暴力!
肉片をそのまま放置しておくのもなんなので、一応穴を掘って、きちんと埋めてからその場を離れた。野生動物が掘り返してしまって、病気が蔓延しても嫌なので、それなりに深くまで埋める。
今後アンデッドと遭遇したときにはどうするか、そんな相談をしながら街へ向かう。オランズは他の地域よりアンデッドの出現率が高いから、冒険者ギルドに相談すれば、対応のためのノウハウはあるはずだ。
結局初見の出来事に遭遇すると、すぐに戸惑って対応が遅れてしまう。その瞬間を過ぎれば、どうするのが最適だったのか思いつくのだけれど、それでは手遅れになることもあるだろう。
ハルカは自分の対応力のなさをなんとかしたいと思っていたが、普段から考えているだけでは咄嗟に身体が動かないのだ。戦いでの反射的な対応というのは、天性のものなのだろうと痛感する。
さっきのアンデッド対処も、仲間たちの誰にやらせたところで、自分よりうまくやったに違いないと思うのだ。今回のように自分が一番に戦いに臨むことができる機会は貴重だ。
対人間の意識を奪うことを重視しているのと同じように、他の生き物に対しても、まずは拘束を優先するといいのかもしれない。捕まえてしまえば、あとはどうとでも料理できるのだから。
障壁を張る、凍らせる、足を落とす、こちらを認識している能力の阻害をする。そろそろもう一度、魔物や破壊者の詳細について調べておこうと考えるハルカであった。適切な対処のためには、正しい知識が必要だ。
街につくと一行は二手に分かれた。伝手のある大工との交渉をコリンとアルベルトに任せて、ハルカとモンタナは冒険者ギルドへ報告に向かう。大急ぎでもないので、ユーリも地面に降りて、自分の足で歩いている。森の中で一人で歩くのはまだ怖かったが、街の地面くらい均されていれば安心だ。
まだ二歳にもなっていないユーリだったが、その成長は目を見張るものがある。しっかりと歩けているし、自我もある。受け答えもちゃんとしていて、子供と話しているような気がしない。
それでもかわいいかわいいとハルカたちが猫かわいがりするものだから、実はユーリも子供らしさを演じることを忘れ始めて、今はただ、自分の思うがままに行動している。甘えていいと理解してからは、すっかりみんなに甘えているから、そこだけは子供らしいといえた。
横並びで歩いていると、ナギはたまにユーリのことを気にするように、首を曲げて顔を窺う。それは他の仲間に対しても同じなのだが、特にユーリに顔を近づけているときは、子供がくい殺されるのではないかと街の人はひやひやしていた。
冒険者ギルドが近づいてくると、何やらガタイのいい男たちが、壁を作っている。悪い奴らではないが、いわゆる冒険者らしく気の短い奴らだ。大体が、ハルカのことを姐さんと呼ぶ連中だ。
昨日はあまりギルドにいなかったが、いったいどこからあんなに湧いて出てきたのだろうか。皆で連れ立って依頼でも受けていたのかもしれない。服装が薄汚れているところを見ると、その線で間違いなさそうだ。
あまり教育上よろしくない集団であるのは知っていたので、ハルカはその集団を避けるように冒険者ギルドへ入ろうとする。
その瞬間、冒険者たちがどよめいたかと思うと、その頭の上を飛び越えて、大きな影が飛んできた。このままだとナギかユーリにぶつかるので、ハルカはその巨体を受け止める。
致命傷とまではいかないまでも、胸部にはそれなりにダメージ入ってそうだ。即座に治癒魔法を発動してから地面にゆっくり下ろした。
トットとの久しぶりの再会は、碌でもないものだった。
またいったいどんな人に喧嘩を売ったのだろうかと思っていると、冒険者たちが作った壁が割れて、一人の女性の姿が目に入った。
顔の傷、棘付きの金棒とグローブ、三白眼に咥えタバコ。
「喧嘩売った度胸は買って、手加減してやったぜ。感謝しろや、三下ぁ」
金棒を自分の身体に立てかけて、煙草に火をつけたレジーナは、ぐるりとギャラリーを睨みつけた。そうしてやっとハルカの姿に気がついたようで、しばらくじっと見つめる。一息で煙草を根元まで灰にして、雪崩のような白煙を吐き出した。
「あんたなんでここにいるんだ? そいつ知り合いか? それなら身体強化が下手だからちゃんと教えてやれよな。それとも相変わらず秘密主義かよ」
「お久しぶりです、レジーナさん。トットさんは友人ですが……、いったい何があったんですか?」
「あ? 入口の前でたむろしてて邪魔だから、ケツ蹴飛ばしたら喧嘩になった」
あの一件以降態度を改めていたトットだったから、まさか自分の時のように絡んだってことはないと思っていたが、案の定だった。前と同じなのは、返り討ちにあったという点くらいだ。今回に限ってトットはあまり悪くない。
「まぁ、怪我は治りましたし、いいでしょう。皆さんも、依頼の帰りのようですし、ここで集まっていないで報告しましょうね。ほら、どうぞ中へ中へ」
ハルカがそこにいる者たちを促すと、これ幸いとばかりにほとんど全員がギルドの中へと吸い込まれていく。レジーナもそれをつまらなそうに見送って、その場に残ったのは、気絶しているトットとハルカたちだけになった。