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私の心はおじさんである【書籍漫画発売中!】  作者: 嶋野夕陽
後始末と前準備

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それぞれの距離感と思惑

 しばしハルカの心を癒しつつ、会話は続く。


「そういえば、街中に吸血鬼がいたりはしないんでしょうか?」

「こんな昼間に、まずないでしょ。心配だったら集まったコボルトに聞いてみたらいいよ」


 眠たそうなイーストンが言うと説得力がある。

 普段のカーミラの生活を思い返してみて、ハルカも納得した。


「万が一いたとしても、集団でなければ問題ないだろうさ。奴ら儂らがどこと通じているかも知らんのだ。人質を取られたところで、そんな奴ら知らんで通せば普通の戦いに持ち込める」


 いざそうなってしまえばどうとでもなるという自信からくる発言だった。

 夜の吸血鬼であっても、戦い慣れていないものであればそれほど脅威とならないことはよくわかった。


「残党がいるとしたら、巨人のところじゃないだろうか? 東の巨人族が急に戦い始めたのは吸血鬼がきっかけだったはずだ」

「吸血鬼と巨人ってどっちが強いんだ?」


 あまり緊張感のない質問を発したのはアルベルトだ。

 どこに吸血鬼が残っているかより、誰が一番強いのかの方が気になる。

 今まで反応がほぼなかったレジーナも耳を傾けているから、彼らにとって欲しい情報はその辺なのだろう。


「個人の資質を抜きにするんであれば、夜だったら間違いなく吸血鬼だろう。昼間だと……どうだろうな。私はあまり巨人族との交流がないんだ。彼らは寒冷地に住まうことが多いから。巨人についてはノクトの方が詳しいんじゃないか?」


 どんな質問も真面目に答えるカナである。


「ふーん、じゃあ爺に聞くか」


 アルベルトがノクトのことを老人扱いしてるのがいつになっても慣れないらしく、カナは苦笑する。ノクトが老人ならカナも老人なので、いやでも実年齢を実感させられて突っ込みを入れづらいのかもしれない。


 一時間もすると外が騒がしくなってきて、最初に外へ伝令に出したコボルトが戻ってくる。

 ハルカの前までたったかと走ってきて、何かを言おうとして口を開いてから、モンタナを見てぴたりと動きを止めた。自分たちと同じように耳と尻尾が生えているのが気になったようだ。

 しばらくぼけーっと気の抜けた顔で停止してから、急にはっとして報告を再開する。


「いっぱい呼んだ! です!」

「あ、はい。ではそろそろお話しに行きましょうか。皆さんの前に案内してください」

「わかった!」


 先に走り出したせいで丁寧な言葉を使うことは忘れてしまったらしい。

 先ほどから接していたハルカは、彼らが平原にすんでいたコボルトたちよりも、やや抜けた性格をしているように感じていた。

 個々のコボルトたちと話していると、あれで意外と平原のコボルトたちは、戦士っぽい雰囲気を纏っていたようにすら思えてくるから不思議だ。


 一歩進むたびにひょこひょこ動く尻尾を見ながらコボルトの後についていったハルカは、ややあってから仲間たちが殆んどついてきていないことに気づいた。

 一緒にいるのは左右にくっついていたモンタナとコリンだけだ。


「あの、皆いかないんですか?」

「あ、私は遠慮しておく。この辺りに住んでいるわけではないから、ここはハルカさんに任せたいんだが……まずいだろうか?」

「あ、いえ、そういうことならカナさんは。アルは来ないんですか?」

「俺はあの中探検したい」


 指さしたのは後ろにでんと控えている砦だ。

 確かにハルカもあの中は気になっていたが、アルベルトはもう我慢ができないらしい。


「いやぁ……、できればアルもいたほうが私は嬉しいんですが」


 おそらくだがあの中には触るとまずいものがたくさんありそうだとハルカは予測している。

 アルベルト一人で行かせるのは不安だし、どうせ探索するなら同行したいところだ。あんな不思議な形をした砦、ハルカだって中を見てみたい。


「ふーん……、じゃ、行くか」


 誘ってみれば嫌がるわけでもなく、アルベルトは後についてくる。


「レジーナは?」

「めんどくせぇ」

「あ、はい」


 一言で切り捨てられて、ハルカはもあっさりと引き下がった。

 レジーナは意味もなく多くの人の目にさらされるのは好きではなさそうに見える。

 昔悪目立ちするような行動をしていたのは、ひとえに他の冒険者たちからなめられないようにするためだ。衆目に強さを見せつけることで人を近づかせないようにする、いわゆる自衛のようなものだった。

 声をかけられれば反応するが、基本的には物静かに過ごしている。

 臆病なコボルトたちよりは、無邪気に近寄ってきて、恫喝されても懲りないハーピーたちの方が相性は良さそうだ。


「ニルさんは?」

「しゃべれない以上待機じゃな。儂が出ると陛下よりも目立ちそうだ」

「なるほど。イースさんは眠たいですかね」

「それもあるし、僕は半分吸血鬼だから。今からする話の場にはふさわしくない」


 イーストンと今倒した吸血鬼たちは全く別物だ。

 思わず、そんなことはないと言いたくなったハルカだったが、その言葉をぐっと飲みこんで頷く。感情面はともかく、イーストンの言っていることが論理的に正しいことはわかるからだ。


「わかりました、では行ってきます」


 ハルカたちが外へ出るのを静かに見守るニルに、イーストンは問いかける。


「ついていかなくてよかったの?」

「うむ。まぁ、なるようになると思うのだ」

「結局頼られて、なりゆきでここの世話をするようになるってこと?」

「分かっておるではないか。儂があれこれ口出しするより、ご自分で決められた方が陛下だって気持ちが良いだろう?」

「やっぱりそうなるかな」

「うむ、おそらく。でなければ今のコボルトたちだけでここを維持するのは難しかろうよ」


 イーストンは目を細めて横目でニルを見る。


「……ハルカさんの人がいいからって、利用したりしないでよね」

「しておらん。そちらこそ、陛下を甘く見過ぎではないか? 儂の見立てによれば、陛下は物腰こそ柔らかいが、あれで案外芯があるぞ」

「まぁ、そうかもしれないけど、一応ね」


 普段の弱腰を見ていると、つい御しやすそうに思えるハルカだが、意見を聞いて考えて、最終決定を下しているのは大体ハルカだ。

 流されやすい部分もあるが、意見がないわけでもない。

 決定的な部分が食い違えば、説得は難しいタイプの性格をしている。


 以前仲間たちをみて、ハルカに対して随分甘いと感じていたのだが、いつの間にかイーストンもすっかりその仲間入りをしていたようである。

 ハルカは放っておけない雰囲気があるので、どうしてもそうなりがちなのだ。

 能力が高いくせに自信なさげで気が小さいのが悪い。

 自分が気にしてやらなければならないと思ってしまう。


 しかしまあ、多少過保護でもいい、仲間なのだから。

 開き直ったイーストンは、門の近くまで歩いていき、城壁に寄りかかって地面に座り込んだ。


 目を閉じて、ハルカが話を始めるのを待つ。

 たくさんのコボルトに聞こえるように話すのなら、ここで座っていても声は聞こえてくるだろうから。


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― 新着の感想 ―
[一言] なし崩し的に領土が広がっていきそう
[一言] 着々とハルカ王国への階段を駆け上がっていってますねぇw
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