砦探索1
モンタナはコボルトが去っていったのを確認して、地面に放り捨てられた銃を拾う。引き金を触らないようにしながら、しげしげとその全体を観察してから、ハルカたちのいる方へ戻ってきて、壁に向かって引き金を引いてみせた。
かちり、という音がして何も発射されない。
モンタナは首をかしげてから、続けて何度か引き金を引くが、結果は一緒だった。
「これを引くと、後ろの部分が作動して、中の魔素を動かすのが起動するです。でも僕が使っても何にも出ないです」
「なんでだ? ちょっと貸せよ」
銃がアルベルトの手に渡り、同じように引き金を引いてみても何も起こらない。
「壊れてね?」
「壊れてないです」
「じゃ、私もー」
順々に手に取って引き金を引いてみるけれど、結局最後まで銃口からは何も発射されなかった。
「やっぱ壊れてるだろ」
改めてアルベルトが胡散臭そうに銃を眺めていると、カナがゆっくりと自説を述べる。
「……魔素を込めて作られた武器があるように、特殊な縫製によって変わった効果をもたらす服がある。それと同じように、設置型の陣を用意して、そこから魔法を発動させるような物も見たことがある。それと同じような機構が、この中に組み込まれている……のかもしれない」
だとすれば、この銃を作ったものは相当な知識を持っていることになる。
おそらく神人時代の頃からあるものだから、今の今まで使えていること自体が奇跡のようなものだ。
「……砦の中、調べてみましょうか」
ハルカがそびえたつ歪な塔を見上げて言うと、アルベルトがいち早く反応を返した。
「よっし、探検だな!」
「いくですか」
言葉はなくとも肩を回しているのがレジーナで、コリンもすでにそのつもりでいるようだ。
イーストンは眠る準備を始め、カナとニルの年長組は笑っている。
「儂がここで番をしているから行ってくるといい」
「うん、怪我のないように」
本来そちらに属するべきであろうハルカは、少しだけ双方の様子を見てから、留守組に一言残して、歩き出したアルベルトを追いかける。
「ちょっと中を覗いてきます」
五人がコボルトの塔の前に並ぶ。
「よし、行くか」
そう言って先頭を歩くアルベルトは、身をかがめることなくその入り口を通り抜けた。
中は殆んど光が入っておらず薄暗いため、ハルカは魔法で光の球を出して、アルベルトの前へ移動させる。
すぐに全員が扉をくぐると、塔の中は天辺まで吹き抜け構造になっていた。
あまり人が入ることがないためか、空気が淀んでおりやや埃くさい。
多少湿気もあるだろうに、壁にカビや苔が生えていないのが不思議であった。
「すごいですね……」
思わず上を見上げて呟くハルカに、仲間たちも無言で同意する。
光の球を上の方へ飛ばしていくと、らせん階段に沿って、壁際に小部屋がいくつも設けられているのがわかった。
上に行くほどスリムになっていく砦だが、一階部分はそれなりに広い。
気を取り直して動き出したアルベルトは、すぐ近くにあった鍵のかかっていない大きな扉に手をかけた。
「中は生き物はいないと思うです」
「よし、あける」
モンタナの声があるまで待ったのは、アルベルトがワクワクはしていても油断まではしていない証拠だ。
そこにはいくつもの金属製のケースのようなものがうずたかく積まれており、手前には中身のないそれがいくつも散乱していた。端の方にもいくつもそれがうずたかく積まれており、今にも崩れ落ちそうになっている。
箱の一つ一つはそれほど大きいものではない。
千年も前の遺跡であるともいえるのに、何とも雑な扱いだ。
「金属の箱……?」
「いえ、取っ手があるのでカバンのようなものでしょう。一つ開けてみます」
ハルカは箱になんとなく見覚えがある。
それは元の世界ではジュラルミンケースと呼ばれていたものに酷似していた。
鍵はついておらず、ぱちんと止める錠で蓋が閉じられているだけだ。
持ち手は小さく、おそらくコボルトが持ち歩くと、丁度いいサイズに作られている。
錠をぱちりと外し蓋を開くと、中には案の定、先ほどコボルトが使っていた銃の新品のものが数丁収められていた。はめ込まれていた型を外すと、その後ろには手入れ用の器具まで収められている。
「これが全部武器だとしたら、すごい数だよねー……。なんでこんなにたくさん武器があるんだろう?」
「本当ですね……。とりあえずここは武器庫、と憶えておきましょうか。上へ登ってみます?」
「使えそうなのねぇの?」
アルベルトがハルカの開けたケースから、銃を一つ取り出し、引き金を絞ってみる。しかし、それは先ほどと同じでかちりと音を立てるだけに終わった。
新品のようにも見えるから、もしかするとコボルトたちならば使用できるのかもしれない。
だとすれば、この銃はコボルト専用に作られている可能性がある。
ニルもハルカたちと同じように使うことができなかったから破壊者専用ということはないだろう。
「別のとこも見てみましょうか?」
「おう、まだ上にもいろいろありそうだしな」
とりあえず疑問は後回しにして、今は探索だ。
この砦がどのように使われていたのか。
ハルカは未知の遺跡探索に、ひそかに胸の高まりを感じ始めていた。





