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私の心はおじさんである【書籍漫画発売中!】  作者: 嶋野夕陽
暗闇の森とリザードマン

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事後報告

 拠点に戻るとすぐにユーリが走ってきて、ハルカにくっついて離れなくなった。そういえばリザードマンの里に向かうときにはちゃんと行ってきますをしていなかったことを思い出し、ハルカは笑ってユーリを抱き上げる。

 夕食を食べ終わった後も、うつらうつらしながらも離れようとしなかったので、焚火を囲いながら膝の上にユーリを乗せて今回の旅の話をすることになった。


 ちなみに、新しく来たばかりのコート一家には先に休んでもらっている。破壊者ルインズの里に顔を出して殴り合いをしてきたなんて、サラはともかく両親には刺激が強すぎるだろうと思っての配慮だ。


「なんというか、交渉というか、交流自体は上手くいったのだと思います」


 ハルカの歯切れの悪い切り出しに留守番組は首を傾げる。上手くいったのであればそんなに渋い顔をする必要はないはずだ。何かしら上手くいかなかったのはこの時点で察していたが、アルベルトが楽しそうに笑いを堪えているのを見て、また何かハルカがやったのだろうと理解して次の言葉を待った。


「えー……。あちらの族長の腰痛を治してですね、王様に会いに行ったんですよ。最初は交流することを突っぱねられたんですが…………。まぁ、色々あって、その、リザードマンの王様をすることになりました。もちろん常駐できないことは伝えていますし、あちらの方たちだけで国がまわるようにしてきたので、冒険者としての活動には支障ないです」

「おうさま?」


 うとうとしてたはずのユーリに尋ねられて、ハルカは苦笑して頷いた。


「はい、王様です。でも今までと何か変わったりしませんよ、安心してください」


 不安がらせてはいけないと思い優しく頭を撫でながら伝えたのだが、ユーリは興奮して目をぱっちりと開けて立ち上がる。


「ママ、王様なの? すごいね、かっこいい」

「えーっと、はい、成り行き上ですが、王様みたいです」


 突拍子もないことを告げられた仲間たちも、それぞれ考えを巡らせていたが、ユーリの言葉を聞いて肩の力を抜いて笑う。


「ハルカさん、王様に向いてなさそうな性格しているけど大丈夫?」

「私だってそう思ってます」

「えーっと、おめでとう? って言ったほうがいいのかな? ……あーあ、私も行けばよかったなぁ、絶対面白かったでしょ。もっと詳しく教えてよ」

「私だってコリンやモンタナを連れてくればよかったって何度も思いました。今度からはちゃんとみんなで行動しましょう」


 もっと深刻な話し合いになってしまう可能性も考慮していたハルカは、二人のいつもと変わらない反応にほっとしていた。コリンはすっくと立ちあがってハルカの隣にやってくると、すぐ横に座り肩に頭を擦りつける。


「そうよね、やっぱり私がいたほうがいいわよね。私がいないと今度はまたどこで王様押し付けられるかわかんないもんねー?」

「いや、本当にそうなので是非お願いします」


 ところで反対側に座っているはずのモンタナがやけに静かなことが気になって、ふとハルカはそちらに目を向ける。するとモンタナは自分の頬をぐにぐにと両手でこねくり回すという妙な行動をしていた。

 何をしているのだろうと様子を見ている間に、焚火の向こう側から変な声が聞こえてくる。


「ふ、ふふふへへ。……お、王様、ふへへ」


 からかいもお叱りもないと思っていたら、ノクトが完全にお腹を押さえて小さくなって笑っている。ハルカは深刻に話していたというのに、ノクトにとっては完全に笑い話であったらしい。

 むっとしながら視線を戻すと、モンタナもさっきの不審な行動をやめてハルカの方を見つめていた。


「大変、だったですね」


 声が少し震えている。モンタナはそれだけ言うと、またぐにぐにと自分の頬をこね始める。そうしてようやくハルカは察した。

 モンタナも多分笑いを堪えている。


「モンタナ、笑っていませんか?」

「……笑ってないです」


 ぱたんぱたんと尻尾が地面を叩くが、笑っていることを認める気はなさそうだ。結構真面目になんと説明するか悩んでいた自分が馬鹿みたいに思えて、ハルカはため息をついた。


「確かに、皆からしたら間抜けな話かもしれませんけどね」


 ハルカの自覚ない拗ねたような言葉に、ノクトがごろりと転がって笑う。弟子の失態を笑うなんてなんて師匠なんだとハルカがそれをじっとりと見ていると、横からモンタナに声をかけられた。


「でも、断れないのもハルカらしいです。きっとハルカになら王様を任せてもいいと思ったんですよ」

「あー……、それは……。でも私は冒険者ですから、いつだって彼らのために働けるわけじゃありません」

「王様より、僕たちと冒険者をすることを優先するってことです?」

「それはもちろんそうでしょう。あと、師匠はいつまで笑い転げてるんですか」


 流石に目に余って声をかけると、ノクトは目を擦りながら立ち上がって「すみませんねぇ」と謝った。心は全く籠っていなさそうだ。

 『もちろんそうだ』という返答に、仲間たちがそれぞれ喜んでいることにハルカだけが気づかない。そんな光景を見ながら、ノクトは目を細めて穏やかに笑う。楽しいからでも面白いからでもなく、弟子の成長を喜んでの笑いだった。


「ハルカさん、成長しましたねぇ」

「何がです? ……そんなお世辞では誤魔化されませんよ」

「ばれましたかぁ。成長ですねぇ、成長」


 昔のハルカだったら、王様という立場と冒険者としての立場に板挟みになって、どうにもならなくなっていたはずだ。それが今では当然のように冒険者としての自分、仲間たちを優先するようになっている。

 相手によって態度を変えるようになったと言えば聞こえは悪いが、これは、ハルカが自分の中で大切なものを順位付けられるようになっているということだ。


 ハルカの中に冒険者ならばそうあるべき姿を見て、ノクトは追及を適当にごまかしながら緩く笑った。



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― 新着の感想 ―
今、2回目のシリーズ読み返しをしてます。リザードマンの里の近辺に温泉が湧いてて、ハルカさんが興味をひかれてたシーンがありますが、その後このエピソードを掘り下げる。もしくは短編話にする予定はありまけんか…
大切なものの優先順位を付ける事にすら抵抗を持っていたあのハルカが・・・ 確かに成長したよね
[良い点] 更新お疲れ様です。 帰って来た仲間が「王様になりました」と報告されたら、された側はもう「お疲れ~」と返すか、ノクトさんやモンタナみたく笑うしかないですよね(笑) しかしモンちゃん、こうい…
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