全体の展望
御殿での話が終わったところで、皆で揃って外へ出て、そのまま行成たちがとっていた宿へ向かう。御殿で話し合っている最中に、街へ出ていた巫女たちには触れを出して戻らせてあるので、既に日隠は宿にいない。
一番大きな反応で迎えに出てくれたのはライゾウで、ハルカたちにとっては意外なことに、行成は案外冷静であった。
どうやら少しの時間であってもハルカたちと共に過ごした時間が、行成の器を広げたのかもしれない。ハルカたちの無茶苦茶に慣れただけとも言えるかもしれないけれど。
とにかく、興奮気味なライゾウを押さえ、しばらく待たせてしまったことを謝りつつも、御殿で何があってあんなことになったのかを語っていく。
ライゾウは途中でとんでもないことだと笑ったり驚いたりと忙しかったが、ここでも行成は穏やかに頷きながら説明を聞いていた。
やっぱり大物になりそうである。
「そんなわけで……、ライゾウ殿の〈御豪泊〉で世話になりたいと考えているのだが、いかがだろうか?」
「もちろん、そりゃあ大歓迎だ!」
「……二つ返事だの。頼んだ手前でこんなことを言うのもどうかと思うが……、反対する者はいないのか?」
大丈夫だろうと踏んでの申し出ではあったが、あまりにもすんなりと話が進んで、エニシは思わず心配になって尋ねてしまう。
しかし、ライゾウは楽しそうにどんと胸を叩いて笑った。
「言ったはずだぜ、俺はあんたの力になるために立ち上がったんだ。仲間たちだって俺の考えに賛同してくれてるからこそ一緒にいるんだ。念願叶ったりでしかねぇな」
「……ありがたい。どうかよろしく頼む」
「いいやエニシ様、頭なんか下げないでくれ!」
そんな二人の話に、行成が静かに言葉を挟む。
「てっきり、〈北禅国〉を頼っていただけると考えていたのですが……」
冷静に考えれば、行成の立場としては、今回ポッと出てきたライゾウに良いところを持っていかれた形になる。
ただ、あまり責めるような調子ではなかった。
ハルカたちが留守にしている間に、ライゾウの熱い思いを散々聞かされてきたし、実際に軍事力で言えばライゾウのいる〈御豪泊〉が相当強力であることは、行成だって伝え聞いているのだ。
「いや、それも考えておったのだが……。今は大事な立て直しの時期だろう?」
「仰る通りです。お気遣いありがとうございます」
国の立て直しだけに限らず、行成は国主としてもまだまだ未熟だ。
他国と交渉する上での実績を考えても、〈御豪泊〉に身を落ち着けるのが無難であった。
「もちろん、これからも協力してくれるのならば、密に連携を取っていきたいのだが、二人はどうだろうか……?」
「俺は構わねぇぜ。行成殿は若いのに度胸が据わってやがる」
「そう言っていただけるのであればもちろん。ライゾウ殿と肩を並べられるとは光栄です」
どうやらこの二つの国はいがみ合うことなくやっていけそうだ。
間にいくつか国を挟んでいるが、【神龍国朧】は島国である。
ほとんどすべての国が独自の港を持っており、やり取りをすることに不便はない。
「ライゾウさんに、私たちの方からも提案があるのですがよろしいですか?」
「お、なんだ?」
ハルカが手を挙げて控えめに主張すると、ライゾウがすぐに反応を返してくれる。
この場の立場としては本来、非公式とはいえど、広い国土を持つ王であるハルカが最も上の立場になるのだが、いつだって控えめに控えめに動いているので、あまりそうは思われない。
「〈御豪泊〉に、飛竜が離着陸できる場を用意していただきたいのです。エニシさんは私たちの仲間です。今後も手助けが必要になれば駆け付けたいと考えています」
「おー、なるほど……? まぁ、そりゃあ悪いことじゃねぇんだろうが……、
オウガの奴がなんて言うかな……。いや、あんたらを疑ってるんじゃねぇぜ。ただあいつは結構思慮深いとこがあるからな」
「そっちは拙者が何とかするでござるよ」
リョーガが口を挟むと、ライゾウが目を見開いて顔を見る。
「お、もしかして帰ってくるのか?」
「エニシ殿が〈御豪泊〉へ行くというのならば、知っている顔が一つくらいないと心配でござろう?」
「そりゃあいい。なら説得は任せたぜ、ってことでリョーガ主導で整備しとくぜ」
自分がオウガを説得しないとなれば、本当に何のためらいもないらしい。
オウガはリョーガの父親であり策士だと聞くが、よほど頑固な人物である可能性が浮上してきた。
その辺りはリョーガにうまいことやってもらうしかないだろう。
ハルカはそのまま各地域の利益になりそうな話を続ける。
「助かります。それから……、これはいずれの話になりますが、北方大陸から、【神龍国朧】の北から西にかけての交易ができたらと」
「そりゃあいい、共栄しようぜって話だろ」
「はい、その通りです」
平和のために、共存のために、という目的が一致する国同士なのであれば助け合った方がいいに決まっている。〈混沌領〉をできる限りのことをして守るのは、ハルカにとって当然のことだが、いざという時に頼るべき場所は増やしておいていいはずだとも考えている。
近頃の国をまたいでの活動のお陰か、ハルカは以前よりも少しずつ視野が広くなってきていた。
「これは、まだ勝手に考えていることですが……。南方大陸の【自由都市同盟】とも、交易ができればと考えています。そうなれば、南方大陸、神龍国朧、そして北方大陸に繋がる交易路が出来上がります。きっと〈御豪泊〉の皆さんや、【神龍国朧】のためにもなると思うのですが……」
「なるほどな……、面白ぇ話だ」
いつもぶっきらぼうな態度ばかりをしているライゾウだが、この時ばかりはしっかりと国主の顔つきをして、不敵に笑っていた。





