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夜に消える

 ハルカとモンタナは巨人を見たことがある。その経験からいっても、目の前にいるアンデッドはかなり大きい方であると言えた。

 巨人たちの大地【ディグランド】で最後に討伐したのが、このくらいの大きさであったことを覚えている。


 その巨人は、腕を思いきり振るう。そこには何の躊躇もない。ただそこに生きるものを壊そうとする、無機質な動きだった。


「止めます!」


 意識のある者たちが足に力を込めた瞬間に、ハルカが声を上げた。誰かが飛んで降りてしまう前にきらりと月明かりに光る障壁を張る。

 巨大な拳が障壁を叩き、ドンと大きな音を立てて夜の空気を震わせた。周囲の鳥が慌てて空へ飛び立つ。


「なんでもありですわね」


 いつの間にか一つ下の枝に移動していたヴィーチェが、軽い仕草で空に飛んだ。人が数人乗っても折れそうになかった枝が大きくたわみ、そのまま折れる。ヴィーチェの姿が空に舞って、巻かれた金色の髪が広がり、月明かりに光った。【金色の翼】、彼女の宿クランの名前はきっとそこから来ているのだろうとハルカは思った。

 恐らく空を飛ぶ魔法など使っていないだろうに、ふわりと浮いたような錯覚を覚える。

 巨人の膝に着地したヴィーチェは、そこを足場にしてもう一度飛ぶ。それだけで巨人の身体がぐらりと傾いた。計算ずくだったのか、そうして傾いた巨人の頭が、丁度ヴィーチェの真横にくる。

 肩に着地したヴィーチェは一言呟き、左足を軸にして蹴りを放つ。


「ごめんあそばせ」


 パンッとはじける音がして、巨人の頭がその場から消えた。

 目を失い、何も視界に捉えなくなった巨人は、手足をバタバタと無軌道に動かし、その場にいる他のアンデッドを踏み潰し始める。ヴィーチェは肩を蹴って、又ふわりと浮いて、今度はハルカ達のいる木まで戻ってきた。巨人の頭を一つ粉砕したはずなのに、その足に汚れは見えなかった。

 ヴィーチェが枝に着地するのと同時に、大きな音を立てて巨人のアンデッドが、やはり複数のアンデッドを下敷きにしながら地面に倒れる。バタバタと手足が動かされると、その度アンデッドたちが弾き飛ばされていった。


「つよぉ……」


 コリンが思わず声を漏らす。

 ハルカも何も言わなかったが、目を丸くしてヴィーチェを見た。きっと強いのだろうとは思っていたけれど、いざそれを目にしてみると、想像以上だ。普段変な顔をして、ハルカに対してセクハラをしている人物とは思えない。


「流石、ヴィーチェ殿……!」


 感動しているカオルを見ながら、ハルカは考える。これなら自分が往復するより、下にいるアンデッドをすべて処理して、歩いて帰ったほうが早そうだと。


「あの……、いっそ下のを処理して、そのまま歩いて帰りませんか? 戦力的に難しくはないと思います」

「別に私は構いませんわ。でも、数が数なので、時間がかかるし、万が一もありますわ」

「ヴィーチェさんには今働いてもらいましたから、それは私がやります」


 ハルカはゆっくりと高度を下げて、少し大木から離れる。手の届きそうな場所に降りてきた生者に、アンデッドたちが群がった。わざとアンデッドたちの頭の上を一周し、できるだけ多く引き連れ、ヴィーチェ達から十分な距離を取り、ハルカはまた高度を上げた。

 眼下についてきた全てのアンデッドを捉えたところで、ハルカは下から上へ杖を動かした。本当はそんな動きは必要もないのだが、これは気分の問題だ。冷気が地面から湧き上がるイメージ。より魔法をクリアに想像するための動きでもあった。


 ハルカのことを見上げてゆらゆらと動いていたアンデッドたちの動きが、足元から停止していき、やがて何も動かなくなる。

 ハルカはすーっと頭上を動いてみるが、首を動かしてその動きについてくるアンデッドは見られない。試しに地面に降りて、ヴィーチェ達の下へ歩いていってみたが、それでもハルカに向けて走ってくるものは最早いなかった。


 ハルカは、木の下から仲間たちに向けて声をかける。


「下は今のところ安全です。凍らせたアンデッドに止めを刺したいので、手伝っていただけますか?」


 言っている途中にモンタナとコリンが跳び降りてきて、それぞれハルカの腕をとんと触ってアンデッドの氷像へ走っていく。


「後始末してくる、お疲れハルカ! エリはここに置いていくから、守ってあげてね」

「片づけて早く戻るです」


 それに続いてヴィーチェとカオルも降りてくる。カオルは何も言わずにゆっくりとアルビナの身体をエリの横に並べてから、ハルカの方をちらりと見た。前の二人に続いて、何か言葉をかけようと思ったのだが、目の前で展開された魔法に驚いて、言葉がうまく出てこなかった。


「せ、拙者も行くでござる」


 結局誰に向けて言ったのかもわからないような言葉を吐いて、カオルはコリンたちの後に続いた。


「いつかとんでもないことやると思ってましたけど、もうだいぶ来てますわね。流石はハルカさんですわ! 私感動いたしました」

「あ、私も向こう手伝うので、二人の護衛お願いします」


 何かをしてきそうな気配を察したハルカは、さっと動いてヴィーチェからのアクションを躱した。アンデッドたちの破壊に向かったハルカの背中を見ながら、ヴィーチェは一人呟く。


「ホントに驚きますわ。これからが、少し心配ですわね」


 その言葉は誰にも聞かれず、暗闇に溶けて消えていった。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 何か言葉を書けようと思ったのだが [一言] 障壁ってカッターみたいに飛ばしたり、障壁で囲ってから中を味噌汁用の豆腐サイズに障壁で寸断したりできたら、一瞬でモンスターがサイコロステーキに…
[一言] 師匠のお陰で伸びたところもあれば師匠のせいで自重とか一般的な魔法の使われ方を失念しちゃってるなぁ… まぁ子供(野生動物みたいな)が増えてお母さんぶってるけど元々ポンだしな …ヨシ!
[良い点] 沢山いるアンデッドを倒すのにどういう手法を取るのかなーと思っていたら釣ってから凍らせるとは、ハルカママ頭脳派! 普通に広範囲の障壁でペッタンコにするかなーくらいに思ってました。 [一言] …
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