あちらからの仕掛け
ハルカたちがのんびりと食事をしながら一日を過ごしている間にも、地震が複数回起こった。窓の外を見れば不安そうな顔をしている人もいて、これが異常事態であることがよく分かる。
一行は話し合った結果、少しばかり様子を見ることにした。
これまでの真竜たちの性格に鑑みると、神龍の方から接触してくるのなら、話し合いの余地がある可能性が高い。
期限は明日の夜まで。
明後日以降になると、この下町の様子が、巫女たちによってサイカに報告されてしまう可能性がある。
そんなわけでのんびりと時間を潰していたハルカたちだったが、地震が頻発するばかりで、結局翌日の夜まで何も起こることはなかった。
夜中に行動を起こすために、昼間にしっかりと休んで、夕暮れ時に起き出してハルカたちは行動を開始する。イーストンやカーミラはそこはかとなく調子が良さそうだ。
食事をとって、改めて作戦について話し合う。
今回ハルカたちは、すでにライゾウの付き添いとして覚えられている。
そのため、何かあったとしても〈北禅国〉ではなく、〈御豪泊〉の責任となることだろう。
行成やエニシは申し訳なさそうにしていたけれど、ライゾウは豪快に笑って「望むところよ」と言っていた。もともとエニシの信者であり、サイカのことが好きでないのだから、今更お咎めがあったところで知ったことかということらしい。
むしろ、エニシに恩を売れたことを喜んでいる節があった。
その結果、行成たちは行成たちで、何が起こっても最終的にきちんとサイカに挨拶をして、船で帰ればいいだろう、という話になった。護衛には茂木老人もついているし、オオロウや、元マグナス公爵の護衛である二人もいるので、十分であるはずだ。
一方で、ハルカたちはエニシの仲間たちを救出したら、そのまま一度〈北禅国〉まで脱出するつもりだ。そして大門へ状況の報告をしたら、そのまま大陸の方まで連れ帰ろうという計画だ。
もし〈北禅国〉で行成を待っていた場合、帰りに万が一取り調べ要員がついてきた場合、言い訳が利かなくなる。どうしたって一時は離れておいた方がいい。
食料に関しては〈ノーマーシー〉ですべて解決する話であるし、あの街が肌に合わなければハルカたちの拠点まで連れて帰ってもいい。
とにかく、今晩で行成やライゾウたちとは、一時お別れになるということだ。
がやがやと集まってそんな話をしていると、モンタナが突然立ち上がって、コリンの前へ歩いていき、じっとその顔を見る。
「何、どうしたのモン君、なんかついてる?」
コリンが首をかしげるが、モンタナは無言。
じっとその目を見つめていたが、急に本人も首を傾げた。
その直後、ハルカのこめかみに妙な刺激が走る。
ハルカはこのピリッとしたような独特の感じに覚えがある。
いわゆる、精神的な攻撃を受けた時のものだ。
モンタナは素早く部屋を見回してから口を開く。
「何か、変な魔素の動きがあったです。コリンの目と耳に集まってたから様子見てたら、ハルカの方に移って、消えたです」
「……何かをはじいた感覚がありました。間違いないと思います」
「……考えられるのは、巫女の能力かな。目と耳、ってことは、サイカって巫女と、チヅルって巫女が同時に情報収集しようと動いた可能性がある?」
「魔素、一つだけだったと思うです。二人分は混ざってないです」
イーストンの予測にモンタナが、部屋の中にいる全員が見えるように位置どって首を振る。
「うーん、ちょっとサイカ様の気を引きすぎたかな……」
「どっちにしろ、疑われているならすぐ動いたほうがいいんじゃねぇのか」
「そうでござるな……」
その時にはもうレジーナが部屋の窓を開け放って外を睨んでいた。
出発は宿の出入り口ではなく、窓からと決めていた。
「出ます」
ハルカが窓の外につなげるように障壁を浮かべると、レジーナが即座に乗り込み、部屋に居た仲間たちがそれに続く。
部屋に残ったのは行成たちと、ライゾウたちの一行だけだ。
「お気をつけて……」
「またな」
二人の短い別れの言葉を背中に受けながら、ハルカはすぐに障壁を動かし、御殿を目指す。外はすっかり暗くなっているが、だからと言って目立つような真似をするわけにはいかない。
御殿にはすぐに辿り着いた。
そしてそれと同時に、御殿の木々が軋むほどの地震が起こる。
こうして度々アピールするのであれば、神龍にはいっそ本当に直接声をかけてきて欲しかったハルカである。
何かそうできない事情でもあるのか、と思いつつ、誰もいない外の廊下をぐるりと飛んで、洞窟の方まで差し掛かる。
エニシによればそこには見張りが立っているはずで、夜の王たるカーミラの出番が来るはずだったのだが、不思議と見張りの姿が見当たらない。
「……罠でござるか?」
「どうだろうか……。我が出てから方針が変わった可能性もあるが……」
「とにかくこのまま進みます」
ハルカはそのまま障壁ごと御殿の洞窟に滑り込ませていく。
障壁の幅は初めからこれに合わせて用意していたので、特に問題なく入り込むことができた。
洞窟を抜けて、ついに〈奥宮〉が見えてくると、その入り口には流石に見張りが立っていた。
しかし、何やら建物の中から出てきたものと話をしているようだ。
無理やり突破するかどうするか悩んでいると、再び地面が揺れたようであった。
山の中の空間に嫌な音が響き、ぱらぱらと小石が天井から降ってくる。
生き埋めになるのではないか、そんな不安から出口に視線を向けた巫女とハルカたちの目が合った。
「あっ」
声を上げたその巫女がハルカたちを指さした瞬間、〈奥宮〉が収まる空間に声が響く。
『誰だ、我が眠りを妨げる者は。お前はいったい何者だ……』
事ここに至って、どうやら神龍が目を覚ましたようであった。





