成長と、少しだけお別れ
「ところで一つ聞きたかったんだが……、神龍様の言ってた『神に近しい者』ってのはハルカ、あんたのことか?」
話が順調に終わりそうだ、と気を抜いていたハルカに、ライゾウが爆弾を落とす。
その辺りの話は外に聞こえていたらしいので、中に入った人物一覧を知っているライゾウからすれば、想像することくらいはできるのだ。
ハルカはこの【神龍国朧】では名高い武芸者であるライゾウが、手も足も出ずに敗れた相手である。
ならば該当人物がハルカとなるのではないかと考えるのは当然のことであった。
ハルカは天井の木目を眺めながらしばし黙り込んだ後、とりあえず説明を始めてみる。
「あ……。えーと……、とにかくですね、私は何か使命を負っているとかそういうことはなく、普通に冒険者をしているだけなんですが、体が妙なことになってまして……ええと……。いわゆる巫女の方々のように、すごく体が丈夫だったり魔法がたくさん使えたりするんです。それを神龍様が『神に近しい者』と例えて言ったのではないかと思います」
「随分長く考えてたな」
「色々ありまして……。ああ、ええと、私のことには違いないと思うのですが、あまりお気になさらずに、私も正直よく分かっていませんので」
ライゾウは顎に手を当てたまま首をひねり、ハルカを怪しむようにじーっと見つめる。怪しいに違いはないのだが、これ以上の説明をどうしていいやらハルカもよく分からない。
「考えるだけ無駄でござる。戦ったライゾウ殿なら分かるでござろう。その力の全貌を推し量れない拙者たちが未熟なのだから仕方ないでござる」
「ま、悔しいがそういうことなんだろうな」
リョーガのフォローのお陰で話は丸く収まりそうだが、なんだか妙に大きな存在に見られてしまったような気がして、ハルカとしては据わりが悪い。
色々頼んでいるし、これからエニシを任せなければならないのだから、これくらい甘んじて受け入れようと諦めて、ハルカは話を続ける。
「皆さんはすぐに島から発ちますか?」
「いや、俺は折角だから神龍様と話をするつもりでいるぜ」
「私もそのつもりです。こうなったからには、この場で他の国の代表ともある程度交流も持った方がいいと考えております」
「そうですか……」
少し時間に余裕を持って出てきているとはいえ、そうなるとまた、数日はこの島で滞在することになるだろう。
そうなると留守にしている拠点の方が少しずつ気になってくる。
長いこと留守番させることになっているナギも、少々かわいそうだ。
「んじゃ、俺たちは帰るか。もうここにいたってやることねぇだろ?」
「そですね。戻って……、しばらくしたら〈御豪泊〉に顔出してみるですよ」
悩むハルカに対してすっぱりと答えを出せるのがアルベルトの良いところである。
モンタナも頷いて同意する。
ここでエニシの仲間を助けるというミッションが終わり、そしてこれからの予定も決まった。
伸ばそうと思えばいくらだってエニシの傍にいることはできるけれど、どこで切り上げればいいか分からなくなる。
「んー、じゃあ明日あたりかなぁ……」
「明日……」
コリンがちょっと元気のない声で言えば、カーミラも小さな声で呟く。
どうも二人ともエニシとの別れが寂しいのだろう。
特にカーミラは拠点にいることが多く、エニシと仲良くのんびりやっていたものだから、急な別れは堪えていそうだ。
「今生の別れでもあるまい。数カ月すれば顔を出してくれるのであろう?」
「ええ、それくらいには一度」
一方でエニシの方が胸を張ってしっかりと笑ってみせた。
ハルカもそれにこたえてしっかりと頷くと、コリンとカーミラが顔を見合わせる。
別れを渋っていたのには、寂しいという気持ちがもちろん強くあったが、同時にエニシのことを心配してのものでもあったのだ。
エニシの方がこれだけ前向きに別れを受け入れているのを見ると、送り出す方がくよくよもしていられない。
「よし、そうと決まったら今日は夜更かししてお話ししようかなー」
「……そうね、そうしましょう?」
「うむ! まだ話をしていない我の胸に秘めた計画でも披露してやるとするか!」
三人でキャッキャと騒ぎ始めたところで、真面目な話は自動的にお開きとなった。
大広間でそれぞれが勝手に話し、飲み、食べ、そして眠くなった者は眠る。
そんな冒険者らしい祝いだかお別れの会だか分からない騒ぎは、深夜まで続いたようだった。
アルベルトはさっさとその日の素振りノルマを終えて眠ってしまったし、モンタナもちょっとばかりお酒を飲んでぺったりと床に伏せて休んでしまった。
コリンとエニシとカーミラは三人で仲良く喋っていたが、ハルカもイーストンと晩酌をして適当に空いている場所にごろりと横になる。
枕は座布団。
布団なしで寝転がると、畳のい草らしき香りがして、なんだか少し懐かしい気分になった。
寝て起きればエニシとはお別れだ。
でもハルカはそんなに心配していなかった。
エニシは変わった。
頼りになる仲間もついている。
神龍、ヴィレンプトマァレだって、なんだかんだ言いつつ、エニシのことは気にしてくれそうだ。
自分も負けずに、少しずつでも成長していかなければ。
そんなことを思いつつ、ハルカは仲間たちの声を聴きながら、静かに目を閉じるのであった。





