意見が割れる
ハルカはそっとユーリを寝かせてから、焚き火を挟んでレジーナの前に立った。先ほどの流れからして、多分自分が答えなければいけないように思うのだが、まだ考えがまとまっていない。
いつかクランを作れたらいいとは思っているが、なんとなくの未来でしかなく、近い将来どうこうという話ではない。夢のような話だ。
それなりに気心の知れているトットやラルフ相手であれば、いつかはそんなことがあるといいですね、と返すことはできるが、レジーナ相手にそんな適当な返事はできない。時間が経ってから、まだできねーのかと暴れられたくはない。
というか、仲の良いもの同士が、寄り添ってクランのメンバーになるのはわかるのだが、レジーナがそこに入るというのは、何か違う気がした。
「……あの、クランを作るのは、いつかそのうちの話ですよ? 小さな子供が、冒険者になるんだ、って言っているのと同じくらいの感覚です」
「いや、俺は数年中には作る……」
ハルカの話にツッコミを入れたアルは、途中でコリンに口を塞がれて地面に引き倒された。もがもが言っているが、一度極まった関節技を外すのは難しい。結局コリンに何かを吹き込まれて大人しくなった。
「じゃあ待つ」
「ですから、まだまだ先かも知れませんよ?」
「どれくらいかかるんだよ」
「わかりません」
「半年か? 一年くらいか?」
「あのですね、私たちまだ四級冒険者なんですよ?」
「そんな嘘つくくらい、あたしのこと入れたくねぇかよ……!」
レジーナが地面を拳で叩いて、立ち上がろうとすると、モンタナがハルカの近くまで歩いてくる。懐からトーチが顔を覗かせていたのだが、レジーナが怒りを露わにすると、さっと中に引っ込んでいった。
「本当ですよ。僕たちは、本当に四級冒険者です」
「……モンタナの言う通りです。昨日街に帰ってきたところで、昇級の審査を待っているんですから」
レジーナは、握っていた拳を開く。森の方をしばらく黙って見つめてから、もう一度ハルカの方を向いたかと思うと、また口を開いた。
「……ならお前らのチームに入る」
「それは流石に違いませんか? それに、あなたがクランに入りたい理由も知りません。目的のわからない人物を仲間に入れるのは、抵抗があります」
チームに入ると言われて、ハルカも反射的に言葉を返す。レジーナは確かに圧のある人物ではあるのだが、会話をしていると、子供と話しているような気分になる。
「あたしは、強くなんなきゃいけねぇんだよ。お前らと一緒に訓練してればなれる気がする、だから入れろ!」
静かになったアルベルトとコリンが連れ立って歩いてきて、ハルカの隣に座った。モンタナもそれに合わせて反対側に座る。
「ちょっとたんま、相談するから」
アルベルトがレジーナに声をかけて、ずりずりとハルカの方へ寄ってくる。
「俺、別にあいつが一緒に行動して良いやつなら、チーム入れてもいいぜ」
「アル!? 私は今の仲間以外増やすの嫌! ……かも」
「お前、イースは入れても良いって言ってたじゃんか」
「……う、だ、だからかもって言ったじゃん」
「じゃあ本当はなんで嫌なんだよ」
「それはー……。なんかよく知らないし……、怖いし」
「じゃ、よく知ってて怖くなきゃ入れても良いってことだろ。どんな奴かなんて、しばらく一緒に居ねぇとわからねぇよ」
珍しくコリンがアルベルトに言い負かされた。それを受けて今度はハルカは口を開く。
「私は……、チームは今のままが、良いですね。ユーリの件もありますし……。ただ、クランに、って話でしたら、彼女の目的がはっきりして、素行さえなんとかなれば良いと思いますよ」
「僕も、とりあえず話を聞いても良いと思うです。あの人、一度も嘘ついてないですから」
コリンは難しい顔をして黙り込んでいたが、モンタナの言葉を聞くとため息をついた。
「……一応話は聞いてみる」
「じゃ、ハルカ話せよ」
「……アルが話してくれても良いんですけど?」
「いや、だってあいつハルカにばっか話しかけてるじゃねぇか。気に入られてんじゃねぇの」
「そんなこと……。あれ、確かにそうですかね? あ、でもモンタナにも話しかけてましたよ」
「じゃあモンタナに頼めよ」
二人でモンタナを見たがふるふると首を横に振られてしまったので、ハルカは諦めて声をかけた。
「というわけで、とりあえず理由の方を聞かせてもらいたいです」
「だから、強くなるためだって言ってんだろ」
「それはわかりました。なんで強くなりたいんですか?」
「…………話したくねぇ」
「……どうしてもとは言いませんが、だとしたら我々があなたを受け入れるのは難しいと思います。普段のあなたの素行は、仲間として受け入れるには、少し乱暴すぎます」
「………………じゃあ、そっちの男だけどけろ。そしたら話す」
長い沈黙の後アルベルトを指差して言ったレジーナの顔は、妙に追い詰められているように見えた。ちゃんと話し合いをしているだけなのに、まるでいじめているような気分になる。
「あの、アルが一番、あなたの加入に対して肯定的でしたよ?」
「別にいいぜ。俺理由が聞きたいわけじゃねぇし。そいつが強いの知ってるし、入ったら入ったで良い訓練相手になるだろ。先寝るわ」
アルベルトは気にした様子もなく立ち上がって、いつものようにナギのそばまで行くと、その尻尾を枕に寝転がった。
コリンがレジーナを責めるような視線で見ている。どうも相性が悪そうだった。
「じゃあ私も聞かない。ハルカたちが聞いて、判断して良いから」
レジーナはそれを聞いても何も言わずに、アルベルトの下へ向かうコリンの背中をじっと見ている。凶悪に笑った顔と、怒った顔ばかり印象的なレジーナにしては、複雑な表情をしているように見えた。