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何のために

 リョーガにセネスを背負わせて冒険者ギルドから離れる。

 流石に暴れすぎたせいで人が集まってきてしまっていた。いつまでも見世物になっているわけにはいかない。

 幸い領主の館がすぐ近くにあったので、そちらの庭を借りることにした。ネイブが門番に事情を告げると、心よく中に入れてくれた。


 セネスが目覚めるまでの間ぽっかりと空いた時間に、リョーガが話題を提供する。


「さて、拙者先生などと呼ばれているが、その実ただこのセネス殿に雇われているだけの素浪人でござる。各地を巡って技を磨くのが好きでな。悪者を懲らしめていたところ、セネス殿と遭遇して腕を買われ一時的に雇われたでござるよ」

「見るからにそういう感じでしたね。雇われて何をしていたんですか?」

「うむ。セネス殿から金を貰って、指定されたものを倒していたんでござるよ。悪者や世間に迷惑をかけるものが多かったので、金持ちの正義の味方ごっこに手を貸している気分でござった」


 恐らくセネスは、金を払ってリョーガに依頼を代行させていたのだろう。それを自分や部下たちの手柄に割り振って昇級を加速させていたというわけだ。リョーガにとっては特にデメリットはないし、不正かと言われると微妙なところだ。


「随分前からやっていたんですか?」

「いや、ここ三か月程度でござるな」

「元々兄上は荒くれ者を金で集めて、一つの依頼を人数かけてこなすという効率の悪いことをしていましたから。リョーガ殿の腕は渡りに舟だったんでしょう」


 一級冒険者というのは、街の行く末を左右するレベルの冒険者だ。その一級冒険者であるアルベルトといい勝負をしていたリョーガを抱えていれば、態度が大きくなるのもわからなくはない。


「とはいえ、今回そこの青年と戦うことについては、拙者納得いってなかったでござるよ。拙者修行と言えど、命を投げ捨てる趣味はござらん。そちらの陣営には青年と同じかそれ以上の実力を持つものが数人いるのに対し、拙者は一人。戦力を計れないセネス殿は、指揮官としては三流でござるな。やはり正義の味方ごっこがお似合いでござる」


 気を失っているセネスの横に座り込んだリョーガは、やや冷たい目でその顔をちらりと見て皮肉気に笑う。


「とはいえ、拙者も随分と稼がせてもらった。一応確認するでござるが、まさか命まではとるまいな?」

「ええ、まあ」


 ハルカは先ほど危なかったことを思い出し、目をそらして答える。リョーガはしばし無言でハルカたちを見ていたが、やがて体の力を抜いて笑った。


「ならいいでござる。最後のご奉公に、起きるまでは見守ってやるでござるか」


 リョーガは刀を鞘に入れたまま地面に突き立てて、緩く目を閉じて黙り込んだ。




 なかなか目を覚まさないセネスを前に、ハルカたちは座り込んでのんびりと言葉を交わす。


「アルはなんであそこに?」

「あー、暇だったから街を歩いて、冒険者ギルド覗いて戻るつもりだったんだよな。ユーリにも見せてやりたかったし」

「あら、アルにしては気が利くじゃない」

「慌ただしくてのんびり観光とかできていませんもんね。楽しかったですか?」

「うん。アル強くてかっこよかった。僕も早く戦えるようになりたい」

「ああ……。うん、まあ、楽しかったなら良かったです」


 街をうろついたことより、臨場感のある戦いを見れたことにユーリは感動しているようであった。実に逞しいその反応に、ハルカはそっと空を見上げた。


 受けた依頼の話や、とりとめのない雑談をしているうちに、リョーガが目を開け、鞘の先でセネスのこめかみをつつく。


「狸寝入りはやめるでござるよ」

「……くそっ」


 慌てて立ち上がろうとしたセネスの足を、リョーガが刀の鞘で払う。


「往生際が悪いでござるよ」

「リョーガ! あんた俺に雇われてるんだろう! 裏切ったのか!?」

「これこれ、先生をつけるでござる。先ほどの戦いを見て逃げられると思っているのなら、逃げてみたらいいでござろう。拙者はきちんと話をした方がまだ生き残れる確率が高いと思うでござるけどな」


 無様に転んだ姿勢のままハルカたちに見下ろされたセネスは、怯えたように自分の目の前に手をやりながら後退った。


「や、やめろ、やめてくれ。俺は領主の息子だぞ! 俺に何の恨みがあるんだ!

「?」

「恨みは……ないですけど」

「わ、わかった! ネイブ、お前だな。お前、領主争いからは身を引くって言ってたじゃねぇか! 誰だ、どいつに命令されたんだ!?」


 素直に答えるわけにはいかないネイブは困り顔だ。


「命令なんかされてねぇよ。お前の仲間が俺に喧嘩吹っ掛けてきたんだろ。あいつらが三級? お前が二級? 冒険者なめんじゃねぇぞ」


 詰め寄るアルベルトに、セネスは地面を這いずって逃げ、リョーガの後ろに隠れた。


「先生! リョーガ先生!!」

「情けないでござるなぁ……」

「そんなことはどうでもいい、なんとかしてくれ!」

「……無理でござるよ。拙者が知る限り、冒険者というのは自由で、それゆえ弱肉強食の世界に住んでいるでござる。土足でその領域に踏み込んだセネス殿が悪いでござるなぁ」


 残念そうな声色とは別に、にやついた表情でハルカたちにウィンクをよこしたリョーガ。どうやら躾の手伝いをしてくれる気でいるらしい。


「そ、そんな、か、金なら払う!」

「ふむ。助かりたいのなら、金よりも大切なものがあるでござるよ」

「ど、どうしたらいいんだ!!」

「拙者たち侍もそうでござるが、冒険者たちは自尊心の高い生き物でござる。まずは相手を認め、二度と過ちを繰り返さないと約束し、謝罪をするべきでござるなぁ」

「……謝罪? この俺が? こんなガキに?」


 考えたこともなかったのか、ぽかんとした顔で問い返すセネス。

 やれやれと首を振るリョーガがその場を避けると、リョーガの目の前に剣を抜いたアルベルトの姿が現れた。

 転げるように再びリョーガの後ろに隠れたセネスは、悲鳴を上げるように言った。


「謝る! 何でも謝るから何とかしてくれ!!」


 別に謝ったところでハルカたちがすっきりするわけではないのだが、これでセネスのプライドが折れて悪さをしなくなるのなら、依頼の達成ということになるのかもしれない。

 それからハルカたちは、たまに脅しをかけながらセネスに約束をさせた。


 冒険者として活動するのであれば、自分の力で階級を上げること。

 徒党を組んで治安を悪化させないようにすること。


 そうして最後に、ネイブから耳打ちされたことも一つ付け足した。


 せっかく人を集めたので、ちゃんと躾をしてきちんと街の役に立つ活動をするようにすること、と。


 ネイブは怯えるセネスの前にしゃがみこみ、そっと告げる。


「では兄上、約束違反がありましたら、再びこちらの冒険者の方に依頼をすることになっておりますので。……依頼者は、父上ですのでくれぐれもお忘れなきようお願いします」

「ち、父上、が……」

「あ、依頼者についても他者には漏らさないようにしてくださいね?」

「……そうか、わかった」


 最初から依頼者の名前を出せば素直に聞いていたのではないだろうか。

 そう思ってしまうくらい背中を丸めて落ち込んでしまったセネスは、見ていて少し哀れでもあった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様です。 今回はリアルでも居る『親のおかげで甘い汁を吸えてる典型的な無能ボンボン』の討伐(?)でしたね。こういうのが上にいると、下はマジに苦労するんや···(経験談 [一言] …
[一言] 父親の名前を出すにしても、勝ち誇ったりいきがっている時と、殺されかけて怯えている時では効果や結果が結構違う気がする。 人間は保身のためにその場では了承、理解を示す事は可能でも、枷が外れたらぶ…
[一言] 階級が上に行くほどの弊害を理解せずにやってしまったな。会社や学校でも優等生ほど委員長や仕事の多くを任せるのに、まして現実でも存在する軍人や傭兵、警察官、諜報員ような命かかる冒険者では当然に上…
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