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私の心はおじさんである【書籍漫画発売中!】  作者: 嶋野夕陽
その土地に住まうもの

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実験

 障壁から少し距離を取ってもウルメアが暴れ出さないのは、イーストンの話に対する希望を持っているからだろう。

 なんにしたって吸血鬼を夜の間に殺せる存在なんてほとんどいない。


 場所を移したイーストンは、横目でウルメアの様子を見ながらハルカに問いかける。


「ハルカさんは捕まえた相手って殺せないでしょ?」

「……かなり抵抗はありますね」

「だからってずっと閉じ込めて生かしておくことも当然難しい。これから先ずっと障壁の維持をしながら生きてくわけにもいかないでしょ」

「おっしゃる通りです」


 肩身の狭い思いをしているハルカに、こっそりと同意しているのはカナである。気持ちはよくわかるというところなのだろう。


「賊とかと戦うってなったら、結構遠慮なくやれるのにな。何がちげぇの?」


 首を傾げるのはアルベルトだ。

 実際今までだって旅をする中で、襲ってきた盗賊を返り討ちにしたことは幾度かある。

 ハルカはそんなときであれば、仲間との連携を維持して、きちんと相手を仕留められるのだ。


「……昔師匠に言われたことを自分なりに考えたんですよ。大事なものは何か、優先順位はどうなっているか、躊躇うほどそれを失う可能性は上がると。だから急な戦いとなれば、私は自分たちの安全を最優先に動きます。そこで躊躇ったことで、アルたちに何かあっては後悔しきれませんから」

「ふぅん、へー……」


 体を左右にゆすってニマニマしているのはコリンだ。ハルカの覚悟の一部が自分たちに関連していることが嬉しかったらしい。


「ただ、今回は……なまじしっかり捕まえてしまっているせいで、何か他に道はないものかと考えてしまっているんです。そうですね……時間制限は、朝までだろうなと思っていますが。それ以上は、この後の予定に影響しますから」

「この話を聞いたら、ノクトは喜びそうだな」

「そうでしょうか?」

「そうだとも。ノクトだってなんでも殺せばいいと思っているわけじゃないさ。……いや、うん、多分そう……だと思う……」


 段々と自信なさげに声が小さくなっていくのを聞くと、まるでノクトが快楽殺人者のように聞こえてくるから不思議だ。


「カナさんは知ってるです?」

「何を?」

「ノクトさんがウルメアに何をしたかをです」

「うーん……」


 本人に聞いても答えの返ってこなさそうな話だ。

 しばらく回答を渋っていたカナだったが、全員からの視線を浴びて、ゆっくりと口を開いた。


「ウルメアの一族の名を聞いたことがある。昔にディセント王国の貴族の一部を裏から操っていた一族だ。ノクトは彼らに強い恨みを抱えていた、らしい。……詳細は省くが、ノクトはあの一族の多くを障壁に閉じ込めたまま、王城まで乗り込んだことがある」

「今の姿からはあまり想像がつきませんね?」

「そう? 僕は想像つくけど」


 ごくりと唾を飲んだハルカの言葉を、イーストンがあっさりと否定した。


「それで、話を戻すけど、いいかな?」

「あ、はい、お願いします」


 場が静まったところで主導権を取り戻したイーストンは、相変わらずウルメアから目を離さずに話を続ける。


「吸血鬼って死ぬとヴァンパイアルビーを残すでしょ。あれって、吸血鬼の力の結晶だって言われてるんだよね。実際あれってかなりの魔素が込められてるでしょ?」

「そですね」


 問われたモンタナがそれを肯定する。

 

「うむ、その話は私も聞いたことがあるぞ。昔ユエルが宝石から魔素を取り出す研究をしているときに重宝していた」

「ユエルさんですか……」

「あの人かぁ……」


 ハルカとコリンによるほぼ同時の呟きにカナは苦笑した。


「そういえば戦ったことがあったのだったな。でもほら、ユエルは綺麗な人や可愛い人が好きだろ? 手加減してくれたんじゃないか?」

「してたかなぁ?」

「確かにカーミラには少し優しかったような気がしますけど……」


 あのエルフの魔法使いにはあまり良い思い出がないハルカたちである。


「ふむ、それでイース殿は何が言いたいのだ?」

「ああ、つまりね。一度殺してウルメアのヴァンパイアルビーを取り除き、直後に治癒魔法で元の姿に戻す。そうしたら、吸血鬼としての能力を失ったウルメアになるんじゃない? って。そしたらケンタウロスのところに置いとくなり、監視下に置くなりしやすくなるのかなって。……まあ、実験みたいなものだから気に食わなければやめたほうがいいけどね」


 やや早口に、一息に話し終えたイーストンだったが、場はしんと静まり返っていた。


「よ、よくそんなことを思いつきましたね」

「そんなに変なこと言ったかな? 僕は吸血鬼を吸血鬼たらしめるのが何かって、結構長いこと考えてきたんだ。結論として、それは多分血だ。吸血鬼の体の中に流れる大量の魔素の通った血が、吸血鬼の能力を作り出している。死んだ時にそれが結晶化したのがヴァンパイアルビーだ」

「ありえ……るかも?」

「意味わかんねー」


 コリンが首を傾げ、アルベルトが理解を放棄し、レジーナはすでに聞く耳を持っていなかった。


「理屈としては間違ってないと思う。試してみるのは非人道的かもしれないけど、どうせ殺すならやってみてもいいんじゃないかな。生かすことも、更生の機会を与えることもできる。それに吸血鬼としての誇りを持っているウルメアがそれを無くすことって、もしかしたら殺されるより辛いことかもしれないしね」


 ハルカは考える。

 提案されてしまうと、それよりも納得のいく未来を見るのが難しいような気もしてくる。

 できるのか、できないのか。

 やっていいのか、いけないのか。


 決めるまでの時間はそれほど残されてはいない。

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― 新着の感想 ―
[一言] イースさん理屈としては間違ってないし成功すると見込んではいるのでしょうけどけど別に失敗してもいいやって思ってますよね?
[一言] なんだろうこのアウラ臭w
[一言] 面白そうですね、ぜひやってみましょう(*´∀`*)ヽ(・∀・ )ノ キャッ キャッ
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