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私の心はおじさんである【書籍漫画発売中!】  作者: 嶋野夕陽
鍛冶師の街

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よこせ!

「お怪我はありませんでしたか?」


 障壁を解くのと同時に歩み寄ったハルカが声をかける。

 嫌みに聞こえることも懸念したが、老人を投げ飛ばした罪悪感の方がほんの少し勝っていた。


「別嬪さん、よーくその精神でここまで強くなれたもんじゃなぁ。大丈夫じゃわい! ふはっふははは」

「師匠、これでちゃんと協力してもらうからねー」

「わかっとるわい! いい気分の邪魔するんじゃない」


 胡坐をかいていたゴンザブローが、そのまま垂直に飛びあがり立ち上がる。

 体をどう使ったらそんな動きができるのか。ハルカは思わず首を傾げそうになった。自分が空中で静止してみせたことなど忘れているようだ。

 すたすたと歩いて、その辺に落ちていた服で古傷だらけの体を隠すと山頂をむいて言った。


「さて、そんじゃあ後ろから追いかけるとするか。追いつく頃には隠れる場所も減って、魔物が出てくるじゃろう」

「ずいぶん詳しいですね」

「おー、高い木に登ったり、夜のうちに先行したりして様子見とったからな」


 本当に怪我など一つもないようで、ゴンザブローはすたすたと先に歩き出す。ハルカたちも置いていかれないようにそのあとに続く。


「奴らを頂上に登らせなければいいんじゃろ? 理由はなんじゃ?」

「言えませーん。でも探らないでくれるなら、〈グリヴォイ〉の街の親方衆がいる酒豪会に口をきいてあげてもいいでーす」

「なんじゃそりゃ?」

「街の親方とかが集まって毎日酒盛りするためのお金積み立ててる会」

「よーし、山登ってるやつ全員ぶっ殺して街に帰るか」

「やめてください……」


 バキバキと指を鳴らしたゴンザブローは本気でやりそうな獰猛な顔をしている。本当に好き勝手に生きているようだから、一応忠告しておかないと危険だ。


「まどろっこしいが、勝者に言われちゃあ聞くしかねぇなぁ」

「そういえば師匠さー、途中で二人に分裂しなかった? あれなに? 魔法?」

「ん、ありゃあ忍術だな。こっちで言うところの闇魔法みたいなもんじゃ。わしじゃあ一瞬しか使えない上、発動するときに無防備になるから多用するもんでもないんじゃがな」

「へー、師匠って魔法も使えたんだ」

「何でもかじっときゃあ戦いの役に立つってもんだ。現に捕まえるところまではいったんじゃがなぁ……。なんじゃあの急停止に馬鹿力。挙句に体が丈夫過ぎる。勝てる見込みがなくて笑いしか出んわ」

「ははは……」


 ハルカが愛想笑いをするとゴンザブローがじろりと睨む。


「笑い事じゃないわい。儂こっちに来てから何人かの特級と立ち合っとるが、その比ではないぞ。やりようによってはどうにかなるの次元を超えとる。わけわからん」

「私以外の特級冒険者と立ち合ったことがあるんですか?」


 それは割と驚くべきことだ。

 ハルカたちの出会ってきた特級冒険者の一部には、立ち合った後生きているほうが不思議、みたいな相手がいる。何度か繰り返しているということは、そのうちの何戦かは勝利を収めている可能性があった。


「あるぞい」

「よく生きてんな、じじい」

「お前さんらも何年か旅しとるんじゃろ? 別嬪さん以外の特級と出会っとらんのか?」

「いや、会ったぜ」

「ほー、どうじゃ、いい勝負できたんか?」


 結果がわかりきっている質問を、ゴンザブローはにやにやしながら投げかける。

 アルベルトはしかめっ面でそっぽを向いた。


「負けたんか、負けたんじゃろ、ふはっ」

「うっせー、じじいだってハルカに負けたじゃねぇか」


 年甲斐のない挑発に綺麗に乗っかったアルベルトだったが、ゴンザブローの余裕の表情は崩れない。


「ま、そうじゃが。儂は勝率五割ぐらいあるからのう。一度も勝ったことのない奴に何言われても全然響かんのう?」

「は? まじ?」

「師匠ってやっぱ強いんだー……」

「そりゃあなぁ、じゃなきゃとっくに死んどる」

「どんな人と戦ったことあるです?」


 俄然興味が出てきたのか、ハルカの陰に隠れて少し距離を取っていたモンタナが、顔を出して尋ねる。


「まぁ色々じゃな。わかったことは、特級と言っても強さはピンキリってことじゃ」

「一番強かったの誰なんだ?」

「そうじゃなぁ……、儂が【神龍国朧】を出るきっかけを作った男じゃな。【不倒不屈】と呼ばれておってな、名をクダンと言った。かつて好いた女のために、【朧】の侍数百人を相手に一人で大立ち回りした男じゃ。ありゃあまた、別嬪さんとは違った方向の化け物じゃな」


 聞いたことのある名前だ。

 どう反応していいかわからず黙っているハルカたちに、ゴンザブローは続ける。


「儂の親の代に大暴れした奴なんじゃがなぁ。その姿が目に焼き付いて離れんかった。眼前の白刃に目を閉じることもせず、一歩間違えば命を落とすような動きをし続ける胆力。ありゃあ惚れる。若造だった儂は、【朧】の戦で己を鍛え続け、いざ殺し合いにと大陸へやってきたんじゃ」

「物騒なじじいだな。んで、どうなったんだよ」

「気になるなら黙って聞いとれ。もちろん探し回って殺し合いを申し入れた。んでまぁ、負けたんじゃ。しかも殺されんかった」

「ま、そういう人じゃねぇよな、クダンさんは」


 なぜか得意げな顔をしたアルベルトに向けて、ゴンザブローが不満そうに口をとがらせる。


「なんじゃ、知ったような口を利きよって……、待て、待て待て、糞ガキ、その大剣見せろ!」

「やだね!」

「儂としたことが糞ガキが眼中になかったせいで気づかんかった! そりゃあクダンの武器じゃろうが! なんでお前が持っとるんじゃ!!」

「貰ったんだよ、いいだろ」

「あほぅが! もったいないわ、儂によこせ!」

「爺は剣つかわねぇだろうが!」

「いいからちょっと貸してみろ、ちょっとだけでいいから」

「嫌だって言ってんだろ! この、こっち来んな爺!」


 周りをぐるぐる回り始めた二人に、ハルカは呆れた顔をしてため息をついた。

 モンタナが目だけを忙しなく動かし、ゴンザブローの動きを追う。尻尾がぶわりと広がっており、嫌そうな顔をしている。


「あの、ゴンザブローさん、止めてもらえます?」


 声をかけるとびたりとゴンザブローの動きが止まった。

 勝敗の結果についてはかなり厳しく考えているのか、ハルカの言うことを聞く気はあるようだ。


「よこせは冗談としてもじゃな、事の経緯ぐらい聞かせてもらえんか?」


 ゴンザブローは、ハルカに向かって尋ねる。


「それぐらいなら別にいいと思いますけど」

「よっしゃ、いやぁ今日はいい日じゃ。特級と手合わせできるし、クダンの話は聞けるし、酒はたらふく飲めそうじゃし、ふはっ、ふはは」


 言いながらもシュッと伸ばされた腕を、アルベルトはさっと体を引いて避ける。


「……師匠、止めないと酒豪会に口きいてあげないから」

「……まぁ、今のとこはやめとくかの」


 つまらないとでもいうように足元の石を蹴飛ばしたゴンザブローは、あっさりとまた先頭を歩き始めた。表情のころころ変わる子供のような御仁である。


「ホントこのくそ爺……」


 今回ばかりはアルベルトの文句ももっともな気がするハルカであった。

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― 新着の感想 ―
アル...お前も充分クソガキだ
 ゴンザブロー師匠は、特級のキリ辺りになら勝てる(相性の良しあしはあるにしても)だけの実力はあるんですね。他にも特級レベルのまだ見ぬ猛者がゴロゴロいそう。
[一言] じいさん……(・ω・)
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