情報交換夜の怪
冒険者達がぞろぞろ歩いて暗闇の森の方面へ向かう。
まだまだそちらは何も開発していないので、草木が生えているくらいだ。
ハルカは歩きながら〈アシュドゥル〉でこの地面の下に遺跡が埋まっている可能性が高いという話をされたのを思い出していた。
いつか招いてもいいのだけれど、問題が一つ。
アンデッドを埋葬する際に、かなり深く広く穴を掘ってしまったので、その一部ごと完全にえぐってしまった可能性があった。たまたま遺跡をそれていればいいけれど、もし招いた後に、大切な部分がなくなってる、とか言われたらどきりとしてしまう。
どうしたものかと考えながら歩くこと暫く、十分に拠点から離れてからハルカ達は適当に、ただお互いに向き合っていびつな円を描くように腰を下ろした。
レジーナだけは腕を組んだまま立っていたけれど。
主立ったメンバーは全員いる。
ただ現時点でリザードマン達について知らないものには声をかけていない。
余計な心配は掛けなくてもいいだろうという方針からだ。彼らの多くは冒険者ではないし、オラクル教の教えになじみがあるから、破壊者に対する恐怖感情もある。
実際それは間違った考えではないし、意味もなく慣れてしまっていざという時に逃げ出すのが遅れてしまっても困る。
善悪なんてものは存在せず、破壊者は危険なものであるという教えは、そういった面から言えば効果的だ。その認識が正しいとか間違っているとかいう問題ではない。
暗闇でよくよく見ればわかることだが、イーストンの瞳は薄ぼんやりと、カーミラの瞳ははっきりと赤色に発光している。これは他の光源がある場所にいれば目立つものではないが、例えば今すぐハルカが光の玉を消した場合は一目でそれだとわかるだろう。
外見的特徴にしても十分に一致していることから、呼び出した理由が察せられていてもおかしくないだろう。
「これは、あの話をするためって考えていいんだろうか」
「はい、そうです」
「なるほど……、では話をしよう」
案の定と思ってハルカが頷くと、カナも重々しく頷く。
「ここにいる人たちは、ハルカさんが破壊者の知人がいるというのを知っているってことだな」
「……あ、はい、そうですね」
ちょっとピントのずれた話をされたけれど、ハルカはなんとなく同意する。
てっきりイーストンやカーミラと吸血鬼の話が始まると思っていたからだ。
「ハルカさんから聞いているかもしれないが、【自由都市同盟】でも破壊者との交流がある。南方大陸の東にはさらにもう一つ大陸があるのだ。それもそう遠くない場所にな」
これは前置きなのだろうと思って、全員が黙って聞いていると、カナがそのまま話を続ける。
「しかし……もしかして紹介をしてくれるのだろうか? それとも今からそちらへ案内してもらえるとか?」
素直に首をかしげているカナを見て、ノクトは「ふへへ」と笑った。
なんだか妙に楽しそうだ。
「ハルカさん、話がずれてると思ったらちゃんと軌道修正しましょうねぇ。カナさんは昔からちょっと察しが悪いので」
「……ノクト?」
「いえ、あの、間違ってはないんです。その話もあるんですが、今回主に話したかったのは、エトニア王国から逃げた吸血鬼の話なんです。もしかしたら情報提供ができるかと思って場を用意させてもらいました」
「……ええっと、その、誰かが情報を持っているということだろうか?」
ぐるりと面子を見てからカナが再度問い返す。
どうやら気づいていないようだった。
「お姉様、本当にこの方強いのかしら?」
「察しはあまりよくないみたいだね。ハルカさん、灯り、小さくしてもらってもいいかな?」
今回の話の性質上、珍しくハルカの両脇に待機している二人からの静かな突っ込み。
「僕たちを見て何か思うところはない?」
どんな反応をするのか。
イーストンはテストしてみたつもりだった。
不意を突いて吸血鬼が二人も、それも至近距離で現れたとき、それを敵とみている者だったら、何かしらの反応があると思ったからだ。もちろん、ここまで何も気が付いていないのが演技でなかったとするならばの話だが。
その辺りはじーっと観察をしているモンタナに、後で確認すれば問題ない。
「君たちは……、吸血鬼?」
カナは僅かに警戒心を抱いたようだったけれど、武器に手をかけることすらしなかった。
「カーミラ=ニーペンス=フラド=ノワール。一応言っておきますけれど、私はエトニア王国とは関係ありませんわ」
正確には手先になりかけていたことがあるけれど、そのあたりの話をするとややこしいのでここでは省略してもいいだろう。
「それだと僕が関係あるみたいじゃない。イーストン=ヴェラ=テネブ=ハウツマン、半分人の血を引いている。ハルカさん達と一緒になる前は、旅をしながら街で悪さをしている吸血鬼を探して仕留めていたよ」
そう、このイーストンというのは、元々対吸血鬼の専門家なのだ。
大陸広しと言えど、もしかするとたった一人だけの専門家かもしれない。
「カナ=ルーリエだ。……その、協力をしてもらえるのだろうか、いや、でしょうか?」
「普通に話していただいて構いませんわ」
「う、うん、そうか、それじゃあ、うん」
すまし顔をしているとカーミラもお嬢様らしい威厳が備わっている。
イーストンも本当の王子様であるから、なんというか豪華な並びである。
他の特級冒険者ならいざ知らず、カナは普通に一般市民的な感覚を持ち合わせているようである。
きっと苦労している。
「私が知っている情報は一つ。カルダス家なんて王の一族は存在しないはずですわ。古い記憶をよくよく思い出してきましたが、ハウツマン・ノワール・クリフト・セルド、これで全部のはずですの。詳しいことは……イースさんから聞くといいですわね」
「分からないからって全部押し付けるのやめてよ」
「……手柄を譲っているだけですの」
ハルカを真ん中に言葉のキャッチボール。
この二人、起きている時間がかぶっているからなのか、吸血鬼という共通点からなのか、意外と仲良しなのである。





