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睡眠の重要性

 ウーに案内されて、テーブルと長椅子がたくさん置いてある場所についた。


「飯とってくるか。誰か手伝ってくれ」

「あ、はい、いきます」

「僕も行くです」


 ハルカが名乗りを上げると、隣にいたモンタナもそれに続く。モンタナの頭の上には、大竜峰で捕まえてきた火竜がのっかっている。たまにこうして外に出てきて、モンタナの手から餌をもらっている。

 ぐでっと安心しきった姿を見る限り、よくなついているのだろう。トーチと名付けて、かわいがっている。


「そりゃあトカゲか?」

「火竜です。トーチっていうですよ」


 モンタナがお腹を撫でてから、頭をトントンと指で軽くつつくと、トーチの口がぱかっと空に向けて開けられ、小さな火の玉をボッと吐き出す。


「お、こりゃ確かに竜だ。そんくらいならかわいいもんだな。俺は南方大陸出身なんだがな、あっちには巨大な地竜がいるんだぜ。背中に森ができるくらいのでかいやつだ。動いてるところ見たことねぇけど」

「それ生きてるんですか?」

「呼吸してるから生きてるんだろうな。流石の俺も怖くて脳天ぶったたく気にはなれなかったぜ。……そもそもどこが脳天だかわかんねぇんだけどな」


 そういってガハハと笑ったウーは楽しそうだ。見た目が怖いからか、役職があるせいか、ウーが通ると兵士たちは道を空ける。後に続くハルカたちが何者なのか気になって視線を向けるが、ウーにそれを尋ねるような強者はいないようだった。


 食事は大鍋で作られたシチューと、固めのパン。

 パンはこの駐屯地で焼いているようで、中々おいしい。ハルカとしては満足だった。変わった食べ物が出てこなかったのは少し残念だったが、それは高望みだろうと思う。


 食事も終わり、本陣の端の方で依頼についての相談をする。

 ノクトはもとより好きにしたらいいというスタンスだったので、相談すべきは仲間たちだ。


「えー、まず理由はさておき、受けてもいいと思っている人は手を挙げてください」


 車座になりハルカが第一声を放つと、三人が同時に手を挙げた。


「……私もいいかなと思っていたところなので、満場一致で依頼は受けると。魔法を試したい、戦闘に慣れたい、ついでに高収入というのが賛成の理由です」

「俺はもっと強い巨人見てみたい。あと戦ってみたい」

「同じくです。戦う経験はどんどん積みたいです」

「私は単純にお財布の話かな。戦闘は任せるつもりだし」

「…………話終わっちゃいましたね。報告に行きますか?」

「日も暮れたし、明日でいいんじゃねぇの」


 確かに偉い人を訪ねていくには失礼な時間な気がして、ハルカはその意見に同意した。時間もかからず先のことが決まってしまい手持無沙汰になった四人は、立ち上がってそれぞれ体を緩く動かし始める。


 いつもの習慣で流れのままに訓練をし始めようとしたところで、本陣の中心部の方から一つの灯が近づいてきた。しばらくすると暗闇からぼんやりと、ヴェルネリ辺境伯の姿が近づいてくる。後ろにはウーを伴っていた。

 ヴェルネリは片手をあげて、先ほどよりも随分明るい口調でしゃべり始める。


「ここ最近睡眠不足で効率が落ちていたようでな。あの後集中して処理に取り組んだら、明日の分まで仕事が終わったのだ。どうせ明日になればまた仕事が増えるのだがな。せっかく自由な時間ができたので、こうして羽を伸ばしに来た。……座っても?」


 そう言って焚火の周りを指さしたので、ハルカたちは道を空けて頷く。ウーはその後ろで槍を片手に立って、ハルカたちに言う。


「お前らも座れよ」

「お前が言うことではない。しかし遠慮せずに座るといい」

「結局座らせるんじゃねぇか」


 ウーが愚痴をこぼしたのを黙殺して、ヴェルネリはハルカたちが焚火を囲うのを待っていた。全員が座ると、ヴェルネリはまず、後ろの方でユーリと一緒にいるノクトに目を向けた。


「先ほどは視界が狭まっていて気づかなかったが、そちらにいるのは【月の神子】ノクト殿ではないかと思ってな。以前そちらの宿クランである『月の道標』へ、ディグランド攻略のために協力の打診をしたのだが、なしのつぶてでな。責める気はないが、どうなっているのかお尋ねしたかった」

「それ、いつくらいのことですかねぇ」

「三年と三月前だ。それ以降も是非お招きしたいと思い、寄子の貴族家に捜索と招待の依頼を出していたのだが、どうも芳しくなくてな。先日ヘドリック男爵より、見つけたのに《《取り逃がした》》、と報告されて謝罪をしたいとも思っていたのだ。最近鞍替えしたばかりの男爵家であったせいで、私の要望がうまく伝わっておらず、不快な思いをさせたのではないかと」

「あぁあ、いましたねぇ」


 ヘドリック男爵、オランズを出るときに撒いてきた兵士たちの所属先だ。清高派の貴族ではなく、ヴェルネリ辺境伯の寄子だったらしい。とはいえ、思い出しても楽しいような人たちではなかったので、ハルカも撒いたことに後悔はしていなかった。


「『月の道標』から返事がないのは、私がもう五年くらい本拠地に帰っていないからでしょうねぇ。ヘドリック男爵の件はお気になさらずに。それから協力についてはお断りしますぅ。この旅において僕は依頼人でしかないですからねぇ。僕の機嫌を気にするよりも、そちらにいる僕の弟子のハルカさんにお願いごとをしたほうが有意義ですよぉ」

「なるほど、【月の神子】殿に弟子がいたのか。道理で尋常ならざる治癒魔法だったわけだ」


 依頼を受けるつもりだったから良かったが、こんな風に話を振られて、断らなければいけなかったとしたら、結構精神を削られていたはずだ。今後の方針をまだノクトに話してなかったのに、随分なキラーパスをしてくれたものである。













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― 新着の感想 ―
[良い点] このままハルカの治癒魔法の効果が世間に広まってしまうと、師匠と同じように大陸全土の貴族から身柄を狙われる事になりそう… まぁハルカの実力的には返り討ちにすれば済む話ではあるけど、優し過ぎ…
[気になる点] あれ?主人公の回復魔法って稀有なんだっけ? 師匠も同じことできるんだっけ? [一言] 師匠的にはこういう人種との交渉やふれあい、この後の戦闘も成長につながるからね仕方ないね
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