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卵泥棒

「戦闘に耐えうる飛竜っていうのはね、人を数人のせて飛ぶことができるんだ。火炎袋から強力なブレスも吐くし、そもそも鱗が丈夫で生半可な攻撃を通さない。……本来さっきの中型飛竜だってそうなんだけどね」

「確かに解体するときのうろこは結構硬かったよな。剣が通じないってほどじゃねぇけど、気を付けないと表面が滑りそうだった」


 アルベルトはポケットから鱗を取り出して、中指の背で、こんこんとそれを叩く。硬質で金属を叩いたときのような音がした。

 それからアルベルトは、真っ二つに割れた鱗も取り出す。


「そんでこれが、ハルカの魔法が当たった場所の鱗だ。魔法使いとは戦いたくねぇな」


 アルベルトが指先でそれをハルカの方に飛ばす。キャッチしたハルカは、一応それをポケットにしまい込んだ。


「魔法っていうのは、練度によって威力が異なるんだよ。飛竜の鱗を切り裂くようなウィンドカッターは、もう別の魔法と言ってもいいと思うけどね」

「ふーん、普通はどんなもんなんだ?」

「魔素を纏っていない人体の骨を断てれば上出来かな。それはともかく、中型飛竜の卵は持って帰るの? 今向かうと、多分さっきので巣に帰ってる奴らに袋叩きにされるけど」

「大型飛竜の卵を狙うんだろ? だったら通り過ぎてもいいんじゃねぇか?」


 アルベルトの言う通り、余計な戦闘をする必要はないだろう。卵なんていくつも持って帰れるようなものでもないし、無駄に奪っていく必要もない。


 とにかく山頂付近を目指すことを決定したハルカ達は、魔法についての話をしながら、足を動かす。ここに入ってから、イーストンの口数が増えたような気がする。

 竜についての質問をすることが多かったから、その流れで話し慣れてきたのかもしれない。彼の話は確かな知見に基づいたものが多く、年上と話しているような錯覚に陥る。


 しばらくそうして進んでいると、どこか遠くから人の叫ぶ声が聞こえてきた。

 爆発音がして、まず空に浮かび唸り声をあげて威嚇する竜の姿が見えた。声がどんどん近づいてきて、遠くに逃げ惑う人間の姿が見える。装備を見る限りおそらく冒険者のパーティなのだろう。一番前に何かを抱えた、足の速い男。それに続くように大男が女性を担いで走っており、最後尾に襲い来る飛竜の爪を大剣で受け止めている男がいる。


「おいおいおい、はやくはやくはやくうて、なんでもいいから早く撃てって!」

「ひっひひひひ、ひのやっ! 焦らせないで! あともっと揺らさないように走って!!」

「無茶言うな、なんかあれだ! 詠唱省略とかしたらいいだろ!」

「簡単に言わないでよ!!」

「いいから、なんでもいいから早くしろって!!」

「ああもう! 風の刃! 生れ! ウィンドカッター!」

「よしよしよしよし」


 小さなウィンドカッターが顔に当たり、飛竜はその場にズドンと落ちるように着地し頭を伏せた。その身体は少し震えている。


「お前最高! 今だ逃げろ逃げろ逃げろ!」

「よっしゃ、なんか知らないけど上手くいった! 逃げろ逃げろ! ほら、早く走って!」

「揺らすなとか早くしろとか、注文が多いんだよお前は!!」


 男たちが逃げていく間に、地面に伏せた飛竜がそーっと顔を上げて、様子を窺い、体が傷ついてないことに気が付いた瞬間、怒りの咆哮を上げた。ウィンドカッターを恐れた自分が許せなかったのかもしれない。

 低い高度に飛び上がり、猛然と男たちを追いかけ始めて、その後頭部に爪を伸ばす。

 最後尾にいた男は舌打ちと共に振り返って、鋭い爪を剣ではじく。


「あー、くそ! 俺が足止めするからお前らは逃げろ」


 大男が足を止めて、魔法使いの女性を下ろす。

 女性もため息をついて杖を構えた。


「はいよろしくぅ! 無事に帰ってこいよ!」


 振り返りながらも足を止めないのは、先頭を走っていた男だ。


「あっ、てめっ! お前無事だったら取り分半分だからな!!」

「よし、死んでいいぞ、無事だったら俺の取り分は酒代だけでいいぜ!」


 割とピンチそうな光景を見て、ハルカ達もアイコンタクトののち、彼らに向けて走っていた。


「助けはいるか!?」


 先頭を走るアルベルトが、卵を抱えた男とすれ違う前に大声を出した。

 ドラゴンの爪に大剣を叩きつけた男が、アルベルトに負けないほどの大声を出した。


「いるいるいるぞ! 誰だか知らんが助けてくれ!!」


 アルベルトがニヤッと笑い、ハルカに告げる。


「今度は俺がやるからな!」

「僕がやるです」


 そう言ってアルベルトより一歩先に出たのはモンタナだった。


「あっ、この! 俺がやるって言ってんだろ」

「早い者勝ちです」


 戦闘をひかえているというのに、より速く走り始めた二人を見て、ハルカは足を止めた。ここからでも魔法の援護はできる。

 二人がやる気満々なら、それに任せてしまおうと思った。


 そうして念のため、ウィンドカッターを展開する。


 飛竜は戦いながらも、遠くから何かが近づいてくるのを見ていた。その中の一人が腕を軽く振るった光景を見て、先ほどの恐怖がよみがえる。ばらばらになった愚かな仲間たちを思い出し、飛竜は甲高い叫び声をあげ、空高くに飛んだ。

 大事なのは我が子より我が身である。


 その速度は冒険者たちを追ってきたよりも、更に速い。

 あっという間に洞窟へ消えた飛竜をぽかんと眺めていた冒険者たちは、その姿が完全に見えなくなると、その場にどさっと座り込んだ。


「いや、今日はいったいなんだっていうんだよ」


 大剣を持った男は、額の汗をぬぐって、疲れた声でそう呟いた。

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― 新着の感想 ―
竜からしたらただただ恐怖の感情しかないだろうな( ̄∀ ̄)
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