夕暮れ 帰り道
実は入賞ということで、セレモニーに参加しなくてはいけなかったオクタイとシュオに別れを告げて、ぐずるコリンの手を引きながら宿へと引き返す。モンタナもまた、少し悲しそうな雰囲気を出していることに気づき、ハルカは道中頭を悩ませていた。
アルベルトだけがあきれ顔で「おまえさぁ」とコリンに話しかけようとして、睨みつけられてすぐに黙った。
帰り道の半ばくらいになって、流石にコリンも落ち着いてきたようだとハルカが思っていると、唐突にコリンがその歩みを止めてしまう。
「どうしましたか?」
「おんぶ」
まるで幼児退行したかのように、むすっとした顔でコリンが一言そう言ったので、ハルカは苦笑しながら「どうぞ」と背中を向けた。飛びつくようにハルカの背中にくっついたコリンは、すりすりとその長い髪に頬ずりしている。普段だったらすぐに注意するのだが、今日はそのまま好きにさせておくことにした。
今までコリンがいた右側に、ぴたっと何かが並行してきたので、そちらを見ると、今度はモンタナがすぐ近くで一緒に歩きだす。コリンは放っておいてもぴったり背中に張り付いているので、右手で支えるのをやめて、ハルカはモンタナの頭を撫でた。
その横にアルベルトが並び、何か言いたげに二人を見ている。
なんだろうと目を向けると、アルベルトが口を開く。
「こいつらさぁ……、ここ数日ハルカが師匠のとこばっかり行ってたから、構ってほしいだけだろ」
「……コリン?」
返事はなく、お気に入りの髪の毛をずっといじっている。
「……モンタナ?」
頭にのせられた手を両手で押さえたまま、ハルカの方を向かずに並行して歩き続ける。
これはアルベルトの言う通りみたいだと気づいたのだが、ハルカは何も言わずに、笑ってそのまま歩く。仲間たちからのかわいい愛情が嬉しかった。
「今日はアルベルトが一番年上に見えます」
「俺だってガキのままじゃねぇよ。っていうか、こいつら結構子供っぽいとこ多いぞ」
「しっかりしていると思いますけどね」
「コリンはともかく、モンタナは最近本性見えてきたからな。こいつしょっちゅう俺のことからかうんだ」
「ですですですですー」
会話に無理やり割り込んできたモンタナに、アルベルトは相変わらずあきれ顔だ。ハルカもそれを聞いて、笑っていると、ずっと申し訳なさそうに静かにしていたノクトが、反対側から声をかけてきた。
「……なんだかハルカさん、お母さんみたいですねぇ」
ハルカは日が沈み始めて茜色に染まった空を複雑な表情で見上げ、少し黙り込んでから返事をした。
「お母さんかどうかはともかく、家族みたいな関係でいられたらいいなとは思いますよ」
それぞれの顔を見るのが恥ずかしかったので、空を見上げたままだったが、ノクトがふへへと笑う声だけが聞こえてきた。
背中のコリンはぎゅっとより強くしがみつき。モンタナは頭にのせられた手をぺちぺちと叩いている。ハルカからは見えなかったが、アルベルトは街の風景を流し見しているふりをして、口元をにやつかせていた。
「こんなに信頼できる仲間がいるっていうのなら、私の心配は杞憂でしたかねぇ」
少し寂しそうな言葉は、雑踏に吸い込まれて消えていくほどの小さな声だったが、ハルカの耳はそれを拾うことができた。
「いいえ、お気持ちは嬉しいですよ、師匠」
ノクトはハルカの二の腕に角をこすりつけて、もう一度ふへへと笑った。