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 半日ほど森の中を進み、両手で数えきれないほどのアンデッドを討伐した。アルベルトは剣で切る、というよりは叩きつける要領で頭を破壊していた。

 途中から殴るだけでいいのなら棒を使えばいいと気がついたらしく、その辺で拾った棒で殴るようになった。森の中だから手頃なものを見つけるのには困らない。


 ナギのために狩りをして、自分たちも昼食を取る。〈斜陽の森〉は真っ直ぐ抜けようと思っても丸二日はかかるから、周囲を警戒しながらだともっとかかるだろう。真っ直ぐ進んでいるだけでこれだけのアンデッドと遭遇するのだから、相当の数が西進してきているであろうことは、想像できる。

 いったい何が原因なのか。ヒントが無いので、その想像すらもつかない。


「これよー、そろそろでかい集団と当たるんじゃねぇかな」

「一度に出会う個体数が増えてきましたものね。さっきは二体、その前は四体。五体以上だと撤退でしたか」

「五体くらいなら、なんとかなりそうだけどな」

「一応決まりですからね。団体行動で独断は禁物ですよ」

「わーかってるよ。でも、レジーナとか突っ込んでくんじゃねぇか?」

「……いやぁ、流石に約束は守ると思うんですけど。そういえば念押しはし忘れましたね」


 言葉にされると突然不安になってくる。あの金棒を振り回して、アンデッドの集団を薙ぎ倒していくレジーナの姿が容易に想像できた。


「合流した方がいいでしょうか」

「いや、ルートは守ろうぜ。独断は禁物なんだろ」

「そうですね……。信じましょうか」

「だな。そろそろ行くか。ナギ、食い終わったか?」


 ナギが口の周りを真っ赤に染めたまま顔を上げる。ハルカたちから見たら可愛いのかもしれないが、血塗れのその姿は一般人が見たら卒倒するだろう。


「ほら、口の周り綺麗にしましょう」


 ハルカが水の塊を出して、バシャバシャと流してやると、ナギは大人しく洗われている。見た目に反して本当に大人しいのだ。

 食事の前はうとうとしていたユーリも、目が覚めたようで、森に入り始めた時と同様に、辺りを警戒し始めた。


「ユーリはアンデッド怖くねーの? 見た目気持ちわりーけど」

「うん、だいじょうぶ。ママとアルのほうがつよいし」

「そうか。ま、そうだな」


 アルベルトが照れたように頬をかいた。

 子どもの成長に携わったことのなかったハルカは、ユーリの成長に関して、あまり疑問を持たずに過ごしてきた。少し成長が早いような認識はあったのだが、あくまで誤差の範囲だと思っていたのだ。

 しかしレジーナに身体強化の話をされてから、少し認識を改めている。二歳にならないうちにこれほど普通に意思の疎通がとれるのは、やはり変なのだ。

 自分がユーリと同じくらいの頃の記憶なんて、ほとんど残っていない。小学生の頃ですら曖昧だ。しかし、少なくとも今のユーリよりは遥かに幼かった記憶がある。

 もしかしたら、前世の記憶でもあるのではないかと考えていたが、それを口に出すことはしなかった。

 どちらにしても、ユーリが酷い環境で育ってきたことには違いないし、今は自分達を慕って親のように思ってくれている可愛い子でしかないのだ。

 何かの機会にユーリが話してくれるようなことがあればよし。そうでなければ気づかなかったことにして、ずっとこのままの関係でいいと思っていた。


 元々ハルカが索敵が下手なこともあるが、アンデッドを見つけた回数が一番多いのは、アルベルトだった。次点でユーリである。あちこち警戒しているつもりなのだが、どうも他所を見ている間に、仲間が先に見つけてしまう。

 次こそはと気合を入れて探していたが、声を上げたのはまたユーリだった。


「あっち、いっぱいいるね」


 進行方向からやや南に逸れたあたりに、その集団はいた。木が数本密集しており、そこは完全に影になっている。

 アンデッドは基本的には日の下に出てくることが少ないのだ。すぐにどうなるわけではないので、獲物さえ見つければ飛び出してくるのだが、何も無い時は日陰で大人しくしている。

 日が落ちてからは常に動き回るようになるので、夜には警戒が必要だ。

 遠目から見ても十体以上のアンデッドが見える。


 頃合いだ。

 ハルカとアルベルトは頷きあって、地図に印を残し、回れ右した。

 〈斜陽の森〉に入って半日と少ししたところには、すでにアンデッドの集団を確認できるようになっている。これは、すぐに持ち帰るべき情報だった。

 ここが特別集まっているわけでなければ、すでに帰っているチームもいるかもしれない。


 出かけに見逃しているものがいるかもしれないので、帰りも油断せずに慎重に進んでいく。

 どこかからか移動してきたと思われるアンデッドを数体始末して、拠点に戻った頃には、すっかり空が赤くなり始めていた。


 拠点はまだ静かで、なんと驚いたことに、そこには既にレジーナがいた。


「一番早い帰りだったんですね、レジーナさん」

「……わりぃかよ」

「いいえ、悪くないです。無事で何よりでした」

「おーい、ハルカ。報告が先だろ」


 嬉しくなって先に声をかけてしまっていたが、確かに報告が先だ。すでに大きな地図の方に書き込みを始めているラルフの下へ向かい、預かっていた地図を渡す。


「お帰りなさい。レジーナさんもさっき戻ったところで、その印をつけてました。……位置的には、大体レジーナさんが出会った所と近いですね。ここから半日と少しの所まで、アンデッドの集団が迫ってるってことか……ぎりぎりだな」


 地図を受け取ったラルフが、挨拶をしてさらに印を書き足していく。最後の方は独り言のようになっていた。


「ぎりぎりってなんだ?」

「アンデッドは、おそらく夜のうちに移動します。その平均移動距離はおよそ人の三分の一程度。目的もなくふらふら移動するので、必ずしも集団でこの辺りまで到着するわけではありません。とはいえ、森中にアンデッドが拡散するのは時間の問題でしょう。他の冒険者の協力も仰いで、実力のあるもので一掃する必要があります」


 アルベルトの問いに、長い返答をしたラルフは難しい表情で黙り込んだ。事態はあまり良くないらしい。


 日が完全に暮れるまでに、ほとんど全てのチームが戻ってきた。まだ戻ってきていないチームが二つ。エリのチーム、それからモンタナとコリンだった。

 心配でハルカがうろうろしはじめてから、そろそろ一時間が経とうとしていた。

 

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― 新着の感想 ―
ハルカとアルが五体で撤退と話してますが、六体で撤退ですよね?
[一言] ポカミスとか一番やらかしそうにないコンビだからなんかあったのか
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