検証の時間
ハルカは念のため二人が落とした武器を回収する。
「これは、どういった武器です?」
「知らないの?」
「知りませんね、どう使うんですか?」
ハルカから見れば明らかに拳銃なのだが、使い方が必ずしもそれで合っているかはわからない。
「こう持って、指でクイッてするだけ」
「そうすると、前の方の穴からばんって」
犬の体に対して、手指は普通の人に近い。
ハルカの手に収まっている武器は、子供くらいの大きさの手でも引き金を引けるくらいの小さなものだ。試しに障壁を張って、誰も人がいない方へ銃口を向けて、ハルカは引き金を引く。
緊張の瞬間にちくりとこめかみに痛みが走り、カチリという気の抜けた音が鳴った。
あれっ、とハルカが首を傾げたタイミングで、二人のコボルトも首を傾げる。
「あり?」
「かち? うひゃああ」
そしてそのままレジーナに襟首を持ち上げられた。
レジーナの中で、嘘をついたので推定有罪となったらしい。
特に痛いわけではないらしく、体が浮き上がったことにしばし足をばたつかせた後は、大人しくプランと吊られるままになっている。
「嘘ついたな」
「ついてない!」
「弾が入っていないんですかね……?」
レンコンのようなシリンダーらしきものは見当たらず、かといってマガジンらしい部分もない。無理に引っ張れば分解できそうな気もするが、どこまで力を込めていいのかわからない。
試しに弾倉が入っていそうな場所を見てみるが、どうも溶接をされているようで、簡単に抜くことができるとは思えなかった。
「陛下はそれの仕組みがわかるのか?」
「……いえ、しかしこの穴から弾が飛び出すのだと思うんですが」
「そうそう」
ぶら下げられたままのコボルトが同意する。
「うーん、ちょっとその子たち下ろしてあげてください」
そう言いながらハルカはコボルトに近付く。
「レジーナ、ちょっと離れてくださいね」
怪訝な顔をしながらレジーナが距離を取ったのを確認し、ハルカは自分の周りに障壁を張り巡らせる。そうしてその一面に弓道で使うような的の柄を作ってみせた。
「あのですね、ちょっとこれを使ってあれの真ん中を狙ってみてくれませんか?」
片方に銃を差し出すと、コボルトはきょとんとした顔でハルカを見上げる。
「いいの?」
「はい、お願いします。真ん中、狙えますか?」
「うん!!」
受け取ったコボルトは両手で銃を構えると、ためらわずに引き金を引く。
コボルトが言っていたような音と共に、何か光るものが銃口から発射され、中心から少しずれた場所に当たる。
「惜しいですね」
「もっかい!」
「ええ、まあ、いいですけど」
武器を持ったというのに、まるでハルカの方へ向ける気配もないコボルトにハルカは笑ってしまう。
やはり警戒するような相手ではないらしい。
もう一人のコボルトもうずうずしているのを見て、ハルカは壁にもう一つ的を作ってやってから銃を返してやる。
「やっていいの?」
「はい、いいですよ」
「ありがと!」
狙って撃つ、狙って撃つ。
たまに中心に当たるけど、大体の攻撃はそこから少しそれたところに命中していた。
銃の精度が悪いのか、彼らの腕が悪いのかは素人目では判断つきにくい。
最初に銃を持ったコボルトが六発目を発射する。
そろそろ弾がなくなるんじゃないかと思って見ていたハルカだが、コボルトは続けて的を狙っているようだった。
そうしてしばらくするとまた銃声。
まだ弾は尽きていないようである。
この辺りでハルカは、飛んでいったはずの弾が地面に転がっていないことに気が付いた。地面に紛れて見えていないだけかのようにも思えたが、これだけ撃って一つも弾を見つけられないのはおかしい。
。
そんなことを考えていると、障壁の外から「ハルカ」と呼ぶ、少し高い声がした。
目を覚ましたモンタナが手のひらを障壁にくっつけて待っている。
「はいはい、ええと、危ないことしちゃだめですよ」
コボルトをすっかり安全な生き物と認識したハルカは、注意だけすると目を離しモンタナの方へ歩み寄る。
「どうしました?」
「あれ、あの武器、魔素を発射してるです。結構大量の魔素使ってるですから……あ」
モンタナの言葉が終わる前に、とさっという小さな音がした。
振り返ると、最初に銃を撃ち始めたコボルトが、情けない顔をして両手で頭を押さえている。
「いたい、うぅぅうう」
「ああなると思ったです」
「魔素酔い、ですかね」
「そですね」
続けてもう一人のコボルトも地面に座り込み、頭をさすりながら唸り出す。
かわいそうではあるが、どうしても見た目がコミカルに、かわいらしくなってしまうのはコボルトという生物のさがなのだろう。
「大丈夫ですか? 加減しないとダメじゃないですか」
「だってぇ、こんなに使ったことなくてぇ」
「痛いよぅ」
「じっとしていてください」
そう言うとコボルトたちは大人しく項垂れて静かになった。
ハルカはため息まじりに、座り込んだコボルトたちの頭に手を置いて、治癒魔法をかけてやる。
「……治った! すごい!」
「おおお、どうやったの!? できる!?」
「はい、あまりたくさん使ったらだめですよ。それで、今日は何をしに来たんですか? 話を聞かせてください」
「いいよ!」
元気になったコボルトはぴょんと立ち上がる。
大事なはずの武器を地面に放り投げたままなのを見て、どうにもこの種族は憎めないなと思うハルカであった。





