表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私の心はおじさんである【書籍漫画発売中!】  作者: 嶋野夕陽
後始末と前準備

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

954/1483

種族年齢

「今日何しようかなって思ってきたんだ」

「……何しようか、ですか?」

「うん。昨日まで、この壁の上で知らない人が来たら攻撃して知らせるようにって言われてた。でもその人もういないから、今日から何しようかなって」

「なるほど……」


 コボルトたちは長いこと吸血鬼の支配を受けてきた。そのうち一部の選ばれたコボルトが、この城壁の警備にあたっていたのだろう。

 吸血鬼たちは基本的に昼間は休んでいるから、その間に見張りをさせていたわけだ。


「他にはどんなことをしてる人がいたんですか?」

「街の中をうろうろして知らない人がいたら知らせるとか、街の外の畑を耕したりする人」

「普通の生活をしている……」


 カナが困惑したように声を上げた。

 こうして聞いてみると、吸血鬼の支配下にいた割に、平和な毎日を送っていたようである。


「その中で、困ったこととか、嫌だったこととかはありますか?」

「たまに友達があそこの壊れた家に連れてかれて帰ってこなかった」


 これはきっと、吸血鬼たちが血を確保するためだろう。何も人の血だけを吸うわけではないようだ。


「遠くに出かけたらダメだって言われてる」

「破ったらどうなりますか?」

「酷いことされて死んじゃうって言ってた」


 この若いコボルトたちはよく知らないようだが、過去に脱走を企てたコボルトもいたのかもしれない。

 コボルトは好奇心旺盛であるのと同時に臆病でもあるから、恐怖で街に縛りつけることはそれほど難しくなかっただろう。


 外の敵もやってこないこの場所は、吸血鬼が暮らすためにはもってこいの街だったのかもしれない。


「今日から何したらいい?」

「どうしたらいい?」


 体ごと首を傾けるコボルト二人にハルカは、同じく首を捻ってうなった。


 ハルカとしては、コボルトたちの生活様式を吸血鬼が来る前に戻してあげたいと考えている。少なくとも、数十年から百年ほど前までのコボルトたちは、リザードマンやケンタウロスと交易をしながらこの町で暮らしていたはずなのだ。


「その、昔どう暮らしていたとか、わかる人はいませんか?」

「わかんない」


 間をおかずに素直な返答があって、ハルカはどうしたものかと仲間の方を見た。


「まぁコボルトの寿命はせいぜい三十年程度。支配されて六十年とすれば、独立していた頃なんてこいつらの曽曾祖父ひいひいじいさんの時代か? おい、お前ら何歳だ?」

「九歳!」

「八歳!」

「ほれ、こんなもんだ。これでもコボルトたちの中じゃあ成人してるのだ。なかなかそんな昔のことを知るものなんておらんだろうなぁ」


 ニルはゴリゴリと自分の頭を撫でながら、ハルカに言い聞かせるように説明してみせた。


「どうしたものでしょうね……」

「いつも通りに過ごしてもらったらいいんじゃない?」


 たまに舌を出しながらハルカの言葉を待っているコボルトたちを見ながら、コリンが軽い調子で提案する。


「それがいいですかね……。畑を耕してれば、毎日の食事には困らないんですね?」

「うん」

「ええと、じゃあ、そうですね……。今まで通りに毎日過ごせばいいと思います。歳を取ったり、体の調子が悪くなったり、怪我をしたりするようなことがあれば、ちゃんと元気になるまで体を休めるんですよ」

「わかった!」

「もう困り事はありませんか?」

「うん!」


 返事はいいけれど、ちゃんと伝わるかは少し心配だ。今にも走り出しそうなコボルトに、もっと何か伝えるべきことはないかと、ハルカは耳のカフスを撫でながら考える。


「ああ、そうだ。あの砦の使い方を知ってる人とかはいますか?」

「知らない!」


 ふと思い出してでんとそびえる砦を仰いでみると、これもやはり元気よく否定された。

 支配されてからというもの、この砦は稼働していないのかもしれない。


「でも、これがいっぱいあるって」


 はっと思い出したもう1人のコボルトが、地面に落ちた銃を拾うと、空いている方の手で砦を指差す。


「なるほど、武器庫みたいにもなっているんでしょうか……」

「だからねー、使えなくなったら、あそこから新しいのもらうんだ」

「使えなくなることがあるんですか?」

「うん、あるみたい」


 なんらかの方法で魔素を発射しているわけだから、内部の構造の何かが壊れたり、ずれたりすると使えなくなるのかもしれないと、ハルカは推測をする。

 いかんせん魔法の知識が少ないものだから、なんとも説明できないのが現状だ。


 そういったことに詳しそうなのは、【三連魔導】か神聖国レジオンの、やたらと背の高いひげの学園長などだろう。


 どちらも相談するにはちょっと癖が強い。


 とりあえずレジオンの双子がオランズに来るようなことがあれば相談してみようと思うハルカである。


「皆にもこれからどう暮らしていくか伝えたいので、夜にまた皆をここに集めてもらうことはできますか?」

「やる!」

「はい、じゃあ今日はそれをお願いします」

「うん! ねぇ、名前なに?」

「私ですか?」

「うん」

「私はハルカ=ヤマギシといいます」

「長いかも」

「ハルカでいいですよ」

「わかった! みんなに言ってくる」


 やることがわかったからか、ハルカの名前を聞くと、用事は終わったとばかりにコボルトたちは元気にその場から立ち去っていく。


 片方は銃を地面に投げ捨てたままだが、気にした様子もなかった。あまり普段から武装をしているという自覚もないのかもしれない。


「まぁ、まだ十歳にもなっていないのでは仕方ないですよね……」

「コボルトの中じゃもう成人してるがな」


 どうにも非常に甘い態度をとるハルカに、ニルは念のため訂正を入れておくのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 独立してた時代の生き残りはいないとなると昔みたいな生活に戻るのは不可能ですね コボルトの生態とか考えると尚更、寿命が短いわりに精神面での成長は早いってわけでもないですし
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ