違い
灰の巨人とスケルトンの群れは、いくら攻撃しても人型をとって襲いかかってくる。体力にはまだまだ余裕があるが、打開策は考えなければならない。
そんな中、最初に行動を起こしたのはカナだった。
槍が発光し、ギラリと光った先端が閃くと、伸びてきていた灰の巨人の手首が切り落とされる。落ちた手首は形を保つことをやめ、そのままサラサラと地面へ散らばった。
灰はわずかに蠢いているが、先ほどのようにすぐに元の形に戻ることができないようだ。
「訓練の成果を!」
カナが槍を掲げる。
暗闇に照らされたその姿は、本に描かれ、人に崇拝されるのもわかる凛々しさだった。
そこからは数がみるみるうちに減っていった。
元々戦闘能力は圧倒的に上回っていたのだ。
驚異的な再生力を封じられてしまえば、アンデッドたちに勝ち目はない。
「下の遺物を止めました!」
ハルカがひょっこりと顔を出した時には、地上はスケルトンを数体残すばかりになっていた。わずかに蠢いていた灰も骨も、すっかり鳴りを潜めている。
最後にレジーナがパカンと頭蓋骨を粉砕したところで、立っているアンデッドがいなくなった。
あちこち骨と灰だらけで、とても居心地の悪い空間になってしまったが、今日はもうここで休むほかない。
「地下に遺物がありました。前に拠点にあったのと似たものです。おそらくそれがアンデッドになんらかの影響を与えていたんでしょう」
「またそれかー……。ブロンテスさんは、確か当時の人が作ったって言ってたよね」
「すまないが、その遺物というのは?」
穴の中を覗き込んでから、カナが首を傾げながら尋ねる。しばらく一緒にいたけれど、まだ話していないことは色々あるのだ。
「ええっと、ブロンテスさんの話も含めて、最初からお伝えしますね」
「うん、すごく興味がある」
「その前に穴を埋めてしまいます。ちょっとだけ待っていてください」
ハルカはとりあえず土を穴の中に戻し、足りなかった分はコルクのような大岩を生み出して詰め込んでおく。
ここまでしておけば掘り起こすのは至難の業だ。
掘ったところで遺物は壊れているし、いざという時にはこのコルク岩が目印にもなる。
焚き火の周りに戻ったハルカたちは、〈忘れ人の墓場〉にアンデッドたちが溢れた時のことを思い出しながら、カナに当時のことを語った。
「死人を必ずアンデッドにするための遺物、か」
「おそらくそうでしょう。今回のはそれに加えて、アンデッドになったものが夜になると復活し続ける効果をもたらしていたのだと思います」
「そうか……」
カナの表情は険しい。
気分のいい話ではないし仕方のないことだろう。
「実は私も破壊者たちからは色々と聞いているんだ。はるか昔、戦を繰り返していたのは人族の方だとな。正確には、魔素を利用した兵器による大規模な戦争を、だが。きっとこの遺物も、そんな目的に作られたものなのだろう。当時は今よりも随分と便利な世界だったと聞くが……。それと引き換えに生命を弄ぶようになるのなら、私は今の方が好ましいな……」
やや顔を伏せたカナを見て、ハルカたちは黙り込む。
「今だってあちこちで人が死んでる」
白けた顔でツッコミを入れたのはレジーナだった。難しい話になんか滅多に入ってこないのに、どうしたことだろうか。
「それは、そうだが……。対処のできることの方が多いだろう?」
「強けりゃな」
レジーナは立ち上がると、「寝る」と言って焚き火から少し離れて横になった。
「何か……気に障ることを言っただろうか」
「あ、気にしないでくださーい。えっと、じゃ、見張の順番決めて休みましょ。明日も朝早く出かけないといけないし」
「そ、そうだろうか?」
「はい、カナさん気にしない気にしない、本当に大丈夫ですから。じゃ、私とカナさんとアルが最初の見張りね。モン君とイースさんが次で、最後がハルカとニルさんとレジーナで! はい、おやすみ!」
ぱんぱんと手を叩いてコリンは、全員に動くことを促した。カナは相変わらず気にしているようだったが、フォルが慰めるようにその肩に顔を擦り付けている。随分と主人思いな地竜である。
コリンは妙な雰囲気を心配するハルカの背中を押して、レジーナの方で休ませると、すぐに焚き火の方へ戻っていき、カナに声をかける。
手のかかる大人たちの相手は慣れっこだ。
ハルカも一応その場に寝転がって、レジーナの様子を観察する。もしかしたらまだ起きているかもと思ってのことだったが、レジーナは規則正しくちゃんと寝息を立てている。
宣言通りに眠っているらしい。
レジーナは童顔だ。
三白眼の瞳が隠れて、眉間に皺が入っていなければ、彼女をいかつく見せるのは顔の傷ばかりである。
年相応、よりも随分と若く見えるレジーナが何を思ったのか。ハルカは、目が覚めた時、レジーナと少し話をしようと決めて、自分も少しだけ休むことにしたのだった。





