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私の心はおじさんである【書籍漫画発売中!】  作者: 嶋野夕陽
岳竜街

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日常的な訓練

 適当にぶらついてからリヴ邸に戻ると、ナギとユーリが並んで【砂の蜥蜴】の面々を見ていた。隣にはモンタナが保護者としてちゃんと一緒に見てくれているようだ。


 遠目からでも何かを話しているのはわかるが、内容までは聞こえない。

 近づいていくと、まずはモンタナが、それからユーリとナギがハルカたちに気が付く。


「おかえりです」

「はい、ただいま戻りました」

「何してんだお前ら」


 挨拶も交わさず、アルベルトが檻の中を覗きこむ。

 傭兵たちはすっかりおとなしくなっていて、あきらめムードだ。


「話をして、嘘ついてるかホントのこと言ってるか当てさせてたです。嘘を見抜けるといいこともあるですから」


 英才教育の真っ最中だったらしい。

 ナギはともかくとして、ユーリもいつかは冒険者になると言っているから、みんな隙あらば自分の得意なことを教え込もうとする。


「ユーリはちゃんと表情とか動きとか見てるですよ。賢いです」


 モンタナはユーリの頭をなでる。

 モンタナが誰かを撫でるのは珍しい光景だ。ユーリと比べると、さすがにまだまだモンタナの方が背が高い。


「ふーん、俺はそういうの得意じゃねぇけどな」

「アルとレジーナは直感で判断するからやる必要あまりないですよ」

「褒めてんのか、それ」

「事実を言ってるだけです」


 結局どちらなのか判別がつかなかったアルベルトは変な顔をした。


「っつーか、今日はなんもなかったな。街に出たら絡んでくるようなやつもいるかと思ったんだけど」


 モンタナがアルベルトを見上げ、それからレジーナを見て、少し間を空けてから「ですか」と呟く。

 この二人にケンカを売るようなのは、多分相当に酔狂な人物だと思ったのだろう。


 ハルカも改めてアルベルトの姿を見る。

 もう十七になるアルベルトはすっかり背が高くなっている。

 出会った頃はコリンよりも少し大きいくらいだったが、多分それから二十センチは伸びたことだろう。今ではハルカより十センチ以上背が高い。

 毎日熱心に訓練をしているおかげか、だんだんと引き締まって分厚くなってきている。今となっては大剣を構えるアルベルトを恐れる者はいても笑う者はいないだろう。


 まだまだ子供っぽい部分も多いが、ぶっきらぼうな言動と相まって、すっかり立派な冒険者だ。

 

「いやぁ、アルは大きくなりましたよね」

「なんだよ急に」

「いえ、だって出会った時は私より小さかったんですよ」

「……そういやそうだな。いつ抜いたんだ?」

「目線が合うようになったのは一年ぐらいした頃でしょうか」

「色々あったしあんま覚えてねぇや」


 照れ隠しなのかぼりぼりと頭をかきながらアルベルトはそっぽを向いた。やはりまだまだ行動は少し子供っぽい。


「おい、ハルカ」


 そんな話をしていると、いつの間にか近くへやってきていたリヴがハルカへ声をかける。


「あ、はい、なんでしょうか?」

「こいつらどうすんだ? あてできたか?」

「いえ、それが思いつかないんですよね……、どうしたものでしょう」

「いらないなら引き取ってもいいぞ?」

「引き取って……どうするんですか?」

「兵士にする。帝国には犯罪者ぶち込んだ部隊があんだよ。十分教育してからしか自由にしないがな」

「ご迷惑じゃありませんか?」

「別に。慣れてるからな、そういうのの相手するのは」


 一応善意からの提案であったが、リヴもその部隊の裏事情についてまでは詳しく説明しない。

 犯罪者で構成された部隊が戦地で配属されるのは、当然危険な地帯だ。いわゆる捨て駒というやつで、まともに働けばよし、死んでもよし、生き残ってきたら再利用だ。

 長く生き残って教育がきちんとされていると判断されれば、いずれ部隊の指揮官などになることもあるが、その半数近くが部隊に所属しているうちに命を落とす。


 直近だと【エトニア王国】との戦いで、斥候としてすりつぶされる可能性が高いだろう。


「ではお願いします。何かお支払いした方がいいでしょうか?」

「いらんな、事のついでだから気にするな」


 リヴは檻に入った男たちの実力を値踏みするように順繰りに見ていく。

 見た目が若いものだから【砂の蜥蜴】の面々からすれば、この偉そうな小娘は何なんだというところだ。


「少しは使えそうなやつもいるみたいだな。まぁ、しばらくはそこで反省していろ。俺の気が向いたら水も飯もやる」


 逆に言えば気が向かなければ何もやらないと言っているわけで、傭兵たちも言葉の裏を敏感に察知した。檻から出られない以上、リヴの機嫌を損ねることはそのまま日干しになることを意味する。

 途端おとなしくなった大勢と、それでもなお反抗心を持った目をしている者がほんの僅か。それぞれの反応を確認してから、リヴは小さく笑って観察をやめた。


「なー、リヴさん、ちょっと手合わせしてくんねぇ?」


 そこへ声をかけたのはアルベルトだった。

 せっかく特級冒険者と一緒にいることを急に思い出したのだ。

 外へ出てもトラブルがない。ならここで何か得るものがあればいいという発想だ。


「別にいいぞ、ただしつこいのはやめろよ」

「まじ!? 言ってみるもんだな!」

「あたしも」

「僕もです」

「……一人受けると全員相手することになるのかよ。ハルカは無しな」

「あ、はい。私は結構です」


 特に申し込むつもりもなかったが、先に禁止を言い渡されてしまったハルカは、ほっとしたようなちょっと寂しいような微妙な感覚だ。


「誰からだ?」

「俺!」


 勢いよく前に出たのはアルベルトだ。

 レジーナは前より思慮深くなってきているが、アルベルトはその辺にあまり変わりがない。

 適当に歩いて距離を取ったリヴは、振り返ってからハルカに確認する。


「ある程度怪我させてもいいんだろ?」

「はい、致命傷でなければ」


 平然とこんなやり取りをしてから、ハルカは何かおかしいと首をかしげる。

 明らかに自分の言ったことがおかしいのに、それを当たり前だと思って即座に返事してしまっていることに気が付いたのだ。

 これはいけないんじゃないか、ちょっとずれてきているのではないか、そんなことを思い悩んでいるうちにアルベルトが剣を抜いていた。


「戦闘続行が難しい怪我をするか、降参をするまでだ」

「……行くぜ」


 リヴの申し出に頷いて、アルベルトが地面を蹴った。

 真昼間からの結構本気の訓練に、草むしりをしていた【旋風団】も手を止めて見学の態勢だ。


 素手のリヴと武器を持ったアルベルト。

 リーチの差だけで考えればアルベルトの方が有利だが、それで結果が決まるレベルの戦いではない。

 ハルカとユーリは攻防を見逃すまいと、二人そろって唾をのんで訓練を見守った。

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― 新着の感想 ―
 前々から思っていたけど、ユーリは前世の記憶があるから頭がいいんじゃなく、地頭が天才なんだろうなあ。前世でも碌に義務教育も受けていなかったのに本やテレビだけで独学で世の中のことを学んでいたし、きちんと…
[一言] 小娘ひとり何とかなると思っていそうな傭兵さんたちを諦めさせてくれる、心折なリヴさんでした。
[気になる点] そんなことをもい悩んでいる
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