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私の心はおじさんである【書籍漫画発売中!】  作者: 嶋野夕陽
鍛冶師の街

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魔素と変容

 新しい魔法を覚えたハルカだったが、結局使用する決断には至らなかった。前からできるんじゃないかなぁと思いつつやらなかったのは、ハルカが電気に対する知識をあまり持っていないからだ。

 スタンガンみたいな使い方がしたいのだけれど、どれくらいの電気がどれほどの威力を発揮するかがわからない。ボルトとかアンペアとかいう単語までは思い出しても、肝心の効果についてピンとこないのは勉強したのがはるか昔だからだろう。


 感電死、という単語が脳裏をよぎってからは、安易に使おうという気も起こらずにすぐに諦めてしまった。加減ができなければ使えないのと変わらないのである。

 殺すだけでいいのであれば、ほかに手段はいくらだってある。

 それで通じないような相手をどうしても殺さなければいけない場合には、もしかしたら思い出したように使うこともあるかもしれない。

 そんなことがあればの話だが。


 一夜を過ごしたハルカたちは、翌朝、今度はちゃんとブロンテスと挨拶を交わして〈楽園〉を後にした。ナギの背中には賢い鉄羊のヘカトルも一緒に乗り込んでいる。空へ飛びあがった時はしばらくの間足をたたんでただの毛玉のようになっていたが、やがて慣れたのか好き勝手歩きまわるようになった。

 順応性が高いところを見ると、拠点に来てもそれなりに楽しく過ごしていけそうだ。


 一方で新入りの様子をモンタナの頭の上からじっと見つめているのはトーチだ。危険な生き物でないのか判断している最中なのか、ヘカトルの動きをじっと追いかけ続けている。

 こちらも小さななりをしているというのに、竜だけあってなかなか賢い。


 しばらくして見られていることに気が付いたヘカトルが寄ってきて、互いに動きを止めてじっと見つめ合い始める。モンタナも交えて二匹と一人が固まっているのはシュールな光景だった。


「俺さ、たまに魔法使えないか練習してるんだけどうまくいかねぇんだよなぁ」


 ぼやくように呟いたのはアルベルトだった。

 剣術の鍛錬ばかりしているようだが、これで案外魔法にも興味があるらしく、こっそりノクトが子供達に向けてしている講義に耳を傾けていることもある。


「身体強化が得意だと難しい、って話でしたよね」

「でもハルカができてるからできるんじゃねぇかなぁって思うんだよな」

「ノクトさんに聞いてみたらー?」

「最初の頃に聞いたけど、身体強化に慣れるとどうちゃらって、似たようなこと言われた」

「じゃあやっぱり難しいってことなんじゃないー?」

「まぁな。んでさ、ブロンテスに貰った草あるじゃんか。あれ食ってたら使えるようにならねぇかなって」

「あー……」


 理屈がわからないから可能性としてはあり得る話だ。

 ブロンテスも試しているから、少なくとも巨人の体にとっては毒ではない。


 しかしハルカは一つの懸念を口にした。


「……身体強化が得意だと魔法が難しい、でしたよね。それって逆もしかりだったはずですよ。魔法が使えるようになって身体強化の練度が下がる方が問題があるんじゃないでしょうか?」

「それは困る、やめた。絶対その草食わない」

「変に人にのませないように気を付けたほうがいいかも……」

「大丈夫だとは思うんですけどね……」


 ブロンテスは、人が身体強化や魔法を神人時代より自由に使えるようになったことを、魔素を多く浴びたことによる進化だと話していた。そして、昔から破壊者ルインズが魔素を利用して特殊な魔法や能力を持っていたのは、はるか昔に魔素によって体を作り替えられたからだとも。


 ほかにもさまざまな仮説を立てていたけれど、憶測でしかないからねとの前置きがあったため、それを真実としてとらえていいのかは微妙なところだ。

 ただ楽しかったので、ハルカはずっとふんふんと黙ってその話を聞いていた。


 魔素は夢のようなエネルギーだ。どこにでもあるのに、どんな力にでも変質する。

 ただ、岳竜グルドブルディンによれば、それはメリットばかりではないらしい。


 ハルカはそれの何が問題なのか、昨日のブロンテスの言葉を聞いてから考えた。

 

 例えば人が全員魔法を自由に使える世界になっていたらどうだろうか。

 全員がハルカと同じくらいに魔法を使えたのならば、この世界の人々はすでに滅んでいなくなっているか、酷く数を減らしていたことだろう。

 人が皆同じように平和を望んでいると思うほど、ハルカもさすがにぼんやりとしていない。


 それが今の魔法のように自分で制御できるのならばまだましな方だ。

 さらに進んで、ちょっと想像してしまうだけで発動してしまうようだったらどうだろうか。

 なんにでもなる夢のエネルギーは、わずかな気持ちの揺らぎで人を殺す恐ろしい力に変容する。あれが欲しい、誰が嫌い。当たり前に思う願いが、そのまま力となって隣人を襲う可能性がある。


 グルドブルディンはそれ以外にも、濃い魔素に触れるとまずいというようなことを言っていた。それから、人と破壊者ルインズは同じ人間、とも。


 魔素が体を変容させるのだとしたら。

 ブロンテスの仮説が正しいのだとしたら。

 エルフも、ドワーフも、小人も、獣人も、そして破壊者ルインズも。人が魔素によって変容した姿なのかもしれないと、ハルカは一人で考えていた。

 つまり、人が魔物化したものが他種族、ということになる。

 魔物化という言葉の使い方が、なんとなく嫌な感じがしてハルカは眉を顰める。


「戦ってる途中に魔法使えたら絶対強ぇのになぁ」

「意識割かなきゃいけなくて却って危ないと思うけどなー」


 ぼやくアルベルトと答えるコリンに意識を現実に戻されたハルカは、一度考えるのをやめて自分の長い耳を指先で撫でるのであった。

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― 新着の感想 ―
女神がエルフの外見らしいからエルフだけは人間より古い?
[一言] 「どうちゃららって」 何語でどんな意味なのでしょうか?。
[一言] アルベルトはヘカトルの電撃を受けてるうちに電撃パンチくらいは出来るようになりそう
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