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アンデッド掃討作戦会議・前

 翌日の朝、会議のためメンバーが全員集められた。

 元々ハルカ達が勝手に拠点にしていた場所に、全員が泊まっていたので、声が聞こえる範囲に集合しただけだ。昨日と違うのは、支部長がその場にいることくらいだった。

 夜のうちに連絡をやって、時間に合わせて顔を出してもらったらしい。いるからといって何を喋るわけではなく、進行役はラルフに一任しているようだ。むすっとした顔で、腕を組んで目を閉じている。


「支部長からの話によれば、街と森の間を封鎖する程度の冒険者は揃えられたそうです。このまま何も対策をしなければ、数日中にはこの辺りにもアンデッドが現れ始めるでしょう」


 ラルフは淡々と説明するが、それはあまり良いニュースではなかった。集まっている冒険者達も厳しい表情を浮かべている者が多い。


「精鋭で探索を繰り返し、積極的にこちらから仕掛けるという手もありますが、それだと事故も出るでしょう。また、アンデッドがここに辿り着くまでに、全てが狩り切れるとも思えません。封鎖をしている冒険者達にも、きっと被害が出ます」

「おいおい、朝から暗い話を聞きに来たわけじゃねぇぜ。何か良い作戦はねぇのかよ」


 三級冒険者チーム【抜剣】のアンドレだった。ベテランの冒険者でもある彼は、肩を竦めておどけた調子で言い、空気を明るくする。終始難しい顔をしていたラルフも、ふっと微笑んで息を吐いた。


「そこで、皆さんにアイディアをいただけないかな、と集まっていただいたわけです。支部長がアンデッドについていろいろと調べてきてくださったので、何か気になることがあれば質問も受け付けます。しばらくしたらまた声をかけますので、それまで話し合ってみてください」


 それぞれがざわついて仲間たちと相談を始める。ハルカ達のチームで口火を切ったのは、いつも通りアルベルトだった。


「全部集めて、まとめてぶっ倒すのがいいんじゃねぇの?」

「アルにしては良い案かも」

「どうやって集めるです?」

「……大きな音立てながら森の中歩き回ればついてくるんじゃねぇか?」

「ありな気はしますね。アンデッドって音に反応するんでしたか?」

「生前耳が聞こえていれば、聞こえるはずです」


 ハルカ達が頭を悩ませている横では、ユーリとナギも、一緒になって神妙な顔をしている。

 よそ見して何も考えていなさそうなのは、ナギの頭の上にいるトーチだけだ。トーチは周囲が穏やかな時だけ、モンタナの傍を離れてこうしてナギの頭に乗っかる。少しでも騒がしくなると、すぐに安全な場所である、モンタナの袖の中に帰ってしまうのだが。

 

「は、ハルカ殿」


 ピンと背筋を伸ばしたカオルが、少し声を震わせながらハルカに向かって話しかけてくる。目線が同じくらいにあるので、女性としてはかなり背が高い方だ。やけに緊張しているのに釣られて、ハルカまでも姿勢を正しくしてしまう。


「昨日の助け、本当にかたじけない。拙者カオル=カジ、微力なれど、何かあればこの身を投げうっても恩を返す所存。昨日の夜に伺った時には、もう休まれていたので、この場を借りて深くお礼を申し上げます」

「はい。ご丁寧にありがとうございます。昨日も申し上げましたが、あまりお気になさらずに。これから仲良くしていただければ、私も嬉しく思います」


 カオルの後ろでは、二人の堅いやり取りを見て、エリが苦笑している。


「ああ、もう! はい、ハルカ手を出して、カオルも!」


 ぺこぺこと頭を下げ合うのは、ハルカとしては慣れたやり取りだったが、コリンにはじれったかったらしい。「いえいえ」「こちらこそ」と数往復したころで、腕を取られて握手させられてしまった。

 この世界の人相手にだと慣れたものだったが、やけに日本人っぽさを感じさせるカオルとの握手は、なんだか照れ臭かった。お互いに照れていると、コリンが呆れたように声を漏らす。


「二人とも見た目が凛々しいんだからさぁ、もっとカッコいい感じでいなよー」

「ママかわいい」

「そうね、かわいいね」


 ユーリがハルカのことを褒めると、諦めたコリンは、ナギに寄りかかって適当に同意した。エリが首をかしげて尋ねる。


「ハルカっていつもこんな感じなの? 随分表情豊かになったわよね」

「最近ずっとこんな感じですよー。最初会った時は、話しかけるのもドキドキするくらいかっこよかったんだけどね」

「なんか、すみません」


 ハルカが謝ると、コリンは慌てて手を振ってハルカの右手に抱き着いた。


「あ、違う違う謝らないで! 今のハルカもかわいくていいの。それに昨日助けに来てくれた時とか、すっごいカッコよかったし。かっこいいのが似合うっていうだけで、今の方がハルカっぽくて好きかも」

「えーっと……、はい、ありがとうございます」

「どうでも良いけど、そろそろ話し合い再開するんじゃねーの……、あ、モンタナ、ずるいぞ!」


 興味が無さそうに、気の抜けた顔でラルフの方を指さしたアルベルトが、突然大きな声を上げた。何事かと思いモンタナの姿を探すと、ユーリと一緒にナギの上に乗っかっていた。

 トーチもモンタナの頭の上に移動して、目を閉じて日光浴している。静かにしていると思ったら、こっそりとナギの上に登っていたらしい。


「交代しろ、交代!」


 途端に子供っぽくなったアルベルトが抗議を始めると、ナギが首を回してモンタナと見つめ合う。「がう」とナギが鳴くと、モンタナはこくりと頷いた。


「アルは重いからだめみたいです」

「ぜってーそんなこと言ってねぇだろ!」

「僕はいつもご飯持ってきてるからいいって言ってるです」

「……わかった、今度から俺も狩りに行く」


 動物は家族の中で、人の立ち位置を順位づけると聞く。もしかしたらナギも集団の中での順位付けをしているのかなぁと、ハルカはぼんやりと思っていた。だとしたら自分がどの位置にいるかはちょっと気になるところだ。


 ラルフが皆に呼びかける声が聞こえて、全員がそちらに振り返る。本格的な作戦会議が始まろうとしていた。



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― 新着の感想 ―
[一言] パーティのママにしろ超強くてヤバいやつにしろどっちみちナギから見たハルカのヒエラルキーはトップだろうなぁ…
[一言] 殲滅する火力は余ってるから後はどうやって余すことなく集めるか、何だよね いっそのこと全部合体して巨大屍肉になれば面倒も無いのにね
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