ボス先生
「確かに先生や大人が言うことには多くの場合真理が含まれていると思います。しかし、彼らも絶対ではありません。もしダークエルフと会うことがあったのなら、その方々の言う通り、警戒するのは当然だと思います。しかし、あなたが、その目で見て、考え、それからどう接するか考えてみてほしいです。少なくとも私はあなた達と仲良くしたいと思っています。ただ私もはぐれ者ですので、他のダークエルフと会うときは、またどんな人なのかよく見極めてみたらいいと思います」
「はい! わかりました! そうします!!」
ハルカはテーブルで少年と向き合いながら思う。
実に気持ちのいい少年ではないか、と。
彼はさっきからハルカの言うことを黙って聞き、頷いたり、相槌を打ったりしている。視線は常に面接の基本である目線より少し下に合わせられているように思うし、ハルカの言葉全肯定だった。思わず笑顔も零れようものである。
「そうですか、お話を聞いてくれてありがとうございます。では、私は他の子たちともお話をしたいと思っていますので、出かけてきます。まだしばらくこの街にいますので、もし会うことがあったらよろしくお願いします」
「はい! よろしくお願いします!!」
ハルカは背中に視線を感じながら、満足そうに宿から出ていく。
それに合流した三人、男連中はジト目でハルカのことを見ており、コリンは目をそらしながら笑っている。ハルカはそれに気づき、首をかしげた。
「……どうしましたか?」
「いや、別に……」
「……です」
男連中は複雑な心境で特に何も言わなかったが、少年の気持ちはなんとなく理解できていた。
「……この調子でいきましょ!」
コリンは肩を震わせながら、ハルカの背中をばんと叩く。
「はい! 頑張りましょう!」
ハルカの返答にコリンはまた、ぶっと噴き出して顔をそらした。
おいていかれた少年は考えていた。
ダークエルフ最高、マジ美人でめっちゃ優しくておっぱい大きい。
銀髪巨乳ダークエルフ、まじダークエロフお姉さんで最強だから、マジで好き、最後の笑顔で死ぬかと思った結婚したい。
彼は普段は慎重で賢くて勇気のある少年だったが、今はIQが五十くらいに下がっていた。
彼が十数年後神聖国初めてのダークエルフの里との国交樹立を果たすのは、また別の話。
視線を感じたところでモンタナが追い詰め、お話しする、という作業を繰り返していたが、そのほとんどは成功に終わった。こちらが優位な状況であれば簡単に攻撃に出てくることもなかったし、きちんと順を追って話してみれば、道理のわからない子たちではなかったからだ。
子供というのは教育によっていかようにもなるものだなというのがよくわかる。
ハルカはそう思っていたが、この話には裏がある。
一つ目は学院のヒエラルキーのトップグループのリーダー格であるサラを初日に落としていたことだ。
ハルカ達一行は、今日はあの子来ないんだな、ぐらいに思っていたが、昨日の話を聞いて仲間たちのことが心配になったサラが、一晩かけて自分の仲間である女子グループに話を通していた。
一度あの人の話を聞いてあげて、悪い人じゃなかったから、と。
一部の女子は、見た目だけはきりっと凛々しいお姉さまであるハルカに見惚れてほいほいついていった部分もあったが、概ねサラの努力のおかげである。
二日目以降は彼女も同行しており、積極的に顔見知りに声をかけてくれたため、お話はスムーズに進んだ。
二つ目はハルカの見た目が、少年の心にぶっ刺さったからだ。
エロい少年たちの間では、ハルカに冷たい目で見てもらいたい派とママになって甘やかしてもらいたい派の派閥ができたらしいが、そんなことはどうでもよく、そいつらはよくハルカの話を聞いた。
仲間を連れて二回目三回目と現れる奴もいたし、数日後にはナンパ待ちみたいに街角で所在なさげにたっている奴もいた。
思春期前後の少年なんてこんなものである。
結構な数の少年少女とお話を繰り返し、五日もすると、街ではハルカに対し警戒をする子はほとんど見なくなった。
最初に街を歩いた時には物珍しがる視線と、警戒する視線しか向けられていなかったのに、ほんの数日で随分快適になった。街を歩くと勝手に声をかけてくれたり、お気に入りの店を教えてもらえる。
ハルカはついこの間気を付けなければと、気持ちを改めたばかりなのに、もう気が抜け始めていた。
少女たちに連れられて、街のお菓子屋さんに向かっているときだった。前から歩いてくる人物に気づいたその子たちは、突然緊張し始める。ハルカも何事かと思い、そちらに目をやると、金髪の眼鏡をかけたきつい顔立ちの女性が仁王立ちでこちらを見ていた。
「あなたがこの街に現れたっていうダークエルフね……」
「はい、そうですが……、あなたは?」
「あなたが、子供たちをたぶらかしている、ダークエルフね」
「いえ、それでしたらエルフ違いだと思うんですけど……」
ハルカが仲間たちに目を向けると、視線をさっとそらされる。
「……違くないのかもしれないですけど、何用でしょうか?」
「やはりダークエルフは……、くっ」
盛り上がっているようだったが、ハルカにはさっぱり理解できない。ただ、恐らくこの女性がダークエルフが破壊の神の使徒だとか、そんな教育を施した張本人なのではないかなという予想はついていた。