バッドコミュニケーション
年齢層や雰囲気がバラバラなレジオンの一行だったが、説明されてみれば納得をすることができた。
まず1つ目のグループがコーディ率いる、オラクル教の渉外担当部の一員。コーディと荷物の積み込みをしていた4人がそれにあたる。本人も言っていたが、彼らの責任者であるコーディがこの使節の代表だ。
それから2つ目は積み込みの現場にはいたけど、割と右往左往しているだけだった面々。ハルカはこの人たちのことをどこかで見たことがあると思っていたが、実はここ3年間、オランズにあるオラクル教会に勤めていたそうだ。オランズ歴はハルカより先輩だ。道理で見たことがあるわけである。
協力的である大きな都市には、本部からこういった面々が派遣されてくることになっているらしい。小さな村などになると、地元の信徒に任せることになるそうだが。
なので実はうろうろしていた3人は、コーディ達と一緒に来た3人と交代でレジオンに戻ることになる帰宅組だ。久々に家族に会えると、皆一様に嬉しそうにしている。
3つ目は一番最後に来たグループだ。これは護衛グループで、教会騎士と呼ばれるレジオンにおけるメイン戦力らしい。巡礼やこういった遠征の際に護衛として同道するのが主な任務で、個人個人の実力は高そうだった。
最後にそれと一緒に来たローブ姿の双子。彼らはレジオン神学院の生徒で、まだ十三歳だそうだ。今のところまだ一言もハルカ達とは口を利かず、時折睨みつけるように見てくることもあった。
レジオン神学院はオラクル教の教えと基礎的な学問を学ぶための学校だ。国内の熱心なオラクル教徒であるなら、子供は神学院に通わすというのが一般的らしい。神学院の生徒は卒業前にオラクル教徒による遠征に付き添う義務があり、それを終了することで卒業となる。
護衛かあるいは布教活動の補助という形で付き添うそうだが、彼らの場合魔法使いなので、護衛という扱いになるそうだ。
通常十五歳で卒業するところを十三歳で卒業となっている。非常に優秀な生徒なのだ、というようなことを騎士の一人が教えてくれた。
「でもなんか気難しくてな、あいつら。最近の若い者はよくわからねーや」
二十代であろう彼はぼやく。一回りも年下になると話題が合わないことも多いだろうから、気持ちはわからないでもない。しかし最近一回りどころか、二回り以上年下の子たちとパーティを組んでいるハルカとしては、複雑な心境だった。
ハルカは一番後ろを歩く二人の様子を見る。退屈そうな、何もかもが気に食わないといった表情をしている。金に近い茶色の髪は後ろが少し刈り上げられて、どこも均一に切られている。お洒落な坊ちゃん刈りとでも言えばわかりやすいだろうか。
しばらく使節団の大人たちとたわいもない話をしていると、後ろの方から声が聞こえてきた。アルベルトが二人に話しかけたようだった。流石パーティの特攻隊長だ。
「なぁ、お前ら名前なんて言うんだ? 俺、アルベルト」
「レオ」「テオ」
「え? 何? 一緒に返事されるとよく聞こえねえんだけど」
アルベルトがそう言うと二人は舌打ちをして黙り込んだ。
おそらく年下であろうと気づいているアルベルトは、ぎりぎりとこぶしを握り締めながらそこから離れた。なんとか理性が働いたらしい。ずんずんとワザと足音を立ててハルカの下へ歩いてくる。
「……我慢したんですか、えらいですね」
「……っかつく!!」
息が漏れ出すような音で、むかつくと言いながら地団太を踏む。ハルカは初めて本物のそれを見て目を丸くした。
アルベルトは直情的なのだ。ハルカはそこがいいところでもあると思っているけれど、性格の相性というものはある。
「なになに、どうしたの?」
コーディにどんな基準で木材を選んだのか尋ねていたコリンが、面白そうな気配を感じたのか、小走りで戻ってくる。
アルベルトをからかうかやめておくか判断に迷っており、二人の顔を交互に見た。まずは事情を聴くつもりだ。
「あいつらが全然しゃべらねえから声かけてやったのに、舌打ちしやがった」
「ふぅん、あんたが変な態度とったんじゃないの?」
「名前聞いたら同時にこたえて聞き取れなかったから、聞き返しただけだ。そんなことで舌打ちするかよ」
「あー、それはちょっと感じ悪いかも?」
アルベルトに同意しながらも、コリンは少年たちの様子を観察する。それからにやにやしながらアルベルトに言った。からかうことに決めたらしい。
「ま、私みたいな可愛い女の子が行けば、ほいほいしゃべりだすと思うけどね。ねー、ハルカ?」
「え、あー、はい、そうかもしれませんね」
「じゃあやってみろよ、ぜってー無理だから。すごすご帰ってきたら笑ってやる」
あの双子はそういうタイプじゃなさそうだったが、否定するのもコリンに失礼な気がしてハルカは曖昧に同意する。アルベルトはというと、イライラした様子のまま、コリンを馬鹿にしたようにそう言った。
「あんたね、見てなさいよ。もしうまくいったら、どうするつもりよ」
「どーせ無理だっての。あいつらとちゃんと喋れる奴がいたら、なんでもしてやるよ」
「いったわね、こいつ……」
このやり取りを後ろの双子も見ていることを教えてあげるべきかどうかハルカが悩んでいるうちに、コリンは顔に笑顔を張り付かせて向かっていってしまった。そして言葉を発する前に舌打ちされて帰ってきた。
アルベルトが全力で相手をバカにした顔をして、彼女を出迎える。
「結果はどうだったんだぁ?ん?」
体を折り曲げて、顔を覗き込もうとするアルベルト。先ほどの彼同様にこぶしを握り締めているコリン。
「あ、アル、やめたほうが……」
「ぐえっ」
手を伸ばしてやめさせようとした瞬間に、アルの腹部に鈍い音と共に強烈なボディブローが突き刺さった。流石に反応できたようで、多少は腹筋を固められたようだったが、じわじわと広がる痛みにアルベルトはその場にしゃがみこんだ。
「……怒ってる人を挑発しないほうがいいですよ」
「こ、こいつだって、いつもやるのに……」
涙目でコリンを指さすアルベルトに、コリンはふんっ、と鼻を鳴らした。
ハルカは所在なくのばされた手をぐーぱーしてから、しゃがんでアルベルトの背中を撫でてやった。