遺跡ってなぁに
「遺跡ってどんななんだろうな」
アルベルトが寝転がって空を眺めながら、全員に聞こえるように言った。
帰りに〈アシュドゥル〉の街へ行くと聞いて、アルベルトなりに色々と考えてみたらしい。
遺跡には昔の文明の遺物が残されており、場合によっては一獲千金の宝物が掘り出されることもある。特に〈アシュドゥル〉の街の地下に眠る遺跡は、時代が入り乱れており、物によっては神人時代よりもさらに昔のものもあるとされている。
大陸の要所にある街なので、どの時代にも街が作られ、そして砂に埋もれて消えていった歴史があるのかもしれない。
比較的文献を漁る方であるハルカが知っている情報もその程度で、実際どんなものであるかはよくわかっていないのだが。
以前立ち寄った時はオークションが開催されていたりして、とにかくにぎやかな街であったことは憶えている。
とまぁ、そんなことを考えてからハルカはあれっと思い首を傾げた。
「私達、遺跡に入ったことありますよね?」
「ねぇけど」
「ほら、プレイヌの街の郊外で、ジーグムンドさんたちが図書館のような遺跡を調べていたじゃないですか」
「ハルカさん、あの時アルは外で訓練してたよ。モンタナもだね」
「あぁー……」
アルベルトがハルカと一緒にしばらく首を傾げていると、横からイーストンが助け舟を出してくれる。
一同納得である。
あの時はうるさそうな性格をしている小人族のヨンがいたから、もしアルベルトが中に入って好き勝手していたら、あっという間に追い出されていたことだろう。
「どっちにしろ図書館じゃ面白くねぇな」
「〈アシュドゥル〉にはいろんな遺跡があるそうですよ」
「ふーん、一個ぐらい入ってみてもいいよな。……でも、遺跡に入るのってなんで冒険者がやるんだ? 危なくなくね?」
言われてみるとよくわからない。
以前見た図書館のような遺跡の場合、現場の保存や繊細な発掘のために、専門家が必要になってくるのはわかる。
しかし、あれを発掘する際に危険があるとは思えなかった。
アルベルトの問いに自信なさげに答えるのはハルカだ。
「確か、アンデッドがいる、とか?」
「アンデッドって、ブロンテスのおっさんが生んだんじゃねぇの?」
「地上に大量発生させる原因を作ったのが彼ってだけじゃないかな。元から魔素を取り込んでアンデッド化する現象はあったんじゃない?」
「……なんで遺跡に死体がいっぱいあるんだ?」
「確かに……、っていうか、遺跡ってなんで地下に埋もれてるんだろー?」
疑問が減るどころか、コリンまで首を傾げてしまってもう手に負えない。
「街について聞いてみればわかるですよ」
「ま、そうか」
それぞれが考え込み始めたところで、モンタナがうまいこと話をまとめてくれた。
〈アシュドゥル〉の街。
楽しみはどうやら美味しい食べ物屋さんだけではなさそうである。
〈アシュドゥル〉の街が近づいてくると、あちらこちらにぼこぼこと高い旗が立てられている。
これはその下に遺跡があるという印であるから、うかつにその付近にナギが着陸しようものなら大変なことになってしまう。
代わりと言っては何だが、本当に遺跡がない場所は木を抜かれ掘り返され、そのまま放置されているから、意外と空き地自体はたくさんある。
ナギはその一角にそーっと着陸して、ぐいっと首を伸ばして周囲の旗の位置を確認した。ハルカに『旗の所は避けて降りる』ことをしっかり言い含められていたナギは、自分が失敗していないか心配になったのだろう。
ちなみに旗が点在する範囲はアシュドゥルを中心に、街の十倍ほどまで広がっている。かつてこの地がどれだけ大きな都市であったのかを想像できる規模である。
しかもこの範囲は年々じわじわと広がっている。
つまり、まだまだ〈アシュドゥル〉付近の遺跡は発掘されつくしていないのである。
まだ明るいうちに街の近くまで行こうと出発するも、この辺りは随分とグネグネとした道が続く。ナギは時折翼を木にぶつけながら小さくなって進んでいく。
ナギには申し訳ないと思いつつ、その姿をハルカは微笑ましく眺めていた。
「なんだなんだなんだ!? どこの馬鹿だ!?」
突然悲鳴のような声がして、ハルカ達は慌ててそちらに目を向ける。
ガサガサと茂みをかき分けて現れた男性は、ナギを見るとぴたっと動きを止めて口をあんぐりと開けたまま首をゆっくりと上に傾け、ペタンと地面にしりもちをついた。
「り、りゅ、竜だ……でかい」
土で汚れた服を着た男性の腰には、ノミやらハンマーがぶら下げられている。
おそらくこの辺りで遺跡にこもっていたのだろう。
「なんでもない、なんでもないんだ」
ずりずりと尻で地面をこすりながら茂みの中へ潜っていく男性。
これ以上驚かせるのも申し訳ないと思うのだが、自分が動くと余計状況が悪化することが多いのは、ハルカもちょっとだけ理解している。
「おい、馬鹿って言ったか?」
そしてこんな時、躊躇なく動くのはいつだってアルベルトだ。
男の目の前まで行ってしゃがんで、アルベルトは威嚇するようにそう言い放ったのだった。





