答えは?
※今日二話目です
「いてぇな、クソガキ!」
「さっさとこの縄をほどきやがれ!」
目が覚めるや否や暴言を吐ける、その世間に噛みつく姿勢は大したものだったが、そういう脅しは立場が上のものが言わないと効果がない。
アルベルトは白けた目で男たちを見下ろした。
「さっきの奴らもそうだけど、お前ら立場分からねーの? 一応聞いておくけど、お前ら何? 山賊?」
「誰が答えるかよ」
男が器用にアルベルトに向けて唾を吐いた。
アルベルトは深呼吸して、男たちから離れて、ノクトの方へ向かう。
「殺しそうだからパス」
「はぁい」
ノクトがアルベルトとすれ違って、位置を交代する。
ハルカの隣にノクトが並び、その男たちを見下ろしながらノクトが話す。
「賊というのは大きく分けると二種類あります。普通には生活していけない貧しい者が仕方なくなる者の集まりと、普通の社会では生きていけないような悪意に満ちた者の集まりです」
ノクトはハルカを見上げて、笑う。
「この人たちはどちらだと思いますか?」
男たちはハルカとノクトをみて、口汚い悪口や卑猥な言葉を繰り返し吐いている。耳を覆いたくなるような雑言は、ユーリの教育に悪いのではないかとハルカは顔を顰めた。
以前ハルカが初めて人を殺してしまった時の賊は、明らかにもっと余裕のない雰囲気を出していた。目がギラギラしていて、野生の獣のような雰囲気を持っていた。
それに比べてこの男たちの目は濁っていて、欲望に忠実そうだ。
組織だった動きをしているところを見ても、後者のタイプのように思えた。
ハルカの返事を待たずに、ノクトはさらに言葉を続けた。
「答え合わせをしましょうか」
ノクトはしゃがみ込んで、男の言葉を無視しながら話しかける。
「僕の質問に、嘘をつかずに答えてください。答えない場合や、明らかに嘘だとわかる場合は、ちょっと痛い目にあってもらいます」
「ふざけんな、獣人のくせして偉そうに! てめぇ、捕まえてうっぱらっちまうぞ!」
「あなた達が、今までした中で一番悪いことを教えてください」
「いいから縄をほどけって言ってんだろ! 親分が来たらてめぇらなんて」
「答えませんか?」
男の言葉の途中で、ノクトは口をはさみ、人差し指と親指で何かをつまむような動きをした。
男が突然絶叫し、転げまわる。やがて呼吸荒く動きを止めて、得体のしれないもの恐ろしいものを見るようにノクトを見上げる。
ハルカはいったい何があったのかと男の様子をよく見てみるが、何が起こったのかわからない。
「おい、何があったんだよ、どうしたんだ?!」
「お、おい、おい、俺の足、の指は、どうなってるんだ?」
男がもう一人の問いかけを無視して、震える声で冷や汗を流しながらノクトに尋ねる。
「潰しました。ところであなたの今までした中で一番悪いことはなんですか?」
ノクトは眉一つ動かさず、いつもの顔でもう一度尋ねた。男が恐怖で顔をゆがませる。
「答えませんか?」
「ま、待ってくれ!」
再び男の叫び声。
今度はハルカにも見えた。男の右手の指が、何かに圧縮されたように平たく潰れていた。ハルカは口元を押さえて、目を細める。
「障壁は強度を上げて前後から挟むことで、こういった使い方もできます。非常に力の強い相手や、察しのいい相手、障壁を平気で切り刻むような相手には効きませんけれどね。人体の末端をつぶすくらいなら容易いです」
説明を聞くと余計に男の痛みがリアルに想像できてしまって、恐ろしい。淡々と説明するノクトの顔がまるで別人のようにも見えてきたが、これもこの世界の冒険者の顔の一つなのだと、ハルカは自分に言い聞かせる。
「大丈夫ですよ、無実の人でしたら謝罪してちゃんと治しますから。それで、答えますか、答えませんか?」
「おお、た、旅人を襲って、殺して、子供と女を売った!」
「ね、悪い人でしょう? ちゃんと答えたので、治してあげますね。ああ、そうだ、片方だけやるのは不公平なので、もう一人の方にも同じことをしましょう」
「俺も、俺も同じだ! そいつと一緒に殺して売った!」
「……答えたからやらないとは言ってませんよ?」
辺りにもう一人の叫び声が響いた。しばらくすると、男たちはノクトから身を隠すように体を丸くして大人しくなっていた。小さくなっても無駄なのに、傷めつけられるのがよっぽど怖かったのだろう。その姿は親に怒られた子供を彷彿とさせて、哀れにすら映った。
「師匠……、これは」
「やりすぎですか? しかし彼らは自分の利益のために人を平気で殺します。もちろんそれは私たちのこともです」
「捕まえたのだからそれ以上痛めつけなくても」
「これから彼らには拠点に案内してもらわなければいけませんからね。きちんと上下関係を叩きこんでおかないと、すぐに裏切ります。……案内人は一人でもいいですね」
そう言ってノクトが男たちの方を見ると、男たちは自分の方が土地に詳しい、だとか、自分の方が仲間に信頼されているなどと主張し始めた末に、互いに言い争いを始めた。しばらくそれを傍観していたノクトだったが、いつまでたってもやまないそれに、一本人差し指を立てる。その瞬間に男たちはぴたりと言い争いをやめた。
「どうしても二人とも案内したいらしいです」
「……そうですか」
一応作戦通りの流れに、それ以上ハルカは何も言うのをやめた。
兵士は逃がす、ならず者は捕まえて痛めつけて、拠点ごと潰す。
ノクトが大丈夫だと太鼓判を押すので乗った作戦であったが、ハルカは行く末が心配になってきていた。