チーム編成
シュオは拠点について早々レジーナの姿を見つけ、手合わせを挑んで負けた。ハルカは止めようと思ったのだが、互いにやる気満々だったので諦めてその戦いが終わるまで待つことにしたのだ。
シュオが右腕で金棒を受け止めたときは驚いたものだったが、最近の訓練で隙が少なくなったレジーナがそのまま押し切って勝利した。いい訓練相手を新しく手に入れたためか、それとも戦いに勝利したためかレジーナは満足げに大人しく座っている。
地面で伸びているシュオを置いて、コリンは仲間たちを集めてこれからの予定について話す。
「準備は大体できてるから、明日には出発しようかなーって」
「はい。ただ留守番が必要になるので、どうしようかなと」
「一緒に行く」
ハルカが留守番の話を口にすると、膝の上に乗っていたユーリが真っ先に手を挙げた。
毎度留守番をさせているので、断るのも心苦しい。それでも捜索されていることを考えれば拠点に置いていくべきなのではないかとハルカは考えていた。この間はノクトが世話を買って出てくれていたが、今回はどうかと思い視線を向けると、ノクトは悪戯っぽく笑う。
「ユーリ、見せてあげましょうかぁ」
「ん」
ユーリはその小さな両手を前に突き出して、薄く目を閉じる。
「水の弾、生れ、集え」
明瞭な発音と共にゆっくりとユーリの前に小さな水球が形成される。それは不定形で落ち着かなかったが、確かにウォーターボールだ。
「飛び、中り、爆ぜよ、示す方向に。いけ、ウォーターボール」
ゆっくりとシャボン玉のように空中を進んだウォーターボールは、次第に勢いを失い、シュオの顔に当たりバシャリと爆ぜた。飛び起きたシュオが首を振ってなんだなんだと辺りを見まわす。
「師匠……、これは」
「そういうわけで、頑張ってますし連れていってあげてはどうですか? どちらにしてもヴィスタでの話を聞く限り、ユーリの捜索は継続されています。どこに居ても見つかるときは見つかるでしょう。であれば多くの経験をさせてあげるのもいいんじゃないですかぁ?」
「ノクト好き」
「ふへへ」
気の抜けた声で笑うノクトは、すっかりユーリに懐柔されているようであった。ただノクトの言わんとすることも理解できる。ハルカだって別にユーリと離れていたいわけではないのだから、言い訳さえできてしまえば反対することはなかった。
「そうですね、じゃあ今回は一緒に行きましょうか」
「やった、ママ好き」
「はい、私もユーリのことが好きですよ。すごいですねぇ、もう魔法を使えるようになったんですねぇ」
目を覚ましたシュオが体を大きく傾けながら、二人を見つめて間抜けな顔をしている。あまり見た目が似ていないので実子でないことは分かったのだが、関係性がよくわからなかった。
「まぁ、いいか」
顔を袖で拭ったシュオはその場に座って、話し合いの邪魔をしようとはしなかった。意外と冷静な男である。
「あの、そうするとここには誰が残るんでしょう?」
「あ、僕が残りますよぉ」
「あたしも残る。まだ素振りがうまくいかねぇ」
心配そうなダスティンに答えたのはノクトとレジーナだった。
ヴィスタに行くときも留守番をさせてしまったのを思い出し、ハルカは少し申し訳ない気持ちになってレジーナに声をかける。
「なんか悪いですね」
「ここはあたしの家でもあるんだ。別にいい」
「……そうですね。それじゃあよろしくお願いします。二人いれば安心ですね」
思わぬ言葉に返事が遅れたハルカだったが、レジーナの言葉が嬉しくて顔をほころばせた。
毎日何も言わないのにあちこちをうろついて警戒していることから、ハルカはなんとなく察してはいたが、ここが自分の家だという意識をちゃんと持っていたらしい。
「ノクト君って戦えるのかい?」
「少しだけですけどねぇ」
抜けたことを言っているダスティンを、サラが横目で呆れたように見つめる。実はコート一家の中で、ノクトがハルカの師匠だと知らないのはダスティンだけだ。サラは普段ノクトから魔法を教わったりしているので知らないはずはない。
「サラより小さいのにすごいねぇ」
「何言ってんだおっさん。そいつ【桃色悪夢】だろ。特級冒険者だぞ、小さいとか関係あるかよ。つーかさっき師匠って呼ばれてたじゃねぇか」
「……シュオさぁん?」
「え、しかし、師匠っていうのはごっこ遊びみたいなものだと」
ノクトが首だけまわしてシュオに釘を刺したところで、ダスティンが他の仲間たちの顔を窺う。全員がさっと目を逸らし、娘にさえ同じことをされ、ダスティンはようやく悟る。
「師匠、そろそろ満足したでしょう」
ノクトに無言で見つめられていたシュオが、圧に負けて目を泳がせ始めたところでハルカがフォローを入れる。
ノクトは肩をすくめて、ため息をつく。
「まぁ、そうですねぇ。子ども扱いが割と楽しくて黙ってました、ごめんなさい」
「い、いいんだノクト君、いや、ノクト君でいいのか?」
「そいつ爺だぞ」
「え?」
「いいんですよ、今まで通りで。さて、イースさんはどうしますか?」
情報処理の限界がきて固まっているダスティンを置いて、ノクトはイーストンに話を振る。イーストンはさっとこの場にいる全員を確認してから答える。
「僕も行こうかな」
「……つーか、何の話してんだおい。うお、なんだあれ、でけぇ竜が飛んできてるぞ、おいこら!」
「ナギですね。うちの子なので大丈夫です」
「はぁ? うぉおおお、でけぇ」
本当に来て早々にレジーナと手合わせをしたシュオは、この場所についてもこの話についても何も知らない。シカを咥えて帰ってきたナギを見て大騒ぎしている。
「シュオさん来てもらって早々で申し訳ないんですが、明日から私達依頼で出かけるんですよ」
「お、おお、そうかよ繁盛してやがんな。じゃあ今日は宴会するぞ、酒持ってきてんだ酒。俺ぁこいつにリベンジするまでここに残るぜ。武闘祭じゃねぇからな、勝つまでやってやんぜ」
「あ、そうですか。じゃあ一応シュオさんも留守番してくれるってことになるんですかね?」
「そいつに勝ったら出てくがな」
「じゃあ一生出られねぇな」
レジーナが馬鹿にしたように笑うと、眉間に青筋を立てたシュオがガンを飛ばす。
「お? やんのかてめぇ、でかい口叩けんのも今のうちだぞ」
「雑魚がうるせぇ」
「言ったな此畜生め、おめぇだって決勝負けたくせによぉ!」
「ぶっ殺す」
教育に悪い言葉を吐きながら、話し合いから二人が離脱する。
「あんまり怪我しないように気を付けてくださいねー」
「……ハルカ、強くなったわねー」
「ねー」
ハルカが念のため声をかける。怪我は心配だが本当に殺すとは思っていない。それくらいにはレジーナのことを信頼していた。
コリンは立ち上がると座っているハルカの頭を両手で撫でる。膝に座っていたユーリもそれに同意して足をパタパタとさせながら笑った。
0時分間違えて今投稿しました……。
ま、いっか!