表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
357/1450

拠点づくり延期

 話が終わって、部屋から出るのは四人一緒だった。

 レジーナもドロテもハルカも自分から話題を振るタイプではない。自然とラルフが話を振る形での会話となった。


「随分長い旅でしたね」

「そうですね。でも楽しかったですよ」

「以前一緒だった……、師匠は?」

「向こうに残りました。そのうちまた逃げ出してくるようなことは言ってましたが」

「逃げ出す?」

「ええ。書類仕事が面白くないのだそうです」

「真面目そうな方に見えましたが」

「見えるだけですよ」


 ラルフは、ハルカの反応に少し驚いた様子を見せる。これまでのハルカだったら、同意するような話題を振ったつもりが、思わぬ返事が戻ってきたからだ。

 穏やかな表情で答えるハルカは、ノクトに対して悪い印象を持ってそうには見えない。旅に出ていた期間が、ハルカの心を何かしら変化させたのだろうと察することができた。


 ドロテが受付に戻り、そのままギルドから出る。

 モンタナが最初に顔を上げて、お店開きしていた道具を片付け始めると、ナギとユーリも気がついて寄ってくる。


「ママ」


 ハルカは走ってくるユーリが転ぶのではないかと心配して、近寄って抱き上げる。トットが後ろからついてきていて、ラルフの顔を見ると、嫌そうな顔をした。それでも突っかかっていかなくなったのを見ると、二人の間にも何か関係の変化があったのかもしれないと思う。

 ラルフは少しの間目を白黒させて、ハルカのことを見ていたが、やがて声を絞り出すようにして尋ねる。


「……その子、は……。どこかで、預かったんでしょうか?」

「ええ、そうですね。でも家族のようなものです」

「そうですよね、前に別れてからまだ一年も経っていませんし」


 ほっと息を吐いたラルフはじっとユーリのことを見てから、今度はレジーナの様子を窺い、言葉を飲み込んだ。その仕草に気がついたのはモンタナだけだったので、指摘する者は誰もいない。


「その子、賢いっすね。三歳ぐらいっすか?」

「いえ、まだ二歳になっていないと思いますが……」

「三歳にしたって受け答えがしっかりしすぎだと思ったんですがね」

「そうなんですか? ユーリはすごいですね。……さて、私たちはこれからアルたちと合流して、街の外に行きますが、皆さんはどうします?」

「あたしは街をうろついて、喧嘩相手でも探す。そこの馬鹿みたいなのがまだいるだろ、きっと」


 レジーナは馬鹿にするように笑って言ったが、トットが顔を顰めるだけにとどめた。一度負けてる手前か、噛みついたりはしない。実力の差は理解できているのだろう。


「俺は、こいつから話があるって言われてるんで」


 トットがラルフを指さして、仏頂面でそう言うと、ラルフも肩を竦めて答える。


「今話してきた人員に、彼も加えようと思ったんです。もう喧嘩をして実力は見たでしょうけど、どう思います、レジーナさん」

「あー? こいつぅ? ……まぁ、二、三体相手するぐらいならできるんじゃねぇの?」


 ただ殴りつけただけだと思っていたが、ちゃんと戦力評価もできているらしい。気の向くままに暴れているだけでないことに、ハルカは驚きを隠せなかった。


「じゃ、その話もしたいですし、トットも含めて、ハルカさんたちのとこにお邪魔させてもらってもいいですか?」

「別に構いませんよ」

「あ、じゃあ俺、食い物とか買ってくるんで、今日は宴会しましょうぜ!」

「ええ、そうしましょう。お互い積もる話もあるでしょうし」


 知り合い同士で盛り上がっていると、レジーナは黙ってその集団から離れ、歩き出した。

 野放しにすると、あちこちで喧嘩をして怪我人を量産しそうなので、どうしたものかとハルカが思っていると、その歩みはモンタナの横で一度止まった。横目でモンタナを見てから、変な顔をして立ち去っていこうとするレジーナに、声がかけられる。

 珍しいことにそれは、ハルカからではなく、モンタナからだった。


「……レジーナさんも、作戦に参加するですか?」

「……おう、まぁな」


 罵倒くらい返ってくるかと思ったのに、やけに穏やかな対応だった。不思議な目を持つ者同士シンパシーでもあるのだろうかと、ハルカは首をかしげる。


「だったら、一緒にくるといいです」

「あたしが行っても、面白いことなんてねーだろ」

「多分、街で喧嘩相手探すより、いい訓練相手が見つかるですよ」

「…………お前ら、あの魔女と一緒に訓練してんのか?」

「ハルカのことなら、そうです」

「……なら行くか。おい、しゃべってねーで、さっさと食い物買ってこい、雑魚」


 トットは額に青筋を浮かべながら、地面を一回ダンと踏んでから、そのまま足音を立てながら、素直に買い出しに向かう。そして途中で振り返って、レジーナに向けて叫んだ。


「おめぇのためでも、糞ラルフのためでもなくて、おれは姐さんのために買い出しに行くんだからな! 勘違いすんじゃねぇぞ!!」

「良いからさっさといけよ、ぱしりが。またどつかれてぇのか」

「うるせぇ! さっきは油断しただけだ!! あとで吠え面かかせてやっからな!!」


 少し距離を取って心に余裕ができたのか、往来に響き渡る声で怒鳴り散らしてから、トットは走り去っていった。これは後でまた治癒魔法が活躍することになりそうである。

 そのトットと入れ違うように、遠くにアルベルトとコリンの姿を確認して、ハルカとユーリは一緒に手を振る。


「あるー、こりーん」


 迎えに行きたそうにしているユーリを、ナギの上に乗せてやる。一応障壁で落ちないように囲ってはいるので、心配はないはずだ。ユーリが背中を叩き、二人の方を指さすと、ナギは一声鳴いてどたどたと歩き出した。襲い掛かるわけではないのだが、街を歩く人がさっとナギから距離を取る。

 またあとで怒られそうだと思ったハルカは慌てて、その後を追って横に並んだ。


「ハルカー、ごめーん……。なんか今、アンデッドが出て危ないから、仕事受けたくないって言われちゃった」


 そばに寄ってきて、しゅんとした声で謝ってくるコリンを撫でると、すりすりと肩に頭をこすりつけてくる。

 ユーリと合流したアルベルトは「そろそろ俺も乗れねぇ?」と言って、ユーリに腕でバツを出されていた。


「その話、こっちでも進展があったので、ちょっと相談させてください」

「え、なになに、なんか依頼?」

「ええ、そうです。詳細は、皆で食事しながらということで」

「わかったー! ……わっ」


 近寄ってきているレジーナの姿を見つけて、コリンが悲鳴を上げる。小さな声で「あの人、なんでここにいるの?」と聞いてきた。


「なんか、今日一緒にご飯食べるみたいですよ」

「……えぇえ、よく仲良くなれたね」

「なんか、話の流れでそういうことに」

「へぇえ、意外といい人なの?」

「…………イメージ通りの人ですよ」

「あ、そうなんだ……」


 少しの沈黙ののちに、全員が合流して、一行は街の外へ向けて歩き出す。全員の距離感が微妙なせいで、全体的に会話がぎくしゃくしている。少しずつレジーナのストレスが溜まってきていることが分かり、ハルカは内心ひやひやしていた。

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
雑魚って...言われて〜
モンタナがノクトに言われた事を実践してる(おお トットは良いキャラしてるな(存在感はラルフ青年に勝 ユーリがアルに✕出してる所はかわいいな(確信
[一言] >「へぇえ、意外といい人なの?」 >「…………イメージ通りの人ですよ」 ヤンキーということだな つまり雨の中子猫を拾ったときだけ良い人認定できると
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ