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絡み酒

「そういえば、学園に居ましたが、サラさんってまだレジオン神学院の生徒でしたよね?」


 サラは誇らしげに胸をそらし、リュックサックの重さで後ろに転びそうになる。ハルカは片手でそれを支えて戻してやる。


「ありがとうございます。あの後色々がんばりまして、今年から飛び級で学園に入学しました」

「それは、すごいですね……。元々普通の期間で卒業する予定だったんでしょう?」

「はい、でもハルカさんの下僕としてはそれではいけないと思いました! そんなことよりハルカさん。学園長がさっき特級冒険者って言ってましたよね!」


 期待いっぱいの視線を向けられて、ハルカは苦笑する。


「ええ、つい最近そういうことになりました。あまり大きな声で言っちゃだめですよ」

「はい、気を付けます」


 口を押さえる姿は子供らしくて可愛らしい。

 何が彼女をここまで一生懸命にさせているのか、ハルカにはわからない。それでも別れてからの期間相当な努力をしてきたのだろうことを察してしまった。

 よく見てみれば目の下には慢性的な隈ができているように見えるし、髪の毛も前にあった時よりパサついている。元々ふっくらとしたタイプではなかったが、今は少しやせすぎだ。

 目だけがぎらついていて、誰か近くにいる大人が諫めなかったのかと心配になってしまう。それから原因である自分にそんなことを思われるのも心外かもしれないと自嘲した。

 

 ハルカはサラの肩に手を置いて、治癒魔法を使う。できるだけ目立たないように、ばれないようにと思って使ったのだけれど、違和感を覚えたのかサラは首を傾げた。

 顔色が少し良くなったけれど、頬がこけているのは変わらない。このまままた一年半放置して、次に会いに来た時に病気になりましたなんて言われたら責任を感じてしまう。

 周りに居る大人によく見てもらうようお願いしなければいけないとハルカは思っていた。


「サラさんは大荷物を背負っていますけれど、一緒についてくるつもりでしたか?」

「はい。連れていってほしいです」

「そうですか……。とりあえず食事は……」

「あれ、もしかしてハルカさんじゃないっすか!?」


 横から突然大きな声で呼ばれてハルカは振り返る。見たことある軽薄そうな表情は神殿騎士の一人、フラッドだった。顎にうっすらと髭を生やしており、以前よりもちょっと渋い面持ちだったが、その軽い口調は変わらない。


「お、隊長、誰っすかその美人! 紹介してくださいよ!」


 一緒に酒を飲んでいる若い男達がハルカを見て随分と盛り上がっている。酔っているので仕方ないと思いながら、ハルカは笑って返事をする。


「フラッドさん、奇遇ですね。隊長ということは出世されたんですか?」

「ええ、今じゃ俺もいっちょ前の隊長っす。おーおー、コリンちゃんは相変わらず可愛くて、モンタナ君はちっちゃいね! アルベルト君は……、うお、でか。なんだお前」

「フラッドさんは変わらないですねー」


 褒められたコリンはご機嫌に返事をするがモンタナは無言だった。アルベルトが自分より大きくなっていることに気がつき驚いているフラッドは相変わらず失礼だ。


「隊長、紹介してくださいよ、紹介!」

「うっせ、金やるから余所で飲んでろ。俺は今からこの人たちと飲む!」


 ブーブーと文句を言う部下たちを追い払ったフラッドは、空いた席を叩いてハルカ達に座るよう促した。どこに食べに行くかも決めていなかったので、特に断る理由もない。


 それぞれが席に座るのを見ながら、フラッドは顎髭を擦り、首をかしげる。


「なんか……、随分隙が無くなったっていうか、もしかしてかなり強くなった?」

「おう、背も抜いたしな。今やり合ったら俺が勝つぜ」

「言うじゃんか。身長と一緒に態度まででかくなったんじゃないの? 望むところだー、って言いたいところだけど、お兄さん今日はもう酔っ払ってるからなー、残念だなー。万全だったらわからせてやるんだけどなー」

「言ってろ酔っ払い」


 へらへらと笑うフラッドは、アルベルトの挑発に乗る様子はない。最初の旅の頃から軽い態度の男だったけれど、その分任務中にも堅くなることなく、十全に力を発揮するタイプだったように思う。

 どこまでもマイペースに力を発揮できるフラッドは、案外頼りになる上司なのかもしれない。文句を言いながらもちゃんと言うことを聞く部下達を見ていると、そんな風に思えた。


「何しにこの街に来たんすか? あ、ちょっと待ってくださいよ、当てちゃおうかなー」


 完全に酔っぱらっているフラッドはハルカ達を両手で指さしながら一人一人の顔を確認し、元気良く手を挙げた。


「はい、わかった。そこのサラちゃんをスカウトしに来たんでしょ。いやぁ、有名なんすよ。神子で最近急に頭角を現した子がいるって! 前はあの生意気な双子が有名でしたけど、ここ一年じゃその子も負けてないっすからねぇ! でもねぇ、神子だからなー、勝手に連れてっちゃうと怒られるかもなー?」

「神子だと何か普通と違うんですか?」

「そりゃあそうっすよー。神子っていうくらいですから、うちの国でできるだけ保護しておきたいってもんです。俺はそういう複雑な話よくわかんねっすけど、多分簡単には連れてけないっすよ」


 事情をよく知らなかったとはいえ、随分と無責任な約束をしてしまったのではないかと、ハルカは顔を顰めた。酔っ払いの話にそれぞれ考えるところがあったのか、全員が一斉に黙り込んでしまう。


「……あれ、俺なんか変なこと言いました? どすか、正解でした? はずれ?」


 フラッドの能天気な声だけがテーブルの上を滑る。


「サラさん、親御さんの許可は?」

「…………」

「取れていないんですね。それでは、連れていくのは難しいのは分かりますね?」

「……でも」

「え、あれ? ちょっとなんかまじめな話すか? もしかして俺邪魔っすかね?」


 アルベルトが立ち上がり、フラッドに声をかける。


「真面目な話聞いててもしょうがねーし、向こうで飲もうぜ」

「おっおっ、酒飲まないって言ってなかった? もしかしてアルベルト君、お酒飲むようになったの? ぷぷ、潰れちゃっても知らないよーん?」

「うっせー、奢れよな」

「仕方ないなぁ、人生の先輩がアルベルト君に、酒のなんたるかを教えてやろう」


 フラッドが先行して歩いていくのを確認して、アルベルトが振り返らず告げる。


「俺まじめな話苦手だし、あいつと飲んでくるわ」

「すみません、ありがとうございます」

「別に。たまには酒飲んでみてーし」

「おい、こっちこっち、まずはー、葡萄酒だな!」


 立ち去ったアルベルトの背中を見て、コリンが呟く。


「やるじゃん」


 その表情は穏やかで少し誇らしげだった。


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― 新着の感想 ―
[良い点] サラちゃん、いくら行きたくてもせめて断ったり相談したりしたらどうだい…? いや、そうすると監禁でもされちゃったりしちゃうのかな? [一言] 更新お疲れ様です!
2022/12/24 10:50 退会済み
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