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私の心はおじさんである【書籍漫画発売中!】  作者: 嶋野夕陽
後始末と前準備

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街の運営

「待て!」


 一斉に飛び出そうとしたコボルトを、大きな声で呼び止めてから、ウルメアはごほっと咳をする。人になってから初めての大きな声だったが、一言で喉がチリッと痛んだ。

 ウルメアの声に、ぴたりと足を止めたコボルトたちは、何だろうと思いながらも次の指示を待つ。

 待てと言われれば素直に待つのがコボルトのいいところだ。


 ついでに家を作っていたコボルトたちまで停止してしまっているのが融通の利かないところだけれど。


 〈ノーマーシー〉の街にすでに住んでいるコボルトが三千程度、ハルカと一緒にきたのがパッと見渡す限り千五百程度。

 既存の住人のおよそ半分程度が新たに加わる形になる。


 コボルトは細かな作業や家づくりが得意だ。

 食料の備蓄は十分にあるし、時間をかければ問題のない数ではある。とはいえ、あまりに勝手につれてきすぎである。


「一度に連れてきすぎだ」

「すみません……、なんとかならないものでしょうか」


 ウルメアはハルカの申し訳なさそうな顔を見てから、ちらりと砦を見て、ため息をつく。


「人数の確認だけして、しばらくの間は砦で暮らさせる。仕事の割り振りはおいおい教え込む。街のコボルトたちは仲間が増える分には気にしないだろうから布告はいらない。仕事さえ覚えさせれば、勝手に馴染む」


 そして難しい顔をしたまま胸を張って言い放つ。


「つまり、何とかなる」

「そうですか、助かります。よろしくお願いします」


 ウルメアの言うことを聞く兵士が四千五百。

 自らに力がなくても、本人の武器があり、自由に動かせるのであればそれなりの戦果が出せる。

 お目付け役にニルを一人置くだけで何とかなると思われているのなら……、そこまで考えてからウルメアは野望を急激に萎ませた。


 無駄だ。

 空を飛び、巨人を従え、あのヘイムを下して平然としているハルカに逆らっても、一つもいいことがないと考えてしまったからだ。

 流石に次はない。

 だからこそ、負け惜しみのようにウルメアはハルカに言った。


「これだけの自由に動かせる兵士を預けるなんて、私は随分と信用されているんだな」

「……兵士ですか?」

「コボルトのことだ。私がこうと言えば簡単に従うぞ」

「ああ、そうですね。ウルメアの集団をまとめる能力は素晴らしいと思います。私は決断力がありませんし、人に指示を出すことも苦手です。そういうことが得意な人がいると、やっぱり助かりますね」


 皮肉が通じていないようだとわかり、ウルメアは返事をせずに変な顔をして砦の前へ歩いていく。

 甘いやつだと思った。

 それと同時に、自分に何かを期待されているらしいことが、ほんの少しむず痒く、ハルカに顔を見られたくないという気持ちを隠すための態度でもあった。


「一列になって中へ入れ。そこの一番左前にいる白いのから、茶色、黒の順番で。右端までいったら折り返しだ。しばらくは砦の中の部屋を自由に使え。近くにいるやつに伝えたら、最初のやつから来い。わかったか?」


 前列の方にいるコボルトから、返事がバラバラと戻ってきて、ウルメアの言う通りに列が動き出す。途中でいくつか条件を付け足していたが、新たにやってきたコボルトたちは、ちゃんと言うことを聞いている。


 仲間たちが間から抜け出して集まったところで、ニルが笑って言った。


「あやつ完璧主義でな、言うことを聞かないとイライラするのだが、それでいて諦めたり当たり散らしたりはしない。どうしたらうまく言うことを聞くのか考えるのだ。陛下、ありゃあいい拾い物だぞ。他者を采配する才能がある。もうちょっとにこやかになればなおいいがな」

「……にこやかにやってても気持ち悪いけどね」


 相変わらずイーストンは悪さをしていた吸血鬼には少しばかり辛辣だ。それでもその言葉には冗談めかした響きがあって、以前よりは角が取れているようだった。


「さて、砦の裏手から港へ降りていく坂道があるのだ。その先にルノゥとかいう人魚の一団が来ておる。こっちはウルメアに任せて、陛下はそちらに顔を出すべきだ」

「すぐに行きます。案内お願いできますか?」

「おうとも」


 先を歩くニルに、ハルカたちもついていく。


「あ、私はウルメアと一緒に、コボルト見てようかな」

「んじゃ俺も残るわ」

「わかりました、何か急ぎの用事があったらナギに頼んでください」


 ぐるりと砦を囲む壁を回って裏手へ行くと、確かに崖を切り開いたようなゆるく長い坂道があった。

 その坂道をのんびりと歩いていると、ハルカ以外の三人は左右の切り立った崖上を眺めている。


「何か珍しいモノでも?」

「いや、意外と考えられた地形だなって」


 イーストンの言葉に、ハルカはぐるりと周りを見回して、はてと首を傾げる。


「崖に挟まれてるだろ」

「ええ、そうですね」

「……ハルカ馬鹿なのか?」

「え?」


 レジーナから飛んできた突然の暴言にハルカが面食らっていると、ニルが吹き出すように笑った。


「陛下は空を飛べるからわからんか」

「……みんなわかるんですか?」

「海から攻め込まれたら、この坂道登らないといけないです。崖の上に弓とか……、魔素砲を装備した兵士を置いたら、一方的に攻撃できるです。賊とかも、よくそういうところで待ってるですよ」

「崖の上に作られた砦からの攻撃は、崖下の船へ一方的に通すことができる。守り易く攻め難い地形ということだ」

「【神龍国朧】は年がら年中戦をしている国だって有名だからね。比較的近いこの街は、そことの戦を想定して作られたんじゃないかな」


 モンタナ、ニル、イーストンと順番に解説をされて理解したハルカは「なるほど……」と小さく呟いた。


「冒険者なら危ない場所歩いてることくらい気づけ」

「いや、本当そうですね、気をつけます」


 戦とか攻められるとか大きな話になってきたなぁと思いながら、仲間の見識の深さにハルカはただただ感心するのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] ハルカさんはたぶん大砲で撃たれても吹っ飛ぶくらいで済みそうだからなぁ
[一言] 一般的危ないはハルおじ(いやしかぼでー)にとって『何それ美味しいの?』だからなぁ そろそろガチ目の強敵に追い詰められるべきかもしれない…
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