憧れの
「……いや、ごめん、それは本当に無理かな」
十代前半の若者四人に期待の目を向けられたイーストンは、心苦しく思いながらもパーティへの勧誘へ断りを入れた。
ハルカたちも新人研修の時にパーティを組んだという話を聞いていたので、そうなってしまうのではないかと嫌な予感はしていた。流されて新人研修を受けることになってしまったが、そこまで流され続けることはできない。
研修の担当はイーストンのことを知っているエリがやっていた。ハルカたちの連れ合いであることを知っているエリからすると、今更なぜという疑問はあったが、特に語り掛けるようなことはなかった。
何かしらの事情があるのかもしれないと配慮してのことだったが、イーストンとしてはそれを機会に抜け出せるほうが嬉しかった。
エリが出ていったすぐ後に続こうとしたところ、捕まって囲まれているというわけだ。
「一人じゃうまくいかないことだってあるわよ。この間この街から出た特級冒険者のハルカさんだって、新人研修の時に今の仲間たちと出会ったんだから」
うんうんと頷く周りに居る子たちは全員女の子。「照れなくてもいいのに」「困った顔もかっこいい」そんな声が聞こえてくる。
一緒に来たアーノと無口な少女はともかく、他の2人の目的は違っているようだ。
「僕はこの街に住んでいるわけじゃないんだよね」
「じゃあ何でここで冒険者登録してるのよ」
「……話せば長くなるんだけど」
「もしかしてどこかの王子様かも」という丸聞こえのひそひそ話をあえて無視して、その場から立ち去ろうとするとまた呼び止められる。
「ちょっと、話し終わってないでしょ!」
イーストンからすると、事情を聴かせるつもりはないと遠回しにお断りしたつもりだったが、若いアーノには通じなかったらしい。攻撃的な言葉を使うのも、すぐにばれる嘘を使うのも、仲間たちをだしに使うのも嫌だったので、上手い断り文句が見つからない。
察してほしいけど仕方がないと思ったところで、ノックが聞こえてきてひょっこりとハルカが顔を覗かせた。
「あのー……、イースさんは……、あ、いますね」
ドアの隙間から、上下にハルカとユーリの顔が並んでいる。
「なによ!?」
「あ、御歓談中申し訳ありません。用事が終わって出てきたところ、エリがこちらにいると教えてくれたので……。お邪魔でしたか?」
申し訳なさげに返答するハルカに対して、アーノの表情が見る間に変わっていく。眉間の皺が取れて目を見開いたかと思うと、すぐに目を彷徨わせて狼狽し始めた。
「あ、あの、違、違うんです」
「え? あ、すみません」
反射的にハルカが謝るものだから、アーノも申し開きが出来ずに困ってしまう。そんなことをしていると、ハルカとユーリの間から、コリンがずぼっと顔を出してくる。
そして中の様子を確認するとにっこりと笑った。
「……新人研修お疲れ様。イースさんは私たちの仲間だから、連れてってもいい?」
アーノはさっと振り返ってイースを見てから、きゅっと口を結んで何度か首を縦に振った。
「ありがと。同じ街の冒険者だし、これから一緒に頑張ろうね」
「は、はい!」
何とか返事をしたのはアーノだけで、他の三人は体が固まってしまっている。
オランズの街において、ハルカたちはもっとも有名な冒険者チームとなっていた。この街で冒険者活動を始めた四人がわずか数年で特級、一級まで駆け上がり、街の危機を救って宿を設立しようとしている。
若い冒険者たちが憧れるのも無理なかった。
アーノも当然その一人だったから、もう完全に大混乱だ。
突然現れた憧れの人、その人に謝らせてしまったこと、さらに今まで同類だと思い接していたイーストンの謎。
今度ばかりは立ち去っていくイーストンを追いかけることはできない。
「私たち【竜の庭】っていう宿を作ったから、何か機会があればよろしくね」
最後に手を振っていなくなったコリンに、アーノはこくりともう一度頷いて、ぼんやりとその後姿を見送った。
「……お話しできてよかったね」
幼馴染であるテイルが、少しずれた感想をアーノに送る。
アーノは『そうじゃない』と思いつつも、何を言っていいかわからず、流れのままに首を縦に振るのだった。
「……イースさん、女の子にもてるよね」
からかうようなコリンの物言いに、イーストンは答えない。
「まぁ、かっこいいですからね」
それをフォローするようにハルカが言うと、コリンはにまーっと笑ってハルカの方を見る。
「コリン」
「はいはいはーい」
何を言いたいかわかったハルカは、コリンが口を開く前にけん制する。しかしコリンは拗ねたりせずに楽しそうだ。
「君たちさ、当然だけど街で随分人気があるんだね」
「ふふーん、でしょでしょ。あの子も私たちのファンだね、私にはわかるよー」
「それでご機嫌なんですか」
「まぁね。でもさー、そんな私たちと一緒にいるのにイースさんはふらふら女の子に釣られてさー」
「いや、ちゃんと断ってたけどね?」
流石にそれは否定したイーストンはさらっと、その後に言葉を続ける。
「僕は君たちと一緒じゃないなら冒険者をする気はないよ」
かっこいいことを言うなーと思いながら、ユーリと手をつないで歩いていたハルカの腕に、コリンが頭をぐりぐりこすりつけてくる。
「ねぇハルカぁ、イースさんってずるいよね! こういうこと言うともうなんも言えなくなるのわかっててやってるよ、これ絶対そうだよー」
「いやぁ……、まぁ、どうなんでしょうね」
「変な言いがかりやめてよね」
文句を言いながらも、愉快なやり取りにイーストンはひっそりと笑うのだった。
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