表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
329/1451

そんな奴ら

 次に入ってきた若者は、頭に長い耳のついた獣人だった。茶色く長く、天に向けて伸びるそれはきっと兎のものだ。とてもかわいく見えるはずのその耳だったが、眉毛がそられており、目力が強いので、全体を見ると全然かわいくない。ひん曲がった口は、なんとなくこの男の性格を示しているように思えた。


 ややがに股で歩いて入ってきて、顎をくいとあげて、ソファに座る三人をしばらく見下ろしてから、乱暴に椅子に座る。ハルカの方を見たときに、一度舌なめずりしたのが、印象に残った。

 ハルカとしては、そもそもチンピラという人種が苦手だ。あまり縁のない暮らしをしてきた。しかしこの世界に来てからは、意外とそれっぽい人たちとの仲も良好ではある。

 オランズでトット、ドットハルト公国ではオクタイ、ついでにリオルもややそっちよりだ。あまり偏見を持ってはいけないなと思いながら、表情を変えずにその男の方をじっと見つめた。


「はい、ではジャックさん、少しお話をしましょう」


 座るのを待ってから、ノクトが口を開く。ジャックはそれに対して手のひらを前に突き出して、口を挟んだ。


「待った」


 ジャックは背もたれに寄りかかって、ずるりと尻を座面からずらし、姿勢を崩す。そうしてまた顎を上げて、ノクトのことを睨みつける。そうしてたっぷりと間をあけてから、かかとを床に乱暴に叩きつけて、しゃべりだす。


「まずよぅ、俺っちはシャンクの街の顔役なんだ。何年も待たせた上に、面接するったぁ、どういう了見だ。三つ指ついて、頭下げて迎え入れるのが、筋ってもんじゃねぇのか?」


 これは中々癖のある相手だと思いつつ、ハルカは表情を変えずにジャックを見つめ続ける。不思議とやはり、怖くはない。戦力分析が明確にできるようになったわけではないが、締まり切っていない体つきをしているのは分かった。魔法使いだとしても、この距離からであれば、詠唱されているうちに接近することができる。問題なく勝てるだろうというのが、ハルカの感想だった。


「ったく、ここの親玉はとんでもねぇ奴だって聞いたから来たのに、お前みたいな気の抜けた奴だとは拍子抜けだぜ。へらへらしやがって。あげくよぼよぼの爺と、若い女連れて、いいご身分だな」

「はい、では、ジャックさんが加入する理由を教えていただけますか?」


 相手の言葉に一つも返事をせずに、にこにこと笑ったままノクトが尋ねる。怯まないノクトに気分を害されたのか、ジャックは椅子のひじ置きを拳で殴った。


「おうおうおう、なめてんのかよ、このジャック様を」

「んぅ、今は僕が質問をする立場なんですよねぇ。別にどんな態度をとっていただいても構わないんですが、質問に答えていただかないと、判断もできないんですよぉ」


 ノクトの間延びした口調に、ジャックは椅子を倒して立ち上がった。黙っていろと言われていたので、ハルカは動かずにノクトの様子を見る。ノクトは深くソファに腰を沈めたまま、右手の人差し指で、トントンと自分の太ももを叩いた。

 部屋の中に突然ピリッとした空気が流れて、ハルカは身体を緊張させた。

 ジャックはそれに気がつかないのか、肩を怒らせて近づいてこようとする。


「ジャックさん。僕は、あなたが、ここに加入する理由を、聞いていますよ?」


 穏やかな話し方には聞こえるが、いつもと違い少しトーンが下がっているのをハルカは感じた。

 

 相手に言い聞かせるように細かに切られた言葉が、ジャックの肌に鳥肌を立てた。イラつきのままに暴れてやろうかと思っていた心が、急速に冷え込んで、その場に立ち尽くす。

 ノクトが指を動かすと、勝手に椅子が動いて元の位置まで戻った。

 おそらく透明な障壁を使って動かしているのだろうけれど、ジャックからしたらその動きは不気味に映ったはずだ。理解しがたい何かの力が、自分のすぐそばで働いているというのは、気持ちが悪い。


「俺っちには部下もいる。ここの名前を使えばもっと大きなこともして、利益を上げてやる。だから俺をこの宿クランに入れろ」


 ジャックは一瞬だけ元の位置に戻った椅子に目を向けて、それから床を踏みつけるような歩き方で、ドアへ向かう。そうしてドアノブを掴もうとして、見えない結界に阻まれた。


「おい、なんだこれ!?」

「つまり、加入する理由は宿クランを使って、お金儲けをする、ですね?」

「いいから、出しやがれ。ざけんじゃねぇぞ、あんまり舐めた真似するとただじゃ済まねぇぞ!」


 ドアの前に張られた障壁を蹴りながら文句を言うジャックに、ノクトはまた尋ねる。


「そうだ、金だ! あと権力をもっとこの街に集めてやる。わかったらさっさとこれをなんとかしやがれ!」

「はい、ではお帰りくださいねぇ」


 障壁を蹴り続けていた足が、ドアに当たり大きな音を立てる。分厚く丈夫なドアだったから、壊れたりはしていないようだったが、外に待機している人は驚いただろう。

 ジャックは慌ててドアノブを捻って外へ飛び出し、開けっぱなしにしたまま廊下の奥へと消えていった。


 外で待機していた宿のメンバーが、顔をのぞかせる。


「次の方を入れても?」

「ええ、どうぞ」


 その女性は、中であったことを何も聞かずに、自分の仕事のことだけを聞いて、次の人に声をかける。流石にノクトの仲間だけあって肝が据わっているようだった。


 次の面接者が入ってきたとき、ハルカはため息をつきそうになるのを辛うじて堪えた。


 クマさんの可愛らしいお耳の真ん中には、とさかのような見事なモヒカンが鎮座している。昔世紀末の漫画で見たことのある、今にもヒャッハーと叫び出しそうな見た目をした人物だ。

 彼は当然のようにハルカたちにガンを飛ばしながら、乱暴な足取りで入室し、わざと音を立てて椅子に腰を下ろすのだった。


 まだまだ面接は終わらない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
もふもふランド……もふもふランドじゃないんですか? どうして…どうしてw
[良い点] 自由な風潮の国、と言われれば聞こえは良いけど やはりそれに応じて無法者っぽい人間の割合も増えるんだよねー(アメリカとかもその例) 果たして面接者が何人落とされるのか?まさかあのチンピラリ…
[良い点] いやー相変わらず毎回の更新が楽しみです。これだけ毎回毎回ワクワクして更新を待っている作品は久しぶりです。 この面接でも一悶着ありそうだしノクトの怖さがわかりそうだしで期待が高まります。 あ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ