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第12話 新しい朝

「行ってきます」


 次の日の朝、私は制服に着替えて家を出る。今日もこれから学校だ。

 毎日学校に通うのは面倒だが、座って授業を聞いていれば終わると考えれば楽かもしれない。私の何よりも苦手な人付き合いをしなくて済むからね。

 そんな事を考えていると後ろから菜々ちゃんに声を掛けられた。


「おはよう、まやかちゃん」

「おはよう、菜々ちゃん」


 彼女と通学路で会うとは珍しい。菜々ちゃんは朝から明るくて元気そうだ。この元気さはどこから来るのだろうか。ちょっとうらやましい。

 学校まではすぐだけど一緒に歩く事にした。


「まやかちゃんは昨日はよく眠れた?」

「うん、ぐっすりと。どうして?」

「いろいろあったから。ドラゴンが現れたり、正也君と一緒だったり」

「ああ、あったね。もうスキルマスターの人達には絡まれたくないよ」


 私が昨日あった疲れた事を思いだしていると、いきなり町に警報が鳴った。


「ええ!? こんな朝から!? 最近多くない!?」

「またドラゴンかな……?」


 菜々ちゃんはそわそわしている。みんな避難していくが、私まで行ってしまうと相手がドラゴンだった場合、逆に被害が大きくなってしまうので、敵の正体だけは見ておかないといけない。

 モンスター達は道の向こうからやってきた。コボルトやリザードマン達が道の中央を歩きながら止まっている車を斬ったり蹴ったりしながら向かってくる。

 ゴブリンよりは強いが、ミノタウロスとは比べるまでもないザコだ。


「地元のスライムやゴブリンじゃない。よそから来たのかな? 朝からこんな事をして何が楽しいんだろうね」

「まやかちゃん、どうしよう」

「放っておけばいいと思うよ。あいつら私達に興味がないみたいだし、倒すのはスキルマスターの仕事だから」


 私達は背景キャラだ。こっちが手を出さないんだからそっちも構ってこないでよと念を送って見守っておく。リザードマンの一人が気が付いた。こっちに向かってくる。

 私は面倒だなと思いながら逃げる為に菜々ちゃんの手を引っ張った。


「まやかちゃん……?」

「合図したらついてきて」

「うん」


 リザードマンぐらい敵ではないが、あまりスキルマスターの仕事を奪うのもどうかと思う。あいつらの仕事なんだからあいつらにやらせておけばいいのだ。自分達は学校へ行かせてもらう。

 菜々ちゃんが見ているので目立つスキルは使えない。私は不自然に思われないようなタイミングを計るが、その必要は無くなった。

 スキルマスターが自分の仕事をしにやってきてくれたのだ。


「俺の炎で燃えやがれ!」


 朝から威勢のいい声を上げて自転車で走ってきた正也君はモンスター軍団の中央に走りこむと、一気にコボルトやリザードマン達を薙ぎ払った。さすがはドラゴンとも戦った経験のあるスキルマスターだ。

 ザコモンスターなんてあっという間に片付けてしまった。


「さすが正也君、腕を上げたねえ」

「助けてくれてありがとう」

「お前ら、何で避難してないんだよ」

「えっと、足がすくんじゃって」

「怖かったよー」


 菜々ちゃんが私の腕にすがりついてくる。正也君が嘘つけって目で私達を睨んでいたが、のんびりしてると遅刻してしまう。

 私達はそれ以上余計な口論はせずに学校へ急ぐのだった。




 ドラゴンに壊されていた校門はもうすっかり直されていた。さすがはモンスターが現れるのも当たり前になった現代。修理の技術も上がっている。

 私達は教室に入る。朝からモンスターが現れる警報が鳴ったが、みんなきちんと登校していて偉いと思う。

 今時の中学生にとってはモンスターが現れるなんて面倒な避難訓練かちょっとした災害か学校に犬が現れるぐらいの感覚なのかもしれない。もう日常の一部になっているのだ。

 教室のみんなの会話もモンスターが現れたなんてありふれた物ではなく、昨日の番組とかもうちょっと刺激性のある物だった。

 さて、授業の準備をしよう。

 チャイムが鳴るとみんなが席について担任の教師が入ってきた。

 まずはホームルーム、適当に聞き流そうと思っていたら先生が気になる事を言ってきた。


「はい、皆さん静かにして下さい。今日は転校生を紹介します」

「転校生だって?」

「どんな子なんだろう」

「楽しみだね」


 教室が騒がしくなる。ぼっちの私が関わる事はないだろうが、一応どんな子なのかは気になった。先生は言う。


「みんな喜べ。スキルマスターだぞ。僕も試験の様子を見ていたんだが、リアルで『わたし何かやっちゃいましたか?』を体感してしまったね」

「ほう、新戦力。これは期待できそうですな」

「最近、相田君苦戦してたもんね。もう補充要員を回してくれたんだ」

「これで楽になるか」


 教室は歓迎ムードだ。仕事を任せられる相手が出来て正也君は喜んでいるかと思ったら、ムスッとしていた。

 自分の仕事が取られるのが面白くないのだろうか。私なら喜んで全部丸投げするところだが。先生は廊下に向かって呼びかけた。


「では、入ってきて」

「はい」


 教室のドアが開いて現れたのは……制服を着た少女だった。そりゃこの学校に通うんだから同じ制服を着ているに決まっている。

 違うのは雰囲気だ。スキルマスター達は戦力の足りない地域に転校する事が多いので、彼女もやはり地元の人とは違った雰囲気があった。


「初めまして、わたしの名前はセツナ・カガリビと言います。よろしくお願いします」


 賢そうな子だ。それに異国のような情緒を感じる。菜々ちゃんがほうと唸っていた。


「この教室に来たか。校長先生は正也君と組ませるつもりなのかな」

「菜々ちゃん、あの転校生と知り合いなの?」

「うん、昨日ね。まやかちゃんの事をちょっと話し合ったんだ」

「んん?」


 なぜスキルマスターが正也君でなく私の事を話し合うのかよく分からない。菜々ちゃんに訊き返す時間はなかった。

 セツナちゃんが自分の席へ向かう途中で私に目を付けてきたからだ。


「あなたがまやかさんですね。これからよろしくお願いします」

「あ、どうも……こちらこそよろしくです」

「菜々ちゃんも」

「よろしくねー」


 私はなぜ目を付けられているのだろうか。そんな大層な人物でもないのに。

 とにかく、これからより一層注意して生きていこう。そう思うのだった。

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