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私の心はおじさんである【書籍漫画発売中!】  作者: 嶋野夕陽
悩みの種

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隣国への訪問

 ひとまず腰を落ち着けたはいいものの、それくらいのことで思考をまとめるための時間は確保できない。最近夢の話がさっぱりなかったものだから、頑張り屋の女の子くらいにしか思っていなかった。

 よく考えなくてもサラと知り合ったきっかけは、彼女が夢でハルカの姿を見たことが始まりだ。それから〈ヴィスタ〉を離れるときだって、彼女が神子だったからこそ、連れ出すのに色々と考慮をする必要があった。

 普通忘れていたですませる話じゃないのだけれど、周囲に問題や気にするべきことが多すぎてつい意識から外れてしまっていたのだった。


 未来を夢で見る能力。

 確定ではないそうだけれど、今回の場合は十分に起こりうる未来を見たことには違いない。


 それにしても、昔のサラだったらもっと詰め寄ってきていた。拠点へやってきて一緒に暮らすようになって、随分と穏やかになったのだなとハルカは考えたが、実のところはそうではない。

 これは単純に、ハルカに対する好感度の問題だ。

 知らない人に警戒心を露わにするのは当然のことだし、逆に失敗を許し、辛いときに助けてくれた相手のことは信頼する。それが人生を変えるほどの出来事だったのだとしたら、どんなことがあってもまずは相手の話を聞いてみようと思うのが人情である。


 言葉を尽くして何かを説得することも考えたハルカだったが、想定する説明のどれもが、何か言い訳がましく思えてきてしまう。相手が受け入れる姿勢を持ってくれているときに、言葉を多くするのはなんだか違うような気がするのだった。

 長い沈黙ののち、ハルカは結局はっきりと正直に伝えることにする。


「私が、リザードマンやハーピーと仲良くしていることは事実です」

「……なんで、そんなことを?」


 息をのんでから落ち着いて問い返すサラ。それだけでも十分な成長であると認めることができるだろう。


「話が通じたからです」

破壊者ルインズと、会話……?」

「はい。人と話すのと同じように会話ができました。生活を営み、子供を育て、集団で助け合って生きています」

「私は、破壊者ルインズは戦うことばかり考えていて、人を食べたりするものだと……」

「ただ襲い掛かってきて、人を食らうものもいます。しかし私たちと同じように、家族や仲間を大事に毎日を生きているものもいます。

一部好戦的であるのは認めますが、戦った相手を許して共に暮らすことができるくらいには寛容ですよ」


 ハーピーに面倒な目に何度もあわされてきただろうに、リザードマンたちはハルカが方針を打ち立てると、異を唱えることなくそれに従った。前回の戦いで犠牲が出ていなかったことや、ハーピーたちの憎み切れない性格のお陰もあるかもしれいないけれど、その規律や寛容さはこの世界に生きる人の文化度に十分匹敵するものだ。


「…………もしできるのなら、私を一度そこへ連れて行ってもらえませんか?」

「……リザードマンとハーピーの下へですか?」

「はい。疑うわけではありませんが、破壊者ルインズが本当に私のきいてきたものと違うことを知りたいんです。生活する姿を見て、会話をしてみれば、きっと納得できます」


 それならすでにこの拠点に破壊者ルインズが潜んでいるのだが、言い出してしまうとまたややこしくなる。


「連れていっても構いませんが……。……そうですね、街へ行く前にコリンやモンタナたちも連れて、皆で行きましょうか」


 アルベルトは一度、レジーナは二度あちらに顔を出しているが、実は他の面々はあちらに出かけたことがない。この辺りで一度、リザードマン側に仲間たちの顔を覚えておいてもらうと、何かあったときに安心だ。


「……はい!」


 サラは緊張したような、何かを覚悟したような顔をしてしっかりと頷くのであった。



 そんなわけで、今日明日に済ませなければいけない用事を何一つとして抱えていない仲間たちを連れて、ハルカたちはナギの背に乗って拠点を出発する。

 事情を知っていて留守番するのは、ノクトとカーミラだけだ。

 前者は何か適当なことを言ってごまかしてきたが、要約すると、どうやら昔リザードマンの里で何かをしでかしてきたらしいので遠慮しておく、ということらしい。そういえばノクトとクダンらしき人族が暴れたことがあったという話をハルカは聞いていた。

 やはり本人だったらしい。


 朝早くの出発で、少し眠たそうなイーストンがナギの背に座り、その膝の上に乗ったユーリも一緒にうとうととしている。

 いつもだったら眠たそうにしているモンタナは、〈暗闇の森〉をじっと眺めて目を開けていた。その目には多分、ハルカたちには見えないものが映っているのだろう。


「ハルカって王様なんでしょ? 王冠とかあるの? 宝物庫とかは?」

「……ないですよ、多分」

「王様……?」


 コリンの純粋で不純な問いかけに答えると、隣にいたサラが首をかしげる。王様の話はあえてしないでおいたのにあっさりとばらされてしまった。


「なんだ、聞いてねぇの? ハルカがリザードマンの王様なんだぜ」

「…………ハルカさんは、ダークエルフですよね?」

「決闘に勝ったからな」


 腕を組んだレジーナが当たり前のように言うと、余計に訳が分からなくなったサラの首がどんどんと横に傾いていく。


「……リザードマンの王は、決闘で決まるんです。初めて訪問したときに、話の流れであちらの王様と決闘することになりまして、成り行き上そうなりました」

「…………決闘……?」


 話が通じるとか、人の営みとかそんな話を聞いてさぞかし平和な治世が敷かれているのだろうと考えていたサラの頭に疑問符ばかりが飛び交う。

 平和な治世が敷かれてる、というか、それをすべきなのがハルカだということになるわけで、そこはもうリザードマンの国なのかという疑問とか、まぁ、様々思うことはあるのだった。

 あと、決闘で頭が決まるなんて、とても文化的な暮らしをしているとは思えない。

 もしかしてとんでもないところに向かっているんじゃないかと、心には若干の疑念が湧いてしまったけれど、それはきっとサラのせいではないだろう。

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― 新着の感想 ―
[良い点] お顔が地面と、平行でしてよ (くい
[良い点] 強いやつに従う。 無秩序にそれが行われてるわけでないなら、それは文化の一つ。 一概にそうとは言わないですが、強いやつが偉いって武術もありますしそれは立派な文化ですから。
[一言] 偏見植え付けられた異教徒絶対殺すマンより会話できる程度には頭やらかいから無問題
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