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私の心はおじさんである【書籍漫画発売中!】  作者: 嶋野夕陽
悩みの種

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リザードマンの里の戦力

「仲間の方々を連れてらしたんでしたね、迎えに行きましょうか」


 ドルが歩き出したのに合わせてハルカたちも後に続く。ついてくるのはサラとニルそれからミアーだ。ウペロペは歩くのが遅いため、そのまま他のハーピーに運ばれて家に帰っていった。


「それにしても随分と大きな竜と一緒に来ましたね」

「以前お話しをしたナギです。体は大きいですがおとなしい子ですよ」

「それを聞いて安心しました。お仲間の方は?」

「冒険者仲間です。前に来ていたレジーナとアルベルト以外に四人います」

「特に用事があるわけではないのですよね?」

「はい。しいて言うのであれば、ミアー達がうまくやれているかだけが少し心配でしたが……。元気にしているようですからね」


 ミアーはサラに興味があるようで、ハルカ達とは少し離れた場所で歩きながら話しをしている。鳥のような足で器用に歩いているが、飛び跳ねるように体が揺れているのがユーモラスでかわいらしい。

 サラも人に近いその見た目はあまり恐ろしいと感じないらしく、普通にやり取りをしていた。サラは元々同年代の子たちのまとめ役のようなことをしていたこともあり、自分よりも子供っぽい人物に対してやや甘い。

 そういった面でも、ミアー達ハーピーの性格は、サラが破壊者ルインズに馴染むためにはちょうど良かったのかもしれない。


 やがて里の門を開けると、その正面に地面にぺったりとお腹を付けたナギと仲間たちが待っていた。


 真っ先にミアーが文字通り飛び出していき、レジーナの方へ向かいながら声を上げる。


「レジーナ、来タ! 元気か! ミアーは元気ダッタぞ」

「うるせぇよ」


 すぐに手が出るんじゃないかと心配するような光景だったが、レジーナは鬱陶しそうにそう言っただけだった。前回のことでハーピーはうるさいものと認識したらしい。


「知らないのいる!」


 ハルカの話なんかまるで聞いていないミアーは、レジーナに挨拶をした後に空高く飛び上がりながら、残りの面々のことを警戒する。


「デッかい竜!」


 そうしてから今度はナギの全容を見て大きな声を出す。一人でワーワー騒いでいるミアーのことを心配そうに見ているのはサラぐらいで、他は早々にミアーのことは放っておこうと判断して、ドルとニルの方へ意識を向けた。


「里の中を見ていきますか? お時間があるようなら歓迎も致しますが」

「いえ、今回はちょっと顔を出しただけですので。それに……、ナギが中に入れそうにもありませんから」


 ハルカは振り返ってナギと里の門の大きさを見比べる。少なくとも門はくぐれないし、上を乗り越えたとしても、リザードマンの里の中は道が広くない。ナギが歩くと左右にある建物を破壊しながら進むことになってしまう。


「なるほど。ではこちらで軽い食事などができるよう準備をしましょう」

「あまり気にしないでください。挨拶だけできたら帰りますから」

「仮にも陛下がいらしてそれは少し……」


 ドルが陛下という言葉を出すと、慣れていない仲間たちがハルカの方に注目する。そして代表してイーストンが口を開いた。


「本当に陛下って呼ばれてるんだね」

「ええ、まぁ、そうです」

「ハルカさんってほとんどこっちに来ないけど、それでも王様ってやっていられるんだ?」

「私たちにとって王というのは強さの象徴です。里のことは私とニル様で何とかしますよ」


 コリンとイーストンが顔を見合わせ、それからまたイーストンが言う。


「……それだったらハルカさんが王じゃなくてもいいんじゃないの?」


 何か利用されているんじゃないかという心配から探るために出た言葉だった。

 しかしドルもそんな疑問が飛んでくることは予測していたのか、外からわからないなりに苦笑いをして答える。


「そうです。しかしリザードマンの里には決まりごとがあるんですよ。何人も生涯に一度だけ、王になるために決闘を挑む権利があり、それに勝利したものを王として崇めよと。もちろんそれにふさわしくない者はあらかじめ挑めぬように対応したりするのですが……、今回の場合はニル様に嵌められました」

「人聞きの悪い……と言いたいところだがそうだなぁ、わはは」

「どういうこと?」


 イーストンがじろりと見たが、ニルは気にせずに答える。


「儂はハルカ様に腰を治してもろうてな。穏やかな人柄も気に入ったし、これからのリザードマンのことを考えて、外部との交流を増やしたいとも思ったのだ。本当は儂が王に舞い戻って、ハルカ様と交流しようかと思ったんだがなぁ。ドルのやつが規則を持ち出して無理だとか言い出しよるものだから、いっそハルカ様に王になってもらおうとな!」

「負けるとも思わず私がニル様の挑発にのった結果がこれ、というわけです。浅はかでした。ただ怪我の功名か、ハルカ様の実力は十分に思い知りましたので、王として私たちの上に立っていただいているんですよ」


 判定はなかなか難しいところだが、関わっただれにもそれほど悪意を感じなかったからか、イーストンもコリンも苦笑しつつ納得してしまった。

 結局のところハルカが本気で断っていないからこその状態だ。

 悪意や打算が強すぎれば鈍感なハルカでも流石に断るだろうと、二人も分かっている。


 そんな話をしているうちに、村から数人のハーピーが飛んできて、そのまままっすぐナギの方へ向かっていった。近くまで様子を見にやってきて、騒いでいるミアーのことが気になったようだ。

 初めのうちはおっかなびっくりで近づかなかったハーピー達だが、ナギが何もしてこないでじーっと見ているだけだと判断すると徐々に距離を詰めて、挙句頭や背中に乗っかるようになった。

 賢い他の生き物とかにすぐに騙されそうである。

 今まで生き残ってこられたのは、険しい山に住んでいることと、空を飛べるというアドバンテージによるものだろう。

 空を飛べないと山の中で子育てすることは難しい。

 そう考えると今比較的豊かな土地でリザードマン達と共に暮らしていることは、ハーピーたちにとっては割と幸せなことなのかもしれない。


「まぁ悪だくみなんぞ何もしておらんよ。とりあえず折角来たのだから飯でも食っていくといい。ほれ、ドル、お前は準備してくるといい。儂が客人の相手をしておくからな」

「……くれぐれも無礼のないようにお願いしますよ」

「わかっておる」


 安請け合いの返事を疑りながらも、ドルは里の中へ一度戻っていった。

 そうして残ったニルは、背筋を伸ばして「さて」という。


「さ! 折角だし手合わせでもせんか! おーい、アルベルトよ、ちょっとは成長したか!?」


 見えなくなった途端に一般的には無礼な言動である。

 しかしにやりと笑ったのはアルベルトだった。


「言うじゃねぇか。やるぞ、吠え面かかせてやる」

「アル、前負けたです?」

「うるせぇよモンタナ」

「今回は一人でいいのか? ほれ、レジーナも一緒にかかってこんのか?」

「おっさんもうるせぇ! やるぞ!」


 なんだかんだと強者と戦う機会には飢えているアルベルトである。

 騒ぎながらも嬉しそうに準備を始めている。


「程々にしてくださいね」

「おお陛下、ほどほどにしてやるとも!」

「おう、怪我させない程度にやってやる」


 立ち会っていない仲間たちが、ハルカの周りに集まってくる。

 ちなみにレジーナはすでに武器を片手で振り回しながら順番待ちだ。

 モンタナもひそかにニルの動きをジーッと目で追って戦力分析をしているようだ。どうやらレジーナの後に手合わせすることを狙っているようだ。


「アル勝てそう?」


 コリンの純粋な疑問に、ハルカは首を傾げつつ答える。


「うーん、どうでしょう? いい勝負にはなると思いますよ」

「強いんだ、あのでっかいリザードマン」

「強いです。戦い方がうまいというか……、経験の差を感じますね」

「ふぅん……、よく見とこ」


 訓練はなかなかに白熱した。

 ナギの上からはハーピーたちのきゃっきゃという声援が飛んでくる。アルベルトとモンタナが相手をしている時はニルを応援したハーピー達だが、レジーナの時だけはどういうわけだかレジーナを応援していた。

 変に懐かれたものである。


 ニルの三連勝に終わり、ドルが戻ってきて呆れた顔でテーブルや椅子の準備を始めた頃、イーストンが難しい顔をして呟く。


「あれってさ、冒険者だったら特級に入るくらいの実力者だよね」

「あ、やっぱりそうですか。強いなと思っていたんですけど……」


 攻撃の破壊力や応用力。大きな体つきで柔軟に攻撃を躱す技術。そして当たったところでほとんど攻撃が通らない強靭な皮膚と体。並の冒険者が数十人束になってかかっても倒すことが難しい相手だ。

 街に敵として現れたら、ゆっくりではあるが確実にその機能を停止させるくらいの実力は持っている。


「まぁ、仲良くできる相手で良かったんじゃない?」

「ええ、いい人ですよ、ニルさん」


 それを従える国王の呑気な言葉に、イーストンは今日何度目かになるかわからない苦笑をするのであった。

投稿忘れてたようです…!

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― 新着の感想 ―
[一言] 特級クラス相手にいい勝負するアル達も、だいぶ凄いですね。
[一言] ハルカさんが居るのが前提である( ˘ω˘ )
[一言] >いい人ですよ、ニルさん ハルカと、ハルカの庇護下、と言う条件付きの「いい人」なのでしょう、多分
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