ・スライムなら、どこぞの樽から首だけ出ている海賊のゲームよろしく、運頼みで数撃ちゃ当たることもあるだろうが、これだけでかいと手の付けようがないだろう。
「司令、戦闘指揮所のソピアー参謀から連絡です。そのまま読み上げます『あの巨体を維持し、あれだけ自在に活動するとなると主核の他に複数の副核を内包しているものと思われます。しかしながら主核を破壊された場合、即座に副核がバックアップとして機能すると想定されますので、すべての核を同時に潰してください』とのことです」
伝令管で戦闘指揮所とやり取りをしていたカレンが、参考になるのだが現実的にはとても無茶な進言をしてきた。
「無茶というか、無理だろうそんなもん!」
思わず反射的にそう叫んだ俺の狼狽ぶりを、
「――は?」
何を言ってるんだという顔で見つめ返すカレン。
「何をおっしゃっているんですか、司令。たかだか体が大きなだけの雑魚ですよ。本来であれば第一部隊が相手をする必要などまったくないのですから、普通に『殲滅せよ』とお命じになれば問題ありませんよ」
第一部隊に全幅の信頼を寄せるカレンだが、これはゲームではなくどう見ても生身の肉体を持った少女たちが、見上げんばかりに巨大なバケモノと体一つで戦うという、ちょっとした油断や侮りが大怪我や死に直結するかも知れない状況なのである。
だが、いまからそうした懸念や状況を説明する時間も根拠もありはしない。
無理だと思ったらさっさと引いてくれ!
そう祈りながら――艦内に女神がゴロゴロいるのだが、それとは別に――俺は戦いの行方を見守るしかなかった。