冒険者達
訓練を終えて、ギルドの食堂へ場所を移す。
久々にやってきて軽食を摂っている途中、モンタナの耳が「あっ」という小さな声をとらえた。
そこではサラとその仲間たちが足を止めていた。
「フォルは長く生きた竜種にしてはかなり小さい方かな。背にまたがるのがちょうどいいくらいの大きさなんだ」
「竜にもいろいろな種類がいるんですね。しばらく前に岳竜様にお会いした時は驚きました」
「ああ、一見山にしか見えないものなぁ」
サラの様子を見に来たはずのハルカは、すっかり竜の話に夢中だ。
元々暇なときにはボーっと飛竜たちを見ているくらいには竜が好きだから、同志だと思えば盛り上がるのも無理はない。
今はサラ達には背中を向けているような配置だし、誰かが教えてやらない限り気づくことはないだろう。
サラはいつも見ていたその背中に、声をかけようかどうか迷っているようだった。
一緒にいる若い女冒険者、アーノもハルカに対しては憧れのような感情を持っているので、気軽に声をかけることができないでいる。この間の森小屋の件で余計にその意識が強くなってしまったようだ。
サラは街に来て冒険者活動をはじめてから、あちこちで【竜の庭】とハルカの話を聞かされている。隣にいるアーノしかり、街で暮らす人々しかりだ。今までだってすごい人だとわかって接してきたつもりだったけれど、いざ噂を耳にしてしまったら、どう接していいかわからなくなってしまったのだ。
モンタナにはそんなサラの気持ちが手に取るようにわかる。
その目に不安や迷いが色としてなんとなく見えているからだ。
助け舟を出してあげることはできる。
しかしモンタナはそうせずに、じっとサラの動きを見守っていた。
サラはしばしアーノと話をしていたけれど、やがて意を決したのか、緊張した足取りでハルカの方へ歩き出す。
それを確認したモンタナは、サラを見るのをやめてテーブルに視線を落とした。
モンタナの前では、小さな火竜のトーチが、片手で器用に干した果物を引き寄せている。食事になると、よく勝手に食べ物を持っていくのだけれど、モンタナは好きなようにさせていた。
口にほおばったのを確認して、背中を二度つついてやると、腕を伝って肩まで登り寛ぎ始める。
「竜の賢さはな、実は大きさに比例するわけじゃないらしい。個体差があったり、育ちによって随分変わってくるのだとか。その点ナギは卵の頃から君たちと一緒にいたんだろう? 道理で人間臭い雰囲気を持っている。あれだけ大きければきっともう成竜なのだろうけど、どこか甘えたがりの子供のような雰囲気を感じた」
「そうなんですよ。獲物を捕ると運んできて見せてくれたりするんです。私達を家族と思ってくれているんでしょうね」
「そうだな。うちのフォルも別の竜に構っていると、体を寄せてきたりする。竜というのはあれで案外かわいらしくて……、おや」
「あ、あの!」
カナがサラが寄ってきたことに気づいたのと、声をかけたのはほぼ同時だった。
「ハルカさん! 今日はどうしたんですか?」
「あ、サラ。ちょっと街に用事があってきたんですよ。……顔色、悪くありませんね。頑張っているって聞きましたよ」
「……はいっ、一人前にはまだまだですが、いろいろ勉強しながら頑張っています」
しばらくぶりに出会ったけれど、いつもと変わらない雰囲気のハルカ。
サラはほっとしたように元気に返事をした。
噂で聞いていた、どこか遠いところのように思えてしまったハルカと、いつも接していたハルカの像が一致した瞬間だった。
「サラ、何級になったんだ? まだ討伐依頼とか受けられねぇの?」
「まだです。でも、ちょっとずつ上がってますから!」
「最初のうちの仕事って冒険者、って感じしねぇよな。頑張れよ」
「はい!」
アルベルトが昔のことを思い出してサラに励ましの言葉を贈ると、それに続いて仲間たちが次々とサラに話しかける。
その間にハルカは、サラと一緒にいたアーノに話しかけた。
「サラのこと、気にかけてくれてるんですね。アーノさんと、テイルさんでしたよね。ありがとうございます」
「いや、いやいやいや、そんな別に、当たり前のことですし!」
アーノが慌てて首を横に振ると、横にいた無口な少女、テイルも目を丸くしたままこちらはぶんぶんと首を縦に振る。
二人の首が交互に縦横に動くのが面白くて、ハルカは笑いながら続けた。
「良かったらこれからも仲良くしてあげてください」
「もちろん、もちろん!」
「うんうん」
今度は縦に一緒に動く首。
サラが素直ないい子たちと一緒にいるらしいことが確認できて、ハルカはすっかり安心だ。
がやがやとした場の中、カナは少し身を引いて、隣に座っているノクトに話しかける。
「仲がいいんだね、ここの子達は」
「そうですねぇ。ハルカさんがえらく仲間のことを大事にしますからねぇ」
「仕事だけってチームやクランも多いのにね」
「……羨ましいことだ」
同じく話に交じらずにいたエニシがぽつりとつぶやく。
「エニシさんも混ざってきたらどうですかぁ?」
「我は……余所者だ。あのサラという少女のことも分からぬ。水を差しては悪いではないか」
「そんなに気にしなくていいと思いますが。さて、僕もサラさんには魔法を教えてますからねぇ、先生として一言二言お話ししてきましょうかぁ」
「ノクトが? 先生? ……うーん、ちょっと変わったな、やっぱり」
立ち上がってのろのろと歩き出したノクトは、振り返って笑う。
「ふへへ、生きてればねぇ、そういうもんです」
「まぁ、そうか、生きていればな。楽しそうで何よりだよ」
何か通じるところがあるのか、しみじみと言葉を繰り返し、カナは静かに笑う。
「生きていれば、なぁ」
さらに続いたエニシは、一人難しい表情で息を吐いた。





