怪しい奴!
落ち着いて話をしよう、ということで、日隠を交えて輪を作り直したところで、カーミラがさりげなくハルカの横に腰を下ろした。
そうしてすぐに、小さな声で耳打ちをしてくる。
「必要と思って少し、魅了を使ったのだけれど……」
怒られるとでも思っているのかなと思いながらハルカが頷くと、カーミラはそのまま話を続ける。
「少しずつ覚めていくと思うの。だから一応警戒をしといたほうがいいかもしれないわ」
「なるほど……」
仲間たちにも共有しておくかと反対側を向くと、モンタナと目が合った。
どうやらきちんと耳を澄まして話を聞いていたようで、こくりと頷く。
カーミラの方から、反対側に座ってるコリンにも同じことを話しているようなので、そのうち全員に話が伝わることだろう。
相変わらず何の役にも立っていない気がする、と思うハルカである。
それからしばらく日隠から話を聞きだしてみる一行であったが、思ったよりも重要そうな情報は出てこない。
分かったことと言えば、エニシに味方した者のうち、いわゆる戦闘能力に長けた巫女は亡くなっている、という話になっているそうだ。
実際のところは、エニシに近しい巫女たちは皆、あれ以来自由に動けなくなっており、誰がどこに閉じ込められているのか、本当に生きているのか死んでいるのかも、ほとんどわからないような状態なのだとか。
ただおそらくは、幽閉されている者たちもまた、必要な時には外にいる日隠たちを人質にとられて、能力を使わされているのだろう。
「……サイカは、目的を話していたか?」
「いえ、私たちには……。一部の大名と密に話し合っていたり、私たちを使って情報収集をしている、ということくらいしか……」
「何か企んでいることには間違いないのだろうが……。あ奴は神龍様のことも、あまり敬っておらなんだし、時折我の方針にも不満を持っておったからな……」
エニシは腕を組んで唸りながら考えこんでしまった。
聞くことも聞いてしまったし、ここから先はまた、様子を見ながら潜入の機会を探るしかないだろう。
その場にいる全員がそんなことを考えていると、ふすまが勢いよくパンッと開けられる。
「おい、新しいの捕まえたぞ」
「あんま乱暴すんなよ」
現れたのは、武器を持っているレジーナとタゴス。
そしてレジーナに背中側の帯を掴まれ、震えながら目を泳がせている女中だった。
「ああ、あ、あ、あの、あの」
「ちゃんと喋らなくて怪しい」
レジーナが鼻息を荒くしているが、ハルカにはその女中がただ怯えているだけのようにしか見えない。
「ええと、どこで捕まえたんですか?」
「見張ってたらビビりながら近寄ってきた」
確かにレジーナにとってはビビりながら近寄ってくる人物というのは不審者なのかもしれない。大抵の相手はビビって近づいてこないので。
「……すみません、一応ご用件を伺ってもいいですか?」
ハルカが丁寧に尋ねると、女中は今にも泣き出しそうな顔をしたまま口を開く。
「あ、あの、ほ、鬼灯磊三様、という方の御一行が、や、宿にいらっしゃいまして、皆さまの下へ案内をしてほしいと頼まれたのですが……、こ、こちらまで、ご案内しても、よ、よろしいでしょうか……!」
息も絶え絶えになりながら言い切った女中は、ポロリと一筋の涙を流した。
「レジーナ、あの、解放してあげてください。普通に用事のある方でした」
「ふーん」
「なんだ、悪いな」
パッと手を放すレジーナと、あまり悪びれもなく一応謝罪をするタゴス。
丁寧に仕事をしようとした女中がこんな怖い目に遭うのはかわいそうだ。
「すみません、怖い思いをさせてしまって……。ライゾウさんは知り合いですので、案内していただいてもよろしいですか?」
「は、はい……!」
逃げるようにして去っていく女中。
〈神龍島〉の中で、〈北禅国〉の評判が悪くなりそうである。
「ええと……、二人はちょっと中に入って一緒にお話ししておきましょうか。ほら、外にいる間に話したことを共有しておきたいので」
ハルカはさりげなく二人を回収する。
今度は目に付かない所でライゾウたちと喧嘩を始めて、宿を壊されても困ってしまう。
レジーナに悪気はないのだ。
別に乱暴したわけでもなく、近づいてきた者がいたから、捕まえて差し出してきただけである。あの様子だとおそらく、女中の方も強面のタゴスと、攻撃的な言動の多いレジーナに、まともに申し開きすらもできなかったのだろう。
ハルカが、後でもう一度ちゃんと謝っておこうと心に決めた頃、案内されてライゾウが部屋にやって来た。
先ほどと同じような気安い雰囲気で来るのかと思いきや、何やら三人そろってしっかりとした正装をしている。ハルカや行成たちは思わず姿勢を正したが、仲間たちは先ほどの様子も見ているのであまり気にせずに、やって来た三人組を眺める。
「わざわざ着替えてきたのか?」
アルベルトがわざわざ口に出して言うと、ライゾウはにやりと笑って答える。
「失礼な格好で来るわけにはいかねぇだろ」
そうしてばっと袴を払ってその場に座ると、ライゾウは軽く頭を下げながら名乗りを上げる。
「〈御豪泊〉が主、鬼灯磊三だ。北城行成殿、この度は懐に迎え入れてくれたこと、感謝申し上げる」
「ご高名はかねがね。あの〈一身槍〉と直接お話ができるとは光栄なことです」
「はは、ろくでもない噂ばかりだろうに。噂の通り、俺は大した出自の男ではないゆえ、無礼はお目こぼしいただきたい。互いに堅苦しいやり取りはない方が助かるのだが、いかがなものか」
「ホオズキ殿からそうおっしゃっていただけるのであれば、私は一向に構いません」
行成が頷くと、ライゾウはパンと太ももをはたいて笑った。
「助かる! 話の分かる奴は好きだぜ」
「このような若輩者に気を遣っていただきありがとうございます」
「おいおい、堅いのはなしにしようって話だろ」
「私はこれが普通ですので、ホオズキ殿はお気になさらずに」
「そうかぁ?」
言われてみれば行成は、ハルカが初めて出会った時から、どこか爽やかで丁寧な好青年であった。
ライゾウとは対照的な雰囲気を持っているが、どうやらこの二人の大名の相性はそれほど悪くないようである。
『私の心はおじさんである』1600話となりました。
この機会ですから、100話ごとくらいにお願いしている、いつも恒例のあれをさせていただきましょう。
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ここまでくると、あまりいなそう





