空の旅に行きましょう
イーストンが合流してから、更に一月ほどが過ぎた。
数日前に誕生日祝いをしてもらい、そろそろ何かしなければと思い始めたところだ。拠点の完成までにはきっとまだ数か月かかる。その間ただここにいるだけでは、時間がもったいない。
この世界に来て丸二年。北方大陸はぐるっと回ったから、今度は遺跡に潜ったり、南方大陸に足を延ばしたいところだったが、この間のアンデッド騒動のせいで、タスクが増えてしまった。
積極的にやらなければいけないことは、コーディにリザードマンたちについての話をすることだ。今から空を飛んでコーディの住む〈ヴィスタ〉に向かってもいい。飛んでいけば往復でも十日前後で戻ってこられるはずだ。
ただ問題があるとすれば、コーディが必ずしも〈ヴィスタ〉に滞在しているとは限らないということだ。彼は国の渉外部署に務めているし、そうでなくても各地を飛び回ることを好んでいる。
初めてハルカ達に出会ったのが十一月だったことを考えれば、時期的に今はまだ旅に出ていない可能性が高い。
軽く考えをまとめてから、ハルカは朝食のために集まった仲間たちに相談をする。
「一度、コーディさんに会いに行こうと思っているんですよ」
ハルカはぐるりと周囲を見てから、誰もいないことを確認して、声を潜める。
「……リザードマンの件と、様子を見てイースさんを紹介するために」
「そっか、そうだよねー。でもさ、ここの建築してくれてる人の護衛もいるよね。誰か残るか新しく人を雇うかしないといけないかも」
「そうですよね……。空を飛んでいけば、往復しても十日くらいのものだと思うんですが」
「……手紙でよくねぇ?」
ハルカもそれは考えていたが、問題は手紙が確実に届くかどうかだ。竜便を使えば届かない方が珍しいのだが、万が一途中で紛失したり、誰かにみられては困る話題だ。
ハルカはこの世界においてのオラクル教の影響力がどれだけのものか計りかねている。ただ、北方大陸の大きな街に、必ずその支部があることを考えれば軽視はできないはずだ。
またオラクル教が破壊者をどれだけ敵対視しているかも問題だ。
「……仮にその内容が教会の偉い人に見られた場合どうなると思いますか、師匠」
「そうですねぇ……。冒険者としては活動し辛くなるでしょう。それに、コーディさんの立場はかなり悪くなりますねぇ。最悪失職、この場合国からの追放をされるかもしれません」
想定通りの答えではあった。アルベルトは「まじかよ」と呟いて驚いているようだったが、他はそんなものかと納得している。
「僕はお留守番しててもいいですよ。立場を考えれば、ユーリも僕と一緒にお留守番ですかねぇ」
「……一緒に行きたい」
「そうですね、でもユーリはまだ戦えないから我慢です。お留守番の間、一緒に魔法の練習をしましょう」
「…………うん。ナギは?」
「ナギは留守番……かな。じゃないと街に入るのが難しそう」
「あたしもここに残る」
ナギとユーリがしょぼんと頭を下げる中、レジーナが声を上げる。一緒に行くとばかり思っていたのに、どんな心境の変化なのだろう。
「いいんですか?」
「訓練する暇あんまねぇだろ。こっちで型の訓練する」
変わっていなかった。
そう言ったレジーナは金棒を担いで、話し合いの場から立ち去った。
前にクダンと訓練してから、レジーナは真面目に素振りをしたり、全体の動きを見直している節がある。元々能力が高いから、折角追いついてきたアルベルトがまた少し離されたと、最近悔しがっている。
「一応確認ね。僕のことをなんて紹介するのかな?」
「……なんて紹介しましょう。全部を伝えるとするのならば、破壊者と人の混血で、人に友好的な国の王子、になるんでしょうか?」
「相手にあまり期待を持たせるのは荷が重いなぁ……。混血、くらいまでで止めておかない? 信用できる相手なのか、僕もちょっと様子を見たいんだ」
「あ、そうですよね……。というか、そもそも紹介する所までは良いんでしょうか? リザードマンの話がメインなので、無理にその話をする必要はないんですが」
「いや、大丈夫。ハルカさん達が信頼してる相手なら」
「……好奇心優先の人です。教義に則って突然裏切ることはないと思うですよ」
「モンタナがそう言うのなら、そうなのかな? でもまずはお話だね。僕も僕だけの話じゃないからさ」
「わかりました、仲間としての紹介にとどめます。後の話はイースさんにお任せということで。えーっと、他に留守番したい人は、いたりしますか?」
「一緒に行くー」
男二人も黙って頷く。
これでいつものメンバーと、イーストンの五人旅だ。
「じゃあ、どこを経由するか決めましょう。地図を持ってきますので待っていてください」
ハルカは地図を持ってきてみんなで覗きこむ。
遺跡を覗いていきたい。帰りはここで買い物をしたい。あそこの食べ物がおいしかった。全員で相談するのがとても楽しい。
異世界三年目。すっかり冒険者としての心が出来上がったハルカは、明日からの旅に向けて胸を躍らせていた。
実はここから第二章です。
さー、特級冒険者になったので、これからまたワイワイ冒険者をやっていきますよ。





