拾いもの
ハルカは仕方なくイーストンが待っている場所へ戻る。
断っても勝手についてくるような輩の対処をハルカは知らなかった。
「おお、これはまた、目を見張るような良い男ではないか。ん、いや、しかしどこかで見たことのあるような……」
フードをかぶり直した少女が不躾にイーストンに近付いていく。そして背伸びをして顔を覗き込もうとしたところで、イーストンは体をややのけぞらせて眉間に皺を寄せた。
「何拾ってきたの。ユーリ、ハルカさんが変なもの拾ってこようとしたら止めないとダメだよ」
「ごめんなさい」
「あの、イースさん? 私が拾ったわけではないですからね。勝手についてきたんです。運命を視ることができるというので、金銭をいくらか支払って見てもらったんですが……」
「運命を視る……? 君、何?」
「ふふ、我の正体を知りたいか」
「面倒くさいな……」
「では仕方がない」
イーストンの塩対応を無視して少女はフードに手をかけて、もったいぶってからばっと顔を見せた。
「これがその正体の美少女だ!」
「………………コトホギの一族?」
「やば」
イーストンがそう言った瞬間、少女は身をひるがえした。
しかし直後にイーストンの手が伸び、そのぶかぶかの上着を掴んだ。
「ぐえぇ、は、放せ! 放すのだ!」
確かに美少女なのに、いちいちリアクションが小悪党っぽい。
少女が大声を出そうとすーっと大きく息を吸い込んだ瞬間、イーストンはため息をついて後頭部付近を強くたたいた。
イーストンはがっくりと全身の力が抜けた少女を抱き上げて、ベンチに寝かせる。
「変なもの拾ってこないでよ」
何かに気づいたようだけれど対応ははじめと大差ない。
すごくまずそうな雰囲気に、ハルカは恐る恐る尋ねる。
「イースさんはこの子について何か知っているんですか?」
「……長い黒髪で運命を視る、しかも偉そうな態度ってきたら【神龍国朧】の巫女一族だと思うよ。なんか変な首飾りさげてるのも一致してるし。この子が視た運命ってでまかせだった?」
ユーリが首を横に振ると、イーストンはまたため息をついた。
「じゃあ、多分かなり中枢に近い巫女だね。絶対に島から出てこないような一族がなんでこんなところでふらふらしているんだか」
「まずいですか?」
「僕にもわからない。どうしようかな……、とりあえずみんなが帰ってくるの待って、落ち着いて事情聴くために街の外に連れ出そう。目を覚ましたらまた叫び出しそうだし……」
「……何してるです?」
イーストンが珍しく対応に悩んでいると、モンタナがのんびりと歩いて戻ってきた。腰に下げた袋が膨らんでいることから、出していた商品がいくつか売れたであろうことがわかる。
事情を語っていくと、モンタナがハルカを見上げて言った。
「何でもかんでも拾ってきたら駄目です」
「ですから、私が拾ってきたわけではないんです……」
どうしてそんなになんでも拾ってくると思われているのか、と、ハルカは自分の行動を省みることをせずに考えていた。しかし仲間たちからすれば、変な奴が寄ってきたり、変な奴らを助けたりするのは、矛盾のないいつものハルカの行動だ。
たまには注意くらいしなければというタイミングが、イーストンとモンタナで一致したということだろう。
そんな話をしているうちに鐘が鳴る。
当然のようにアルベルトとコリンの姿はまだない。
「お、間に合ったな。そんじゃな、相手見てケンカ売れよ」
「うるせぇ、次会ったらぼこぼこにしてやるからな」
しかし鐘が鳴っているうちに、広場ではなく街の方からアルベルトの声が聞こえてくる。
片方の頬を腫らした冒険者らしき人物と、殺伐とした会話を笑顔でこなしている。間違いなく喧嘩をやらかしているけれど、相手側の怪我が痛々しいだけで、お互いに遺恨はなさそうだ。手を振って去っていった。
最後の鐘が鳴って、ほんのしばらく。
それじゃあ仕方ないからとりあえずコリンを探しに行きましょうか、という雰囲気になったところで「お待たせー」と声がした。
「いやー、ちょっと買い物に熱中しちゃってさ」
声をかける前に地図をさっと隠して汗をぬぐったのをモンタナは目ざとく見ていたけれど、合流しても何も言わなかった。モンタナなりの優しさである。
「そんなこと言って迷ってたんじゃねぇの」
「迷ってないけど? 広場歩くぐらいで迷うわけなくない?」
「そですね、外いくですかね」
会話をしている間に、イーストンがハルカに気絶している少女を運ぶよう目配せをした。ハルカは仕方なくイーストンに手伝ってもらって少女を背負う。
「え、何その子。寝てるの?」
「えーっと……、歩きながら話します。とりあえずナギのところまで行きましょうか」
いつ目を覚ますかわからないから、さっさと人が少ないところまで退散したい。
そして途中まで説明した頃に、コリンが言った。
「あー、なるほど。またハルカが拾ってきたんだー」
「……勝手についてきたんですよ?」
おかしい。
いつから自分はこんな子供みたいな扱いをされるようになったのだろうと、ハルカは心の中で首をかしげながら街を歩くのだった。





