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私の心はおじさんである【書籍漫画発売中!】  作者: 嶋野夕陽
その土地に住まうもの

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先にやるべきこと

 カナの伝令によって、待機組がナギとともに前進。

 テントを踏み潰してしまっても困るので、ナギだけが外に待機して仲間たちと合流する。

 もちろん目の死んでいるウルメアが収納された障壁の箱も一緒にだ。


 ウルメアが居丈高にふるまう様子しか見たことがなかったグラナドは、いったい何をどうしたらこうなるのかと、若干引き気味である。


「やはりいきなり攻めてきたのには理由があったのだな」

「リザードマンの若い戦士か。言い訳にしかならんが、吸血鬼たちに一部を人質に取られている」

「そうか。今はもういいんだな」

「事こうなってしまっては、この状況が明るみに出る前に、吸血鬼たちを倒すしかあるまい」


 難しい顔で決意を表明したグラナドは、はっとしてレジーナの方を見て付け足す。


「もちろん、そちらが我らを信じ、加勢を認めてくれるのであればだが」

「知らねぇよ、ハルカに聞け」

「ハルカとは……そちらのダークエルフか。…………まるで昔話で聞いたゼスト様のような美しい見目だな」


 容姿を褒められると反応に困るのがハルカである。

 適当に同意をするようなしないような音を口から漏らして頬をかく。


「ハルカ殿がこの一族の長か」

「一族……」


 寝食を共にしている間柄だから、ケンタウロスの概念で言えば一族には違いないのだろう。

 カナは別勢力の偉い人だから別。

 ニルは一族というよりは定年退職済みの元上司みたいな感覚がちょっとだけあるので、これもまたちょっと別だけれど。



「ええ、その、一応まとめ役のようなことをしています」

「うむ。我ら森のリザードマン一族の王である」

「王か……、なるほど。その威をもってウルメアを従わせたわけだな」

「あ、いえ、その辺は今一つよくわかりませんが」


 ウルメアがこれだけ怯える理由を知っているのは、本人とお留守番の師匠ぐらいである。


「お話の前にさ、砂漠のリザードマンと和睦してさ、それからこの吸血鬼から情報収集しておこうよー」


 コリンの意見に数人のケンタウロスが、うんうんと頷いて同意する。

 転がされてすっかり従順になっているようだ。

 強いものに従うという感覚は、破壊者ルインズの戦士にとっては当たり前の思考なのかもしれない。


「そうですね……。では、ええとそちらの……」

「グラナドだ。ケンタウロス一族の長をしている」

「ではグラナドさん、それからニルさんとサマルさん、あと私で砂漠のリザードマンの下まで交渉しに行きましょう。……少人数の方がいいですよね?」


 ハルカはカナやイーストンのいる方へ確認すると、頷きで答えが返ってくる。


「吸血鬼も連れてくですよ。事の元凶がいたほうが話が早いです」

「あ、そうですね。ではそうします」

「不意打ちと間違われないように、明るく目立つようにねー」

「わかりました」


 コリンに言われるがまま、ハルカは自分たちの上に光の玉を浮かび上がらせた。

 光量のイメージは野球のナイターで使う灯りぐらいだ。

 やり過ぎ感は否めないが、この状態で不意打ちを疑う者はいないだろう。

 逆に攻撃魔法じゃないかと身構えられる可能性はありそうだが。


 そんなわけで、ぞろぞろと横並びになって陣地を出たハルカたちは、そのまま平原を歩き、リザードマンたちの駐屯地へ向かう。

 明るい光は、一キロ以上離れたリザードマンたちの駐屯地からでも確認することが出来るだろう。


 砂漠と平原の境目。

 草花よりも砂の量が目立ち始めて暫くしたところで、ハルカたちはずらりと並ぶリザードマンの集団と向き合うことになった。

 各々が武器を構え、いつでも戦えるように緊張をしている。


 一歩前へ歩み出たのは、体の引き締まった手足の長いリザードマンだった。

 その鱗は砂漠と同色で、背中は曲がっているが、背筋を伸ばせばニルと同じかそれ以上の上背がありそうだ。


「グラナドよ! 何をしに来たのだ。今晩か明日にこそ、我らは雌雄を決するのだとばかり考えておったぞ!」


 しゃがれた声を張り上げ、威嚇するように槍の石突で砂を叩く。


「ナミブよ! 事情が変わったのだ! 全てを水に流せとは言わぬ。話し合いをする場を設けさせてもらえないだろうか!」


 ナミブと呼ばれた年経たリザードマンは、灯りの下にいる面々の顔を順にみて、サマルを見つけると目を大きく見開く。


「サマルよ! なぜここにいる!」


 サマルは背筋を伸ばし、しっかりと大地を踏みしめて先ほどの二人よりも大きな良く通る声で答えた。


「森の大戦士ニルとその王に導かれ、不毛な戦を終わらせるためにここにいる! この戦いは吸血鬼の卑劣な策により引き起こされた! 我らは盟友だった! 足並みをそろえ、手を取り合い、吸血鬼と戦うことこそが我らの進む道だと具申する!」

「嘘偽りないか!」

「我が槍と我が尻尾に誓って偽りない!」


 ナミブはサマルをじっと見つめてから、障壁に入っているウルメアを睨み、もう一度石突で砂漠を突いた。


「我らが若き戦士の誓いを信じよう。しばし待て! 同じ人数を連れてそちらへ行く!」


 それからナミブは、仲間たちの方を振り返り名前を順番に呼んでいく。

 呼ばれたものはそれぞれが立派な戦士なのだろう。

 連れ立ってやって来た一団には、それだけの威圧感があった。


 ハルカたちの少し手前で足を止めたナミブは、ニルとハルカを見比べるようにしてから口を開く。


「大戦士ニルよ、覚えているぞ。儂の腰がまだ伸びていたころにやって来たお主は、強く若い戦士だった。儂はお主こそ森のリザードマンの王となっているのだとばかり思っていた。お主ほどのものが従う王ができたというのか」

「儂も覚えているぞ、ナミブの頑固爺。一時は王となったとも。しかしな、すごいぞ、うちの陛下は」

「……ニルさん? 私の話はいいですから、身の丈以上に評価しないでください」


 ニルはハルカの背中を軽く手のひらで叩く。


「こういう時は胸を張って威厳を見せるのだ。その方が交渉事は上手くいく」

「……それはわかりますが、そんなことをしなくても上手くいきそうでしょう」

「……ばれたか」


 ニルの口から変な音が漏れる。

 それは笑いをこらえてでたものだった。


「ニルさん?」

「とにかくナミブよ! 陛下は戦乱を望まぬ。あちこちで悪さをする吸血鬼を退治するためにはるばるここまでやって来たのだ! 折角来たのだ、話をしようではないか」


 ハルカのじっとりとした視線を躱すように大きな声を出したニルに、ナミブは腕を組んで答える。


「話は構わん。しかし……先ほど巨大な飛竜が空を飛んでいた。そちらの陣地の近くに降りたようだったが、長が陣を離れて問題ないのか?」

「あ、私たちはその飛竜の背に乗ってきたんです。ナギというのですが、大人しい子なのでそこは安心してください」

「大人しい子……? なるほど、あれほどの飛竜を従える王か」

「いえ、その……卵の頃から育ててきたというだけで、特別何というわけではなく……」

「しかし何だな。大物であることには違いないのだが、王にしては謙遜が過ぎるようじゃ」

「そこなのだ、ナミブよ。儂もそれにはすっかり困っておる」


 意気投合して自分の話ばかりする二人に、ハルカはため息をついて口を挟む。


「……話を進めましょうか。ここは私の話をする場ではありませんから」



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― 新着の感想 ―
推しを自慢したいお爺ちゃん
ため息つきたいのは周りの人だと思う()
[良い点] ニル爺さんによるいつものハルカ陛下威光アピールタイム
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