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夕日に約束をして

 このままだと日が暮れてしまうなぁと思い始めた頃、二人が門から出てくるのが見えた。

 コリンがしきりにモンタナの顔を覗き込んで、何か頼み事をしている。珍しい光景だった。


「はい、荷物預かりますよ」


 いつものように障壁でカゴを作ると、コリンは明るく礼を言ってその中に荷物を放り込んでいく。全部入れたのを確認して歩き出すと、コリンがピッタリとハルカの横に並んで、何やら笑顔で顔を見ている。


「えへへ、あの、待った?」

「……いえ、そうでもないですよ」


 ハルカは少し間を空けて考えて、それから首を横に振った。待ち合わせで待ったかどうか聞かれたら、待っていませんと答えるのがセオリーだと、ハルカは思っていたからだ。

 実際は一時間以上待っている。


「あー、よかったー。ちょっと遅くなっちゃったからさー」

「良くないです、待ってたですよ。一度こっちにもコリンのこと探しにきたです」

「……なにかありました?」


 よくぞ聞いてくれたとばかりに頷いたモンタナだったが、その前ににゅっと手が出てくる。


「自分で話しますー……。あのねー、ちょっと街の中で迷子になっちゃって……。遅くなってごめんね」

「ああ、そうですか。なんだかいつもと様子が違うので心配しました。うーん、今度からは街での歩き方を教えてあげないといけませんね。地図はだいぶ見られるようになってきましたし……」


 ハルカが思案していると、コリンががばっと腰に抱きついた。


「ハルカ! 好き!」

「あ、え、はい? はい。私もコリンのこと好きですよ」


 スキンシップにすっかり慣れてしまったハルカは、少しだけ戸惑ってから、いつものやつかと抱きついてきたコリンの頭をポンポンと撫でて歩き出す。

 ずりずりと地面に引き摺りながらそのまま進んでいくハルカもハルカだが、そのまま抱きついているコリンもコリンだ。

 しばらくして満足したのか離れてちゃんと歩き出すと、コリンは上目遣いでお願いしてくる。


「迷子になったの、みんなには秘密ね?」

「あー……、うーん……。イースさんにだけ言ってもいいですか? 判断を任せることが多いので、知っていてもらった方がいいかなって……」

「やっぱり?」

「やっぱりとは?」

「モンくんにもそう言われたんだよねー。そうだよねー、そっかー……。……ま、イースさんならいっか。モン君も迷惑かけてごめんね」

「ん、いいです。でも帝国行ったら逸れたらダメです。危ないですから」

「そうだよねー……。気をつけます」

「僕もちゃんと一緒に動くようにするです」

「次は気をつけるってばー……」


 珍しくモンタナが年上らしく、コリンにお説教している。小さなモンタナに頭を下げる姿は微笑ましく、コリンがちゃんと年下に見えた。


「しかし今はいいですけど……。帝国に入る頃にはちゃんと警戒しないといけませんね。分かれて行動することもあるかもしれませんから、そんな想定もした方がいいでしょう」

「そですね。気付かれる前に乗り込みたいです」


 ナギに乗って【ドットハルト公国】の端まで行くのに一週間。ギリギリまで行って、海を越えて帝国に入るまで丸一日。一日で対岸につかなければ、ハルカが障壁を張ってその上で休憩するつもりでいた。


 越える海にはなにやら巨大生物が潜んでおり、船の航行は行われていない。

 しかし空を飛んでいれば、それほど海の生き物を警戒する必要はないはずだ。

 普通は越えてこない海から入国することによって、ナギの大きな体でも目立つことなく南方大陸へ着陸できるという算段だった。


 そこから帝国の首都までやはり一週間弱。真っ直ぐに行くと、いくつもの街の頭上を通らなければならない。

 早く動くのか、目立たないように動くのか。それは帝国の街や交通の発展具合を見て決めるつもりでいた。


「冒険者になった時はさー、まさか国に喧嘩売る羽目になると思わなかったよね」


 言葉にされるとずしんとくるものがあった。

 この世界に来たばかりの頃をハルカは思い出す。


 冒険者になって、街で働きながら平和に暮らそうと思った。特級冒険者になんか絶対関わらないと思っていた。

 随分と遠い場所に来てしまった。


「でもさー……、まぁ、ユーリのためだし。できることはやってあげたいよね。アルなんかきっとワクワクしてるんだろうなー」

「してるですね」

「ああ、してるでしょうね」


 色々と考えることはあるが、アルベルトが真っ直ぐに進んでいく姿を想像すると、置いていかれるわけにはいかないなぁと思う。

 きっとハルカたちが動き出さなかったら、いつかもっと無謀な方法で、ユーリを守るために戦い始めたはずだ。


 だったらきっと、今がいい。

 後に回して、後悔するのは嫌だった。


「不安はありますけど、みんな無事に、いい結果を持って帰れるように頑張りましょう」

「ハルカにしては前向きです」

「そだね、心配させないように気をつけないと」

「……出鼻を挫くようなことを言うのはやめませんか?」


 ハルカはなんだか心がむず痒くなってきて、視線を空に向ける。

 実際に体験していると気がつかないものだ。

 

 思っていたもの、憧れていたものとは違うかもしれない。

 それでもハルカは今、多分、きっと、失った青春を取り戻そうとしていた。

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